83 蜘蛛VS火竜④
鰻の吐き出す火球を避ける。
避けた先から次の火球が飛んでくる。
これじゃ、逃げるどころの話じゃない。
爆発の余波でHPが少し削れる。
トップスピードなら避けられないことはないけど、黄のゲージの減りが早い。
常に最速を出していると、あっと言う間に黄のゲージが底をついて息切れしちゃう。
そうなったらアウトだ。
予見と思考加速の力で火球の軌道を予測して、先回りして躱していく。
けど、鰻の方も私が先回りして来るのを読んで、軌道を修正してくる。
どっちが相手の裏をかくのか。
裏の裏まで読むような緊張感。
けど、あっちはそれが外れても大した影響はないけど、こっちはそれが一回でも外れれば死んでしまうという、大きな違いがある。
《熟練度が一定に達しました。スキル『思考加速LV1』が『思考加速LV2』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『予見LV1』が『予見LV2』になりました》
このタイミングでのスキルレベルアップは非常にありがたい。
飛んでくる火球の動きが少しだけゆっくりに感じられるようになる。
その分こっちの動けるスピードも体感的には遅くなるから、そこだけは注意しないといけない。
火球を避ける。
すると、予見に鰻の今までとは違った動きが見えた。
ブレスの動作には違いがないけど、今までよりタメが大きい。
私は温存していたトップスピードを解禁する。
景色を置き去りにするようなスピードで駆け抜ける。
その背後を、激しい炎が焼き尽くしていた。
『火炎ブレス:広範囲を焼く火炎の吐息を吐く』
火竜のスキルレベル4で使えるようになる技だ。
直撃は受けてないはずだけど、余熱だけで背中が熱い。
HPもジリジリと減ってきてる。
このままだとジリ貧だし、一発でも直撃を受ければ命はない。
かと言って、有効な打開策も見当たらない。
今はこうやって避け続けて、チャンスを待つしかない。
ジワジワと命を削られていくような焦燥感がある。
また火球が飛んでくる。
鰻の命中レベル10のスキルと、確率補正のスキルのせいで、その狙いはとんでもなく正確だ。
私も回避と思考加速、予見のスキルのコンボがなかったら避けきれていたかどうか怪しい。
《熟練度が一定に達しました。スキル『回避LV5』が『回避LV6』になりました》
よし!
状況を逆転できるようなことはないけど、今は少しでもプラス要素が欲しい。
火球を避けつつ鰻の残りMPを確認する。
だいぶ減ったけど、それでもまだ半分以上残ってる。
火炎ブレスは広範囲技だけあって、火球よりもMP消費が激しいっぽい。
乱発ができないならそれでいいんだけど、できればこのまま温存していてほしいところ。
予見が必ずしも発動するとは限らないし、そうなると、避け切れる自信がない。
できうる限り鰻の様子をよく確認していないと。
そう思った矢先に鰻が火炎ブレスを吐く姿を、予見が捉えた。
もう一度トップスピードで駆け抜ける。
けど、鰻も今度はブレスを真っ直ぐには吐かず、首を横に振るようにして、横薙ぎに吐いてきた!
ただでさえ広い火炎ブレスの攻撃範囲が、それで余計に広がる。
ぐっ!
ちょっと掠った。
掠った程度なのに、HPが10も減る。
掠ったのは背中の一部と後ろ足が1本。
後ろ足は少し痛みがあるけど、動かす分には問題なさそう。
とはいえ、スピードに若干の遅れは出るかもしれない。
まずいな。
《熟練度が一定に達しました。スキル『火耐性LV1』が『火耐性LV2』になりました》
ここに来て、ずっと上がらなかった火耐性がようやく上がった。
いいタイミングだ。
火耐性が上がってくれれば、自動回復が地形ダメージの分を上回ってくれるはず。
回復量は微々たるものだろうけど、あるのとないのとじゃ、雲泥の差がある。
鰻のMPを見る。
よし。
半分を切った。
MPの消費は、火球がだいたい10、火炎ブレスが50くらい。
半分を切ったとはいえ、鰻はやろうと思えばあと4回は火炎ブレスを吐き出せる計算になる。
それはいただけない。
鰻と距離を取るように移動する。
そうはさせじと鰻は火球を吐きながら後を追ってくる。
狙い通り。
移動しながらじゃ、さすがにあの火炎ブレスは吐けないと思う。
あとは、できるだけ逃げながら、火球を吐き出させ続けられれば、いつかMP切れを起こす。
それさえ乗り越えれば、チャンスもある、はず。
今はひたすら避ける。
なるべく後ろに下がりつつ、けど、避けるのを第一にして行動する。
マグマの端に追い詰められないように、慎重に逃走ルートを選んでいく。
一歩間違えれば命はない。
綱渡りのような感覚。
《熟練度が一定に達しました。スキル『HP自動回復LV5』が『HP自動回復LV6』になりました》
よしよし!
実戦はやっぱりこれ以上ないくらい集中するためか、スキルのレベルが上がるのが早くなる。
火耐性と並んでレベルが上がるのを待っていたスキルが、このタイミングで上がった。
浮かれたのは一瞬。
けど、その一瞬が命取り。
鰻の首がブレスの動作をする。
完全に予想外。
予測も発動しなかった。
これは、避けきれない。
鰻の口からブレスが迸る。
私はその直後、地面を思いっきり蹴り付け、空中に飛び上がる。
私の足をブレスがかすめていく。
痛みを堪えながら、糸を天井に向かって伸ばす。
急いで糸を引き寄せ、天井に着地する。
《熟練度が一定に達しました。スキル『立体機動LV4』が『立体機動LV5』になりました》
天井から鰻を見下ろす私。
マグマの中から私を見上げる鰻。
なんとかブレスを躱すことに成功したけど、さて、このあとどうしたものか…。