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世紀末の七星  作者: 広川節観
第四章 闇と光の世界
200/293

200 俺たちの暮らす世界は……

 蛍の一声で7英雄会議はお開きとなり、俺たちはそれぞれの気持ちを整理するためにも、もう一度ゆっくりと考え直すためにも部屋へと戻った。


 「森を焼き尽くすことが良いことだとは俺も思えない。けどな、俺たちは敵と戦っているんだからな」


 部屋へ向かう途中で、幸介が話し掛けてくる。いつもはあまり会議のことなど気にしない幸介にしては珍しいことであった。


 「まあ、そうだな。でもレイラたちの考えもわからないでもないよな」


 「それよりあれだけの大きさの森を焼き尽くすことなんてできるのか?」


 「そのためにコッテに行ったんだろ」


 「ああ、そうか。そうだったな。またなんか造ったんだな。なら、虫けらたちの脅威を考えたならありかもしれねぇな。それに焼き尽くすなら、ほたるに負担が掛かることにはならないんだろ?」


 「ああ。そうなるだろうな。今日はキャサリンたちが感情的になっていたから仕方がない。なんでかは知らないがな。彼女たちの故郷が森に囲まれているとかなのかとは思ったけど、俺たちはよく知らないしな」


 「おお。そういえばキャサリンは自然が豊かな閑静な住宅地で暮らしていたようだぞ。最初にお前たちと会ったときに、なんか言ってたな。毎朝の森林浴がどうとかと」


 「あははは。お前らしいな」


 「なんだよ、それは!」


 俺が笑いながら部屋のドアを開けようとすると、横からパンチが飛んできたのが見えたので、そのまま半身になって平手で受け止めた。もちろん軽いパンチだったのだが、ちょっと手が痛かった。


 幸介の適当さはさておき、部屋へ戻る途中の会話のなかでキャサリンが感情的になっていた理由の一端はわかった気がした。



  ◆◇◆◇◆◇



 「まあ、俺は難しいことは分からん。あとは任す。俺は寝るぞ!」


 「ふっ。ああ。分かったよ」


 結局、幸介との会話は、最後は俺に丸投げで終わった。苦笑しながらも了承し、俺もベッドに倒れ込み天井を眺めた。


 会議の内容をもう一度、振り返る。たしかに幸介が難しいと言うように今日の会議は頭のなかが混乱するものだった。


 頭を整理をするためにも、順に思い出していくことにしてみる。


 まずは、大森林にいる昆虫軍の生き残りに対して、森全体を焼き尽くす方法を取ることをレウが提案したが、すんなりとは決まらなかった。いつもならレウの言うことはすべて結論となるのだが、今日は違っていた。


 レイラとキャサリンが猛反対したからである。


 たしかに、四国より二回りくらい小さい範囲の大きさの森をすべて焼き尽くすというレウの作戦は、常軌を逸していた。


 幸介がさっき言っていたキャサリンが暮らしていた故郷が影響しているのかもしれないが、キャサリンやレイラがどれくらい自然や森を愛して反対しているのかはわからない。しかし、単純に環境保全という立場から考えても、彼女たちが納得できないのは理解できる。


 ただ、レウたちも森を焼き尽くすことが環境や生態系を著しく壊すことは、当然わかっていて、それでもこの作戦を選んでいた。


 その理由が中央世界(セントラルワールド)が『環境が管理された箱庭』の可能性が高いからというものであった。


 蛍だけはラウラの簡単な一言「ひとつの賭けなの。この世界が広大なのか、それとも箱庭なのかのね」で、レウたちの思惑を察した。理解して、ある意味では同意していた。


 そのあとレウが箱庭であると考えている理由、中央世界(セントラルワールド)には台風や地震などの自然災害と言われるものが一切ないと説明した。


 レイラはここで一応は理解していたようだが、反対姿勢を崩すことはなかった。キャサリンは説明を聞いても無視していたようである。


 すでに混乱していた俺は、彼女たちが感情的になっているのは分かったが、まだ靄がかかっているような感じだった。まずはここからだな。


 えっと。ラウラは賭けと言って蛍が理解した。賭け……。賭け……。何を賭けるんだ? ……そうか、賭けというのは中央世界(セントラルワールド)がもし箱庭ならば、管理している者や意志があるなら、環境破壊は起こらないということか。


 いや、たとえ環境や生態系が破壊されても、元に戻すんじゃないかということか。これが賭けに勝った場合のことだ。


 レウは70%の確率で箱庭だと言っていたが、賭けに勝てば100%になる。つまりは70%で勝てる賭け。彼女たちにはきっと「勝算あり」なんだろう。


 そして、賭けに負けた場合は、何が起こるんだ? 普通、森林破壊を行えば二酸化炭素が多くなり温暖化が進むとかオゾン層を破壊するとか、地盤が悪くなって土砂災害などが多くなるとかだよな。あれっ? オゾン層はフロンガスとかが原因だっけ? まあ、いいや。


 うーん。でも、それって中央世界(セントラルワールド)で起こることなのか? イメージが湧かない……。


 それもそうか。ここは異世界であり、俺たちがこの先ずっと生活するわけではないよ……な。


 いかんいかん。イーニャとニーニャのことを思い出して、忍び笑いが出てしまった……。元に戻ろう。


 そもそもの問題として中央世界(セントラルワールド)が地球のように球体の惑星かどうかもわからないものな。太陽は東から登り西に沈んでいるが、この世界は、この惑星かもしれない異世界は、回っているのだろうか?


 わからない。わかるわけがない話だよな。


 ここまで考えた俺は再びイーニャとニーニャの笑顔を思い出す。この世界、イーニャとニーニャが暮らす世界。本物の猫耳メイドが住む世界。最初で最後の夢の楽園とも言える世界。


 この世界に宇宙というものがあるのなら、そこから眺めてみたいものだ。


 仮の宇宙から中央世界(セントラルワールド)を眺めたら、それはどのように写るのだろうか? やはり青いのか。それとも球体に『7』という字が張り付いているのかもしれないな。


 球体に張り付く『7』大陸のイメージを頭に浮かべた俺は、なぜかその惑星にはもふもふの猫耳が生えてきて、そのまま睡魔に襲われ、おそらく傍から見たら幸せそうな顔をして眠ったのだった。



  ◆◇◆◇◆◇



 一方、ここは大森林の北西。白狼軍の秘密の洞窟を使いすでに入り組んだ迷路のような地下基地を作っていた昆虫軍の女王クイーン・イエロー将軍は、テリトリーのさらなる拡大を目指していた。


 「そう、軍アリちゃん。そこまでは完璧なのね。ふう。これで一安心ね。やつらが狙える距離は3キロってブラウンが言ってたものね」


 クイーン将軍の傍で他の個体よりも大きな軍隊アリの女王が『カチカチ』と強大な牙を鳴らす。中央世界(セントラルワールド)の軍隊アリはもともと地球の種よりも大きく7センチ程度が普通なのだが、その女王アリは15センチ近い大きさであった。


 「いや。まだダメね。ここで油断したからこの前あたしたちは負けたの。もう負けるのはいやよ。そうね……。倍。6キロ。半径6キロまで広げて!」


 首をカクカクと動かす女王アリ。すると傍にいてわしゃわしゃとしていた兵隊とおぼしき軍隊アリたちが一斉に散っていく。


 「はぁ。疲れた。ジャック、肩を……」


 自分の肩を叩きながら、思わず口にした自分の言葉に反応し、一滴の涙を流すクイーン将軍。すぐに気を取り直しパンパンと頬を叩き、泣き笑いの状態で言葉を吐き出す。


 「クックックック。この間、地獄を見せてあげたからやつらは必ずやってくるわ。ブラウン、ジャック。見ててね。あんたたちの仇はあたしが取るわ! キャハッハッハッハ」


 大森林の地下に隠れ怪しく笑う蜂の怪人。


 その周囲には大勢の昆虫たちがいた。地下には軍隊アリの大軍を筆頭にムカデなど地下に住む昆虫たちが、地上にはスズメバチを主体とする数億匹の昆虫たちが蠢いていたのであった。


 ただ、彼女は知らなかった。いや知ろうともしなかった。北東にあるかつて所属していた国の本拠地で彼女たちの天敵であるハチクマの獣人たちが南を目指して旅立ちの準備を進めていたことを。

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