2、お願い
「うぅ、相変わらず酷いなぁ。由美ちゃんは」
両方の頬っぺたに手を当てながら、私の暴力に文句を言う透。
普通にしていると爽やかイケメン君なので、何とも滑稽な様子だ。
ちなみに両頬を押さえているのは、あの後左頬も私が平手打ちしたからである。
「あんたが悪いんでしょうがっ!」
「ぶぅ~。暴力女~」
腫れた頬を更に膨らましながら、そんなセリフを言いやがった。正直全然可愛くない。
「ああん?」と思いっきりドスの効いた声で威嚇をしてしまった。
「ははは。冗談冗談。大丈夫だって。由美ちゃんが優しいのは俺が一番知ってるんだから」
悪びれることもなくそんなことを言い出す透。少しは反省しろっていうのだ。
こんなんでも実は、透は学校で生徒会長をやっている。
まぁ、傍目はリアル八頭身の長身美形男子なのである。
外面もいいものだから、女子から絶大な支持を集めている。
ていうか、たまにコイツが親戚なのが信じられなくなる。私なんて地味顔の寸胴体型なのに。
「はぁ……。で、こんな朝っぱらから何の用なのよ?」
「いやね。実はそんな優しい由美ちゃんを見込んでお願いがあったんだよ」
正直、嫌な予感しかしなかった。第一、こいつのお願いがろくなものであった例がない。
一番多かった頼み事と言えば「宿題写させて」だった。しかもかなりしつこく頼んでくる。
まぁ、最近ではその頼み事も減っていたけど。
中三から優等生キャラに変わっており、あっという間に私の学力に追い付きやがったのだ。
お陰で、高校まで同じ所に行くことになった。面倒臭いことこの上ない。
「はぁ、で、そのお願いって?」
「実は生徒会の件なんだけどさ。今人が足りてないのは知ってるよね?」
「ああ。確か、書記の子が辞めちゃったんだっけ?」
「そう。しかも文化祭も近付いてるから、正直大ピンチな訳。それで……」
手を合わせて私を拝む透。こうなると簡単に引き下がらない。たく、朝で時間がないのに。
「で、手伝ってほしいと? まぁ、そういう話なら引き受けてあげてもいいけど……」
「やったぁっ! 約束だよっ! じゃあ、早く学校行こう。さ、着替えて。着替えて」
そう言って、私の制服を手渡してくる透。まぁ、着替えないと登校は出来ないが。
「出て行けっ!」
ええ、もちろん追い出しましたとも。思いっきり尻を蹴飛ばしてやった。
出発の際、ママが「由美ちゃん今日は何だか色っぽいわね~」などと言っていた。
恐らく、ご丁寧に油性マジックで描かれていた泣き黒子の所為だろう。