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世紀末の七星  作者: 広川節観
第四章 闇と光の世界
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101 インセクト大平原での戦い① ~昆虫軍の襲来~

 人類が昆虫軍を迎え撃つことに決めた大平原は、ブリーリバーからおそよ5キロにある地平線さえ見える広大な平地であった。


 そこに壁から南北500メートル程度に渡る土手のような丘がある。高さは高いところで10メートルあるかないかといったところだ。丘の頂もある程度の広さがあり、本陣を置くには絶好のロケーションであった。


 丘と壁がぶつかる後ろには兵舎があり、その横の壁の中には壁上に登れる螺旋階段がある。もちろんそれは内側から壁上に登るだけで、外に出られるような扉などはない。


 決起集会から6日目の午後に、キャサリンと幸介のふたりが決戦時の起爆のために壁上を見ておきたいと言ったので、3人で登ってみた。壁の上は城壁のようになっていて、幅は多少広めで12~13メートル。各所に外に向けてドラゴン迎撃兵器(ドラゴンスレイヤー)が配置されていた。


 「キャサリン。いけそうか?」


 「達也でもできますわね。キャハハハ」


 「そうかよ! まあそうだよな。これならな。アハハハ」


 壁から下を見て、想定されている的を眺め、俺をからかいながらキャサリンは自身満々に笑った。たしかに俺でも外さないよなと思える的であり、ひとつ突っ込んでは見たが、キャサリンの笑いにつられるように俺も笑う。


 その後、本陣の丘に戻ると、丘の斜面にも敵を阻む鉄板などを互い違いに設置して、容易に敵に斜面を攻め上らせない工夫がなされていた。


 ただ想定している敵は空を飛んでくるため、多少の高さのあるこの本陣の防御網がどれほどの効果を発揮するのかは戦ってみなければ分からないといったところであった。


 また、本陣の近くや本陣に連なる南北の線上に、各所の壁の上から降ろしてきたドラゴン迎撃兵器(ドラゴンスレイヤー)が配置されていた。


 「あれはな。矢尻にエネルギーを詰めた爆弾をセットした大砲みたいなもんや。射程は500メートルくらいやし、威力もたいしたことないけどな」


 レウは、こんなん用意するのは当たり前のことで、たいしたことではないといった風に俺に教えてくれた。そして、一度レウは肩を竦め、口元を緩ませながら続けた。


 「ほんま、今、竜王国や獣帝国(ビーストエンパイア)に攻められたら、完全にわやややな」


 たしかに壁の内側の東から昆虫軍に攻められる状況で、北から竜王国軍や他の獣帝国(ビーストエンパイア)軍が迫れば今の人類では太刀打ちできない。しかし、レウとラウラはそんなことは百も承知で、敵の動きを掴んでいるからこその最後の笑顔なのだろう。


 そこでひとつの疑問にぶち当たった俺はレウに聞いてみた。


 「レウさん。それなら壁上から狙ったほうが確実なのでは?」


 「あかん。あかん。ビビリーナはなんも考えてないな。そんなことしてみ。犠牲者が多くなるだけや。そりゃ、はじめの1発は効果的やろうけど、すぐに敵に襲われて囲まれるで。狭い壁上で射手はどうするんや? それに壁上を超える急襲部隊の成功率も下がり、キャチャリンちゃんたちも危なくなる。そやから敵に壁上に目を向けさせたらあかんのや」


 レウは首と一緒にツインテールを激しく左右に振り、いつもとは違って、俺が納得できる、しっかりとした説明をしてくれた。


 「あっ。その通りでした」


 「そやろ。まあ作戦はうちらに任しとき!」


 素直に謝る俺の肩をポンポンと叩きながら、そう言って八重歯を見せるレウ。お任せしますと俺は大きく頷いてみせた。


 レウたちは今回の戦いでは細心の注意を払い、いかに犠牲者を減らし勝利するかの作戦を考えていた。俺たちが疑問に思うようなレベルは当然考えていて、尚且つ効果的な策を積み重ねてここまで来ていたのである。


 レウとラウラ。もし、このふたりが立てた作戦で負けるなら、それは誰がやっても負ける戦いなのだろう。ふたりを信じて、俺は俺のやるべきことをしっかりと実行しよう。


 俺は薄暮に染まる地平線を見ながら、明日の今頃は何をしているのだろうと考えながら、額の汗を拭った。



   ◆◇◆◇◆◇



 決起集会から7日目の朝。人類の防衛陣地も完成し、兵の配置も整ってきたとき、地平線の彼方からそれはやってきた。


 「約7キロ先に黒い塊! 敵です。敵が見えました!」


 俺たちは、今朝寝起きに出会ったレウが言った『そろそろ来るぞ!』と言う言葉を頭に入れつつも、いつものように訓練をしていると、壁の上から遠くの平原を見張っていた兵士の大声が聞こえた。


 「来たようだな」


 「ああ。みんないったん本陣に行くぞ!」


 「うん!」


 幸介と組手で汗を流していた俺は、手を止め、幸介が傍にいた皆に声を掛けて急ぎ本陣の丘へと駆けていく。防具をつけたままであったが、5人は十分なスピードで丘を駆け上がった。


 「敵が来たぞ。皆に知らせろ。持ち場につけ!」


 「はっ!」


 丘の上では、ラウラが敵襲来に対しての命令を出し、傍に控えていた兵たちが慌ただしく散っていく。レウも傍にいて、まだ、俺たちの視線には移らない敵をいち早く見つけるかのように、地平線の彼方を睨み続けていた。


 一般的に目で確認できる地平線までの距離は4~5キロとされている。もちろん高い位置にいれば遠くが見えるので、壁上の兵士たちと俺たちが見ている地平線には違いがあるわけだ。


 「みんな生き抜くんやで!」


 ツインテールをそよ風に靡かせて、一点を見つめたままピクリとも顔を動かさずに集まった俺たちにレウは声を掛けた。


 皆、無言でそれに頷く。同じように一点を見つめたまま。



   ◆◇◆◇◆◇



 「ラウラ様。我らの準備整いました」


 「うむ。頼んだぞ!」


 「「はっ! お任せくださいラウラ様!」」


 ゴドルフ、グンター、ダスティンがラウラの前に傅き、ラウラの命を受けた敵本陣急襲部隊は無言のまま螺旋階段を登って行く。その数およそ100で、ダスティンが先頭に立って誘導し、ゴドルフとグンターが最後方に続く。


 壁上まで登った部隊は、そこで全員が整列し中央のゴドルフ、グンター、ダスティンが下にいるラウラに敬礼し、壁の上から消えていった。


 彼らは、壁から縄などを使って壁外に降り、壁から少し離れて東に走り、敵のボスがいる地点で再び壁を越えて襲いかかるという手筈になっている。


 壁内の様子を探るのはグンターの役目で、防衛陣地から3キロから4キロ離れた地点にはすでに監視カメラの機能を持つ術を仕掛けてある。これはゲック・トリノ城で英雄たちが引っかかった術と同じものであった。


 つまり、壁の外で戦いが始まるのを待ち、グンターの術で敵が4キロより接近したら行動を開始し、指揮しているやつを見つけて壁を越えて襲う。


 敵が壁上に注意を払ったり、あまりに壁から離れて南へ行ってしまうと作戦自体が成り立たなくなってしまう。あくまでも敵が真っ直ぐにこちらの陣地に向かってこその策であった。


 レウとラウラもそのことは十二分に分かっていて、もし、敵が壁沿いから離れて南に迂回でもしたら、確実に負けると思っていた。


 築いた陣地も無駄になるし、英雄たちがいない南方面には多数のドラゴン迎撃兵器(ドラゴンスレイヤー)を配置はしてあるが、簡単に破られて横から攻められたらとても凌げないと理解していた。


 だからこそ、壁上からの攻撃は避け、敵を挑発するかのように、正面から戦わせる策も十二分に張り巡らしているのであった。



   ◆◇◆◇◆◇



 「お、あれは何だ? おもしろそうなものがあるな。うーん。どうしようか。よしっ。お前ブラウン将軍に報告してこい! 全軍止まれ。ここで小休止だ!」


 昆虫軍の先頭を進んでいたジャック将軍は、鉄板が並んでいる人類の陣地に気が付き、進軍を止めて、ブラウン将軍の下に1匹のムカデを走らせた。


 昆虫軍が小休止を取った場所は、まだ人類の陣地までは、およそ5キロはある場所であった。


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