6、お友達
非常にまずいことになった。成り行きとはいえ、生徒会の書記を引き受けてしまったのだ。
これで学校内でも透と関わらなければならなくなる。正直、憂鬱極まりない。
今日は特にやることがないと言うので、私はすぐに解放してもらえた。
で、今は自分の教室に戻っている最中である。さっき、慌てていて鞄を置き忘れていたのだ。
教室に戻ると生徒はほとんどいなかったが、一人、私の机近くに座っている人影があった。
「あっ、由美~っ!」と声を上げ、その子はこちらに手を振ってきた。
「あれ? 美帆どうしたの?」
「もう、どうしたのじゃないわよっ! ほら、鞄」
小さな顔で頬を膨らませる彼女は、どことなく可愛らしい小動物を連想させた。
どこぞの馬鹿とは大違いである。
美帆曰く、私が鞄を忘れて行ったから心配していたのだそうだ。
携帯電話にも掛けてくれたらしいが、音が鞄の中から鳴ったとのこと。
手詰まりな彼女はそれでも鞄が盗られたらと思い、ここで見張ってくれていたのだという。
私が戻って来なかったらいつまで待っていたのやら。全く、どんだけお人好しなんだか。
「ああ、ごめん。まさか見てくれてたとは思わなかったわ。ありがとう」
「もう、由美は真面目な割にそそっかしいんだから~。ふふふ。じゃあ、一緒に帰ろ~」
そう言って、にっこり頬笑む彼女には心底ほっとさせられる。
生徒会室まで一声掛けに来る発想が出ない辺り、彼女の方がよっぽど抜けているだろう。
でも、そんなところがきっちりしないと気が済まない私とバランスが取れている気がする。
だからこうして仲良くできているんだろう。そう、中学時代のあの子のように。
「……、どうしたの? 浮かない顔しちゃって?」
「いや、実はね。生徒会の書記を押し付けられちゃって……」
確かに気分が浮かない理由はそこにもある。しかし、それだけではなかった。
少し嫌なことを思い出したのだ。それは美帆と重なるある人物の記憶。
でも、彼女とこの子は別人だ。面影を重ねたって意味はない。
「ええっ! すご~いっ! いいな~っ! これで由美も憧れの生徒会役員さんか~」
「私は別に憧れてないわよ。正直、美帆に代わってもらいたいくらいだわ」
「ええ~。私なんかじゃ無理だよ~。私、由美みたいにしっかりしてないし……」
「大丈夫よ。あの透が会長やってるくらいなんだから。多分そんなには……」
「ああっ! そうっ! それよっ! もう由美なんで今まで黙ってたのっ?」
急に大きな声を上げた美帆に話を遮られた。興奮した様子で彼女はこう続けた。
「由美、透様と知り合いだったんでしょ? ねぇ、私にも今度紹介してよっ!」
そのあまりに既見感のあるセリフに、私はあの最悪な記憶を完全に思い出す羽目になった。