4、お披露目
「……、と言う訳で。今日から書記をやってくれる由美ちゃんです。皆さん拍手~っ!」
パチパチパチと控えめな音が教室に木霊している。
もはや、怒りを通り越して言葉すら出なくなっていた。
ちょっと状況を整理しよう。
あの後、周り中の痛い視線から逃げるように教室を出たのである。
もう、今にもグーで顔に打ち込んでやろうかという怒りを理性で抑えるのが大変だった。
「ねぇ? 高砂君? さっきのは何かしら?」
「ん~? 何でそんな他人行儀なの? 由美ちゃん? ただ迎えに行っただけじゃん」
「迎えになんか来なくていいのよっ! 生徒会室の場所くらいちゃんと知ってるし」
「あ、いや、どちらかっていうと、約束破られる方を心配してたんだけど」
「あんたじゃないんだから。大体私が約束破ったことなんて、今までないでしょ?」
「そうなの? そっかぁ。でもなら良かった。じゃあ、早速……」
にぃっとほほ笑んだ透が教室の扉を開け、その中に私を押し込んだ。
で至る現在。透の口から出たのがさっきのセリフである。
当然、私の思考はフリーズした。
何? 書記? どういうこと? 私手伝いで呼ばれただけじゃ?
「あれぇ? 由美ちゃん。何、面白い顔してるの? せっかくの大人メイクが台無しだよ」
凍りついた頭にそんなセリフが入って来る。
「何が……」
そのセリフは私の頭を溶かし、いや、寧ろ沸騰させた。
「ん?」
「何が、大人メイクだぁっ!」
ええ、そりゃあもう思いっきり入れてやりましたとも。
後ろにあった端正な顔面に。渾身の右ストレートを。
透は勢いよく背にしていた扉に頭をぶつけた。痛そうにその場で蹲っている。
でも後頭部を押さえている辺り、私の右のダメージはあまりなかったらしい。
そんなことを思っていたのも束の間、自分がやらかしてしまったことの重大さに気付いた。
「あ、いや、これはですね……」
恐らく、副会長と会計だろう二人がゆっくりとこちらへ近付いてくる。
その四つの瞳は食い入るように私のことを見つめていた。
まぁ、眼の前で二人の上司たる会長が倒されたのだ。流石に黙ってはいられないだろう。
男の人の方に両手を掴まれた。殺られるっ! と、ふいに眼を閉じた私の耳に声が届いた。
「ありがとうっ! ようこそ生徒会へっ! 歓迎するよっ!」