5、お約束
男の人は私の手を握りながら眼鏡を外し、涙を拭った。
女の人は横から私を抱きしめている。
何だ、この状況?
混乱する一方だが、周囲の映像は少しずつ頭に入ってきた。
この二人、超美形だ。
男子の方は噂に聞く鏡見先輩だろう。成績が2年の学年トップだと聞いたことがある。
キリッと鼻筋の通った、見るからに頭の良さそうな顔立ちをしている。
女子の方は名前を知らないが、まぁ、きっと先輩だろう。随分と大人っぽい雰囲気である。
黒髪の清楚な美人さんといった感じだ。ていうか、腕細っ。
見れば見るほど綺麗なスタイルをしていた。
「ははは。先輩達、手が速いですね~。でもダメですよ~。あんまり酷いことしちゃ」
いつの間にか復活していた透がそんなことを言った。
いや、別に私は酷いことはされていない。寧ろしたのはお前だろう。
「ああ、失礼。あまりに嬉しかったものでね。北條。君も離してあげなよ」
そう言われると女の人の方は、少し拗ねたような表情をして離れて行った。
そんな表情をしても可愛い辺り、この人は本当に美人なんだと思う。
「改めて、え~と由美さんだっけ? この度はうちの書記を引き受けてくれてありがとう」
しっかりと眼鏡をかけ、鏡見先輩がそう言った。
「……、よろしく」
あまり表情は変えずに、北條と呼ばれた先輩がそう言った。
「あ、いや、私は……、えっと、なんと言いますか、実はですね……」
「なんとも言わないよ。由美ちゃん。今朝約束したじゃん」
そう言ったのはもちろん透。いや、確かに約束はしたかもしれないけど。
「書記をやるなんて言ってないじゃないっ!」
そう、私は臨時の手伝いをするくらいの話だと思っていたのだ。
「え~、だって書記が辞めちゃったって話したじゃん?」
「いや、確かにそれは聞いたけど。でも、生徒会に入るつもりなんか……」
ない、と言おうとして口が止まった。先輩二人の表情が凍りついたからである。
「え~、でも約束は約束じゃん? 由美ちゃん破らないって言ったのに~」
頬を膨らませて抗議する透はいいとして。今にも泣きそうな先輩達の視線が痛すぎる。
「ああ、もうっ! わかったわよ。やるわよ。書記、やらせてもらいます!」
「やったぁっ! あと無責任に途中で辞めたりもしないでね。約束だよ~」
「はいはい。もう、わかってるってばっ!」