7、思い出
「ねぇ。由美~。透君のこと、今度紹介してよ。いとこなんでしょ? お願いっ!」
そう言った恵とは、こう言うと恥ずかしいが親友だったと思う。
中一の時からの付き合いで、クラスも三年間ずっと同じだった。
いつも一緒にご飯を食べ、休日すらほとんど一緒に遊んでいたくらいである。
そして、彼女は透のことが好きだった。
話だけは随分と前から聞かされていた。でも、奥手な彼女は中々告白出来ないでいたのだ。
片思いのまま、ずっと恋心だけをこじらせていた。
しかしその時は中学三年の三月。受験も終わり、残す授業も少なくなっていた。
卒業すれば、彼女と透は違う高校に行くことになる。もう、接点はなくなってしまう。
だから、ようやく彼女も意を決したのだろう。
もちろん私は快諾した。親友の頼みだ。断る義理はない。
透に話したら、しぶしぶながらも次の日曜日にデートへ行ってくれることになった。
そのとき、私は呑気にも「よかった。うまくいって」などと思っていたのだ。
勝手な話だが、二人はお似合いだと思っていたのである。
二人とものんびりマイペースなところがあって、似たもの同士だなぁなんて感じていた。
だから、透が彼女のことを振るなんて、一切考えもしていなかった。
月曜日のことだった。
恵は、登校すると同時に「ちょっと来て」と私を呼び出したのである。
彼女の眼は真っ赤に腫れていた。
校舎の裏まで行くと彼女は堰が切れたように大きな声を上げた。
「あんたの所為でっ!」
その後、どんなことを言われたかははっきりと覚えていない。
私もあまりに動揺していたのだ。
ただただ眼の前の光景を見つめることしか出来なかった。
酷く泣かれた。
思いっきり罵られた。
今まで、いつだって明るかった彼女が一片の笑顔すら見せずに、私のことを睨んでいた。
私は震える口で一言、「ごめん」としか言えなかった。
その後、彼女が泣き止み、立ち去って行ってもなお、私の口は全く動かなかった。
その日、彼女は学校を早退した。
その日、私は受けた授業の内容をさっぱり覚えていなかった。
それ以来、恵とは一言も話せずに卒業を迎えた。
その時、私は絶交という言葉の意味を身をもって知った。