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世紀末の七星  作者: 広川節観
第四章 闇と光の世界
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198 大森林生き残り掃討作戦?

 レウとラウラがコッテから戻った日。当然のように七英雄会議、実際には生き残った昆虫軍への対策会議を行うことが告げられた。いつもの訓練から戻った俺たちにそう伝えたのはエドワードであった。


 レウとラウラは戻ってはいるが今は部屋にいると付け加えながら、エドワードは「私も参加、いや戦います」と拳を握っていた。


 レウとラウラは自分の部屋で食事をし、俺たちは食堂でと別々に夕食を済ませてから会議が行われる予定だ。


 食事が終わりティータイムになったところで真剣な表情なのだが、どこか疲れた影を顔に滲ませたレウとラウラが食堂に入ってくる。後ろからはエドワードとダスティンが続き、いやおうなく場に緊張感が漂う。


 数か月前の昆虫軍と戦う前の作戦会議。それを思い出さずにはいられないメンツである。まあ、あのときには偽フレイムもいたが。


 俺たちは威儀を正して、レウたちが席に着くのを待った。


 いつものように議長席にレウ。右側にラウラ、蛍、俺で左側がレイラ、キャサリン、幸介の席順である。エドワードは幸介の横に、ダスティンは俺の横に座った。


 レウが刺すような瞳で、皆を見回してから口を開いた。


 「大森林生き残り掃討作戦。これがうちらが早急にやるべきこと、やらねばならないことなのは、みな分かっとるやろ?」


 たしかに昆虫軍が生き残っていて、大森林にいるのなら、放置することはできない。やつらの数がどのくらいなのかは分からないが、暴力的な数になる前に叩くしかない。


 しかも、先の戦いで生き残ったやつなら、少なからず……、いやいや違った。人類に対してはひとり残らず滅してもなお滅したりないほどの恨みを持っているのも想像に難しくない。


 やつらの数が先の戦いのような1200億匹までになって南下してくれば、ブルーリバーはブラッド・リメンバーの二の舞になりかねない。やつら、いや少なくとも昆虫たちを操れるやつはこの世界から消さないといけないのだ。


 レウは皆を見回していたが、誰も意義を唱えることなどなく揃って頷く。


 「ほんなら、まずは地図を見てくれ」


 ラウラが持っていた地図を机に広げる。体を前に出して地図を覗き込んだ。ラウラが広げた地図は『7』大陸全体のものではなく大森林周辺だけを拡大したものであった。


 東西、つまりは左右は海まであるが、北はゲック・ハウンド城まで、南はブルーリバーというか、人類の外壁までしかない地図であった。


 他に書かれている地名としては、大森林の外部、北西方面にリーンハルト村。南東方面にキャット・タウンがあった。


 それと中央にある大森林の内部、北西部分から少し入ったところに大きな赤丸が打ってあり、「標的」と書かれていた。


 地名などの文字は達筆だったので、ラウラが書いたんだなと分かったが、この「標的」だけは少し丸まった女の子が描くような字だった。もしかしてこれはレウが書いた文字か? そういえばレウの字って見たことないななどと、俺はよけいなことを考えてしまっていた。


 可愛らしい文字を書いたのかもしれないレウが話を進める。


 「敵はほぼ間違いなくここにいる」


 「標的」の部分を指差してから、レウは言葉を繋いでいく。


 「しかしな。大森林は広大や。東西200キロ、南北100キロの楕円形やから、総面積はおよそ15,708キロ平方メートルにもなる」


 約15,708キロ平方メートル。あまりに広大な大森林。こうしたときのお約束、東京ドームなら実に33万4213個である。それでは大きさのイメージは掴みにくいので、富士の樹海、青木ケ原で例えるなら実に524倍の大きさになる。


 また、別に例えるなら四国の総面積はおよそ18,800とされているので、四国よりも二回りくらい小さいといえばイメージできるだろうか。


 あまりの大きさの数字に首を傾げる幸介やキャサリンをよそにレウは少し間を置いてから本題ともいえる作戦概要について話しはじめた。


 「99%敵のいる場所は「標的」なんやけど1%の危険性がある。ほんでな。問題は方法なんやけど。もうこれしかないと思うてる……」


 いつも結論をずばずば言うウにしては歯切れが悪い。視線を俺たちから逸らして躊躇っているような素振りさえ見せている。何か言いにくい作戦なのだろうか? そう思っていたらレウは意を決したように驚くべき作戦を吐き出した。


 「大森林を焼き尽くす!」


 「えっ!」


 「えっ!!!」


 「えっ!」


 俺、キャサリン、レイラが時間差で驚きの声を上げた。始終俯いていた蛍もピクリと反応して驚きの視線をレウに向けているが声は出ていなかった。幸介も驚いているようであったが、隣にいたキャサリンの勢いに負けて声が出なかったようだ。


 レウは大森林を焼き尽くすって言ったんだよな……。二回りくらい小さいとはいえ四国と同じくらいの大きさだぞ。それをすべて焼き尽くしてもいいのか? 元の世界だったら、歴史的な大事件というか、どこの国がやっても世界中から非難されるレベルの話だな。


 山火事でさえ、400ヘクタールつまりは4キロ平方メートルも燃えたりしたら大事件なのに、そのおよそ400倍近くを灰にするとか……。すでに尋常ではないな。


 そんなことができるのかってのもあるけど、あまりに大きな話になっていてついていけない。


 「レウさん。さすが……」


 「レウさん! 冗談はやめてください。私はそんな作戦には賛同しませんよ」


 「ほんとですわ。あんな広大な森を焼き尽くすなんて悪い冗談ですわ。さすがにわたくしも賛成できませんわね」


 俺が『さすがにそれはないんじゃないか』と言おうとしたら、勢い良くレイラが被せてきて、俺の言葉は消えてしまう。変わりにというわけではないのだが、キャサリンがレイラに同調するかのように強い言葉を言い放った。


 「ボケてるわけやないんやけどな……。そうなるか……」


 レイラとキャサリンの勢いに気圧されそうになったレウだったが、ある程度は読んでいたような呟きを漏らす。


 たしかにふたりの言いたいことは分かる。いくら昆虫軍が相手だから、敵のテリトリーで戦うのは不利だからといって環境や生態系を破壊することを人類がやっていいというのは無理がある。それも、大きな山火事の400倍という超のつく大規模で。


 それでも人類最高峰の天才レウが考えた作戦に間違いがあるのか? 彼女が環境や生態系が破壊されるなんてことを無視するわけはないんじゃないか? そんな思いも頭を過る。そういえば、前に言っていたな。


 たしか「変遷」による能力アップの話から遺伝子組み換えのことを話したときのレウの言葉……。


 『人工的に遺伝子組み換えを行なっているので、生物の生態系の破壊とかの危険も伴う。無暗矢鱈とやることは、あかん。そこに地球環境を守るという頭がないとあかん』


 レウはたしかに人工的な遺伝子組み換えでは、生態系の破壊をしてはいけないし、地球環境を守ることを考えないといけないと言っていた。


 つまりは、レイラやキャサリンが危惧している環境や生態系の破壊などについては、レウは考慮しているはずだよな。それでも、こんな結論を出したわけか。


 そう考えながら視線を周囲に移すと、エドワードは怒ったようなキャサリンの顔を心配そうに見ていて、ダスティンは目を瞑って腕を組んでいた。


 ラウラもダスティンと同じ姿勢で、ピクリとも動かない。蛍は俯きながらも首を傾げている。やはり、蛍も俺と同じようなことを考えているのだろう。レウが考慮していないはずがないと。


 それによく考えたら、元々この世界に住んでいたエドワードとダスティンが何も言わないのもおかしなことだな。彼らには環境破壊になることが分からないのか? あるいはすでにレウたちから何か別の話を聞いていて理解しているのか?


 「困ったな……。ほんなら、ほたちゃんとビビリーナはどうや?」


 俺がいろいろと思いを巡らしていたら、レイラたちに反対されて、話を進められなくなったレウは俺と蛍を名指したのだった。

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