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世紀末の七星  作者: 広川節観
第四章 闇と光の世界
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199 管理された箱庭?

 レウたちがコッテから戻ったその日に七星にエドワード、ダスティンが加わった9人で行われた7英雄会議。


 大森林に巣食う昆虫軍の生き残り。そいつだけは絶対に消さないとならないことを皆が分かった上で、レウはその方法として、手段として、作戦として『大森林を焼き尽くす』ことを提案した。


 しかし、レイラとキャサリンが異議を唱え、困ったレウは俺と蛍へ意見を求めた。


 これまでの7英雄会議にはなかった光景であった。レウやラウラに対して、真っ向から反対意見を述べること自体が珍しかった。ほとんどが分からないことを聞き、それをレウはレウなりに、ラウラは丁寧に教えてくれるという流れが多かったのである。


 レウに名指しされた俺は、答えに戸惑った。


 レウが、レイラやキャサリンたちが考えているような森を焼き尽くすことによる環境や生態系に対する影響のことを考えていないわけはない、と思っていたからである。


 逡巡していた俺を置いてきぼりにして、レウの問い掛けには蛍が先に応えていた。


 「レウさんが、森を焼き尽くす作戦を取ることになった経緯を教えてもらわないとなんとも言えません」


 「俺も同じです」


 蛍がわかりやすく俺が思っていたことを言葉にしてくれたので、まさにその通りだとすぐに乗っかった。


 「ほうか。それか……」


 蛍の答えと俺の同意を受けてレウは考え込む。


 なにがレウにそうさせているのかはわからなかった。怒りを静めていないというか、不満顔でレイラとキャサリンが状況を見つめている。幸介も両手を頭の後ろに回しながら成り行きを見守っている。


 しばし沈黙する場。それを破ったのはラウラだった。


 「それはね。私たちの勝手な思い込みかもしれないけど……。ひとつの賭けなの。この世界が広大なのか、それとも箱庭なのかのね」


 うん? ラウラは何を言っているんだ? 何を賭けているんだ? 広大なのか箱庭なのかってなんのことだ。この世界っていったら、中央世界セントラルワールドのことだろ。それのどこに箱庭って要素があるのだろうか?


 「箱庭ってなんですか?」


 自分で言っていて、何を聞いているのかわからなくなるような問いをしてしまう。皆から何を聞いているんだ? という視線を送られた。違うぞ。箱庭の意味は知っている。ジオラマとかドールハウスみたいな、造られた小さな世界だろ。そういう意味ではなくてだな……。


 などと考えていたら、隣の幼馴染が口元を緩めながらレウの方を見た。


 「ふっ。そういうことですか。分かりました。それなら「あり」かもしれません」


 いやいや。そういうことって、どういうことだよ。蛍には、ラウラのあの説明だけですべてが分かるのか?


 「ほたるまで、何を言っているの?」


 「ほんとですわ。森を焼き尽くすなんて……。わたくしたち人類は第三世界(サフラン)を見習うべきですわ」


 拒否反応を見せていた金髪と銀髪の美少女たちはさらにご立腹のようだし、ラウラが言った言葉の内容は分かっていないんだろうな。それよりも蛍が納得したことにイラだっている。俺の疑問なんてすでになかったことになってしまったし。まあ、仕方がない。えーっと、蛍は理解したようだが、何をどう聞けばいいんだ?


 「第三世界(サフラン)か。しゃーないな。説明するわ」


 俺が聞くべき内容を考えていたら、レイラとキャサリンの治まらない様子を一瞥したレウが、ひとつ肩を竦めてから身を乗り出した。


 「ただしな。これはただの予測でしかない。まだ、なんの根拠もない話やな。そうやな確率的には70%程度やろな」


 レウはもったいぶるように前置きをする。レウたちの7割といえば真実なんじゃないかとかとも思ったが、質問のことは諦めて、大人しく続きを聞くことにする。


 「「変遷」からはじまり、うちらが他の勢力と戦うことになっとった中央世界(セントラルワールド)。誰が造ったのか、誰がこんなことをしたのかは分からんがアナグラム野郎が関わっていることまでは突き止めた。ただ、それは成り立ちの部分であってな、ほんじゃあ、造られた中央世界(セントラルワールド)ってのはなんなんや。これがスタートやな」


 確かに誰が造ったか分からないし、俺たちはこの世界のことをすべて知っているわけではない。それどころか北にある竜王国、最終的に倒さなければならない相手らしいが、それも聞いただけで、確かめたわけでもなければ、どんなところかさえ知らない。


 レウは続ける。


 「この世界には当たり前やけど、大気はあるし、重力があり、水がある。これで、人が生活する最も基本的な環境は整うやろ。そして、空があり、雲があり、星がある。湖があり、川があり、海があり、森もある。そよ風が頬を撫で、常に過ごしやすい季節がある」


 レウはここで一呼吸置いて両手をツインテールに持って行って、くいっ、くいっと引っ張ったあと、強い口調で吐き出した。


 「できすぎやろ! さらに……ない物を上げるともっと明確やな。洪水がない、台風がない、竜巻もないどころか突風さえもない。火山がない、噴火がない、大地が揺れることさえないので、津波も起きるわけがない。雷雨もなければ、雪や雹が降るなんてこともない。およそ、うちらの世界で災害と言われるものは中央世界(セントラルワールド)にはないんや。これはできる限り調べたから間違いないことや」


 ツインテールで遊んでいた手を大きく広げて再び肩を竦めるレウ。皆の視線が、最もこの世界を知るエドワードに集まるが、小さく頷いている。


 「そこから導きだせるのは、なんやと思う? そうや。誰が造ったかは知らんが、この世界は環境を管理された「箱庭」なのか。納得できる答えはこれなんや。ただな空の果てを確かめたわけでも、海の果てを確かめたわけでもないので、あくまでも推測の域からは出られん。そやけどそう思って、夜空を見上げると、まるでプラネタリウムにいてる感覚になるんよ。何万光年も離れた惑星の光ではなく、人工的なちゃちな光ではないかとな」


 レウは自問自答するかのように話を進めて、結論を述べた。


 箱庭? この世界がか……。たしかに、レウの言う通り、見える範囲の空もキャット・タウンで見た海もその先になにがあるかなんてわからない。確かめる方法もない。


 でも、本当に海の先は行き止まりなのか? 星がプラネタリウムのような輝きって、宇宙はなく空にも行き止まりがあるってことか? 中央世界(セントラルワールド)は立方体の箱で、そのなかで俺たちは生きているのか? まるでミリタリー系のジオラマで戦う戦士か、ドールハウスに飾られる人形じゃないか……。


 俄かには信じられなかった。認めたくなかった。納得したくなかった。それでもレウが言ったことを全否定することはできなかった。


 なにか、なにか手がかりになることはないのか? 俺は頭を回す。


 あ、そういえば天気はいつも晴れなのに、水が枯れない。この世界は水に困ったことがないそうだ。前にその理由をエドワードに聞いたら、中央世界(セントラルワールド)にはあちこちから湧水が、それこそ溢れるように出ているので水が枯れることはないと言っていたっけ。


 そのときは「ふーん」と思ったけど、それもレウの言っていることが正しいという証左となるのか。


 普通なら海水や湖水は太陽の熱で水蒸気となり、やがて集まり雲となり、雨となって、また地に戻る。この循環が俺たちの世界の常識だ。


 ほとんど雨の降らない中央世界(セントラルワールド)では、その常識は通用しないのか。太陽光に照らされた水は、あるいはもっと単純に屋外でお湯を沸かしたときの水蒸気はどこへ行くんだ?


 もし、箱庭だと仮定したら、天井に溜まった、あるいは箱の中に溜まった水蒸気はどこへ……。環境が管理されているのなら、これらの水蒸気は地下へ送られ、地下水に変える装置があったりするのか? そして再び湧水として溢れ出てくるとか。


 本当にこの世界は環境を管理された箱庭なのだろうか?


 偽りの雲、偽りの太陽、詐欺まがいの星、はりぼての海と空の果て。それがこの箱庭空間である中央世界(セントラルワールド)なのか……。


 わからない。


 俺はレウが言った衝撃的な事実らしきことに混乱した。


 「レウさん。その話は分かりましたけど、でもあの広大な大森林を消却し尽していい理由にはなりませんよ」


 「そうですわ。箱庭だかなんだか知りませんけど、森を消却するなんてわたくしは賛成しませんわよ」


 レウの話を分かった上でそれでも反対するレイラと、そんなこと知ったことかと反対意見を貫くキャサリン。


 すでに感情的になっていて、これはまとまりそうにないなと俺は思った。


 「レウさん。ここは、いったん時間を置きましょう」


 レイラたちの様子を見てそう言った蛍の横顔は、強さと凛々しさを合わせ持ったいつもの輝きを見せていたのであった。


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