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世紀末の七星  作者: 広川節観
第四章 闇と光の世界
201/293

201 南を目指す獣帝国

 「姉さん。どうする?」


 7英雄会議のあと、無言のまま部屋に戻った知覧姉妹。部屋に入ったところでレウは、右手でこめかみあたりを擦った。


 「そうね……」


 それだけ言うと、ラウラは大きなため息を吐きだした。


 ふたりに取っては、さっきの会議の流れは予想していた範囲ではあった。しかし、なんとかして説得する、いやできる、いやいやしなければいけないと思っていたのに、それができなかった。


 レイラとキャサリンがあそこまで反対するとは予想外であったのだ。ラウラは俯きながらテーブルに近づき、ゆっくりと腰を降ろして頬杖をつく。


 「右の道へ……進むしかないのか?」


 「右か……」


 今度はレウが大きなため息を吐いた。


 知覧姉妹は大森林にいる昆虫軍に対応する作戦を3つ用意していた。ひとつは正面の道であり、大森林を焼き尽くすこと。もし、それができなかったときには、別にふたつの案があり、それを「右」と「左」で呼んでいた。


 第二案が右の道であり、大森林の北西に標的を絞り、鉄板や網などを用意して周囲3キロを取り囲んで中央部分に火を放つ方法であった。


 そして、第三案の左の道は、白狼軍と協力して、大軍で包囲して、山狩りをするように力攻めで敵の親玉を始末する案である。


 もちろんすべての案で対昆虫軍用の白の防護服を全兵士に装備させるつもりでいた。ただ、第三案の場合は、白狼軍の分を数多く作らないといけないので少し時間がかかるのが欠点であった。もちろん、すでにコッテでは大量生産を進めていて、現在進行形で着々と出来上がっているはずである。知覧姉妹に抜かりはなかった。


 左右の道は味方に少なからず犠牲が出る危険性が高かった。実際北西に行って戻らなかった密偵たちは少数というか、ふたりだったが、完全装備なのにやられていたので、なおさらためらうべき作戦であった。だからレウたちは正面の道を選んだのである。


 やはり森に入るのは危険だ。外側から全部を焼き払い、そのまま焼け死ねばそれでよしだし、もし逃げてきた場合には親玉だけならあっさり葬れる。これが一番安全で確実な作戦なのであった。


 「何か嫌な予感がするわね……」


 「見えない何かに押されているようやな……」


 ふたりは他に完璧な作戦はないのかと必死に頭を回しながら、再び揃ってため息を吐き、呟いたのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 一方、そのころ獣帝国(ビーストエンパイア)の本拠地であるビースト・エレファント城から少し離れた港では、平時には見られないような船団が結成されつつあった。


 普段は漁港として使われている港であったが、どこにこれだけの船があったのかと思えるほどの多数の船が停泊していた。


 波止場では出航の準備を整えるために動き回る兵士たちのがなり声が喧噪を作り出していた。寄せては引く波のおだやかな動きとは裏腹に、続々と集まる出航を待つ兵士たちで、周囲はごったがえしている。


 さらに、空には数名の鷹の獣人たちがいて、周囲を大きく旋回しながら警戒態勢に入っていた。


 この普段なら静かな港に集まった集団は、御前会議で決まった人類との同盟を結ぶべく、南へと旅立つ一団である。


 竜王国に大陸中央部、獣帝国(ビーストエンパイア)の南側を抑えられたために、陸路が使えなくなり、それならばと海路を使って南下するために港に集合した部隊であった。


 部隊を率いる隊長は、第7代皇帝アルゴロン7世の信頼も厚い第一軍将軍カリグ・アイドウランであり、副隊長として第四軍将軍である鷲の獣人マルケス・メッサが就任していた。


 兵士たちは、第一軍(幻獣軍)のなかからは空を飛べるペガサス、ハーピー、グリフォンなどの幻獣が十名程度同行し、第四軍からは、1大隊およそ100名で3大隊が参加するという陣容であった。


 第四軍の兵士たちはいずれも猛禽類の獣人で、なかにはハチクマの獣人たちも30名程含まれていた。


 ハチクマの獣人兵は大森林の昆虫軍に対抗するために特別に用意したものではなく、普通に選ばれただけである。獣帝国(ビーストエンパイア)では、昆虫軍はすでに過去のものであり、全滅したと考えられていたのである。


 昆虫軍を帝国に招聘したメッサ将軍でさえも、昆虫軍が勝手に人類と戦って負けたときには「やはり虫けらだったか」と吐き捨てたくらいであった。当然、生き残りがいるなどとは思っていない。


 南下を目指す部隊のために用意された港に集められた船は、ガレオン船のような2隻の大型船とガレー船のようなおよそ30艘の小型船であった。


 最も大きな船が旗艦とされ、幻獣軍とカリグ・アイドウランが乗船し、もう一方の大型船はマルケス・メッサ将軍が指揮を執る。


 忙しく指示を出し、十分な水や食料を主に大型船に積み込み、ようやく準備を整え終えたメッサ将軍の下にカリグが配下の兵士を伴いやってくる。


 「準備は整ったか」


 「はっ。もう終わります」


 カリグたちを見つけたメッサ将軍が、一礼してから問いに答える。カリグは周囲を見回し満足そうに頷く。


 「ふむ。メッサよ。それで敵との交戦はあると思うか?」


 「いや。ないでしょう。敵も南へ行く我らを見つけても近寄ってはきますまい」


 「ふっ。そうよな。我らとて驚いているのだからな。ハッハッハッハ」


 カリグは自分が考えていたことをメッサの口からはっきりと言われて、声を出して笑った。メッサはそれには追随することなく、別の心配事を話した。


 「ベック・ハウンド城が無事であればいいのですが……」


 メッサの言葉を聞き、カリグは口を真一文字に結び直す。そして、一度腕を組んでから右手をおとがいに当て、南に視線を送った。


 「やつらは無事だ。主力がお前の城へ攻め寄せたんだ。南へは行っていまい。それに、やつらの眼は敗戦が濃厚なときに死んでいなかったしな」


 カリグは少し前に会った白狼軍の姫の使いの者たちの顔を思い出していた。名前は覚えていないが、重臣と姫の側近だという女の顔を。もちろん重臣はゴーム、女はスノウである。


 「ほう。その者たちが白狼軍の姫の使者ですか?」


 「うむ。やつらは恭順の意を示していたのだが、獲物を狙う猛獣のような眼をしておったわ。断れば何をするかわからないといったな。特に女のほうがな」


 「ハッハッハッハ。女は強しということですかな」


 「そうかもしれんな。我らも負けてはいられん」


 「そうですな」


 「「ワッハッハッハッハ」」


 世間話を高笑いで締めくくったカリグとメッサは、準備が整ったことを伝えにきた兵士たちを見つけて表情を引き締める。


 そのあとカリグは旗艦に乗り込み、皆より一段高いことろから出航の合図として大声を上げた。


 「諸君。我らはこれから敵の目を欺き海路で南へと向かう」


 カリグの大声に聞き耳を立てるために兵士たちは手を止め、足を止め、一瞬ではあるが港にはいつもの静寂が戻る。


 「目的は人類との同盟だ! これは皇帝陛下からの命である」


 皇帝陛下というところでカリグにならい全兵士たちが揃って足を鳴らして直立姿勢を取る。


 これは獣帝国(ビーストエンパイア)で兵士たちが皇帝の命で動く名誉を得たときに行う儀式のようなものであった。


 「我らが目指す第一目標は同胞が待つベック・ハウンド城である。それでは行くぞ! 進めーー!」


 「「うぉぉぉぉぉぉぉ」」


 兵士たちの雄叫びが出航を告げる汽笛のような合図となって、獣帝国(ビーストエンパイ)軍の使節団という名の船団は一斉に海上へと踊り出て行ったのであった。


 今日も快晴の中央世界(セントラルワールド)では、出航する獣帝国(ビーストエンパイア)の船団を穏やかな波が迎えていた。

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