57 地上100メートルの防衛戦③
がむしゃらに糸をばら蒔く。
《熟練度が一定に達しました。スキル『集中LV2』が『集中LV3』になりました》
相当集中してたおかげか、集中のスキルレベルが上がった。
今はどうでもいい。
さすがに本気で余裕が無くなってきた。
眼下では猿どもが折り重なるようにして糸まみれになってる。
それでも猿の数は減らない。
むしろどんどん増えてる。
行動不能の猿の数も増えてるけど、それ以上に増援の数が多い。
まるでこのエリアに居る猿が全部集まってきてるかのようだ。
MPはもうあと2しかない。
MPが完全に0になったとき、どんな悪影響があるかもわからないし、これ以上MPを使うことはできない。
操糸が完全に使えなくなった。
けど、今のところその影響は少ない。
なぜなら、もう猿の先頭は目と鼻の先にまで迫っていたから。
操糸を使うまでもない距離にまで、敵が迫っていた。
糸を出す。
また1匹、猿が糸に絡め取られる。
しかも、やつは信じられない行動をとった。
飛び降りたのだ。
鈍い音がして猿が地面に叩きつけられる。
この高さだと、さすがに魔物といえど助からない。
猿どもは、自分が死ぬのと、進行方向で動けなくなって仲間の妨げになるのを天秤にかけ、死ぬほうを選んだのだ。
ありえない。
その普通じゃ考えられない異常さに、ゾッとする。
迎撃を続けていれば、そのうち猿も諦めるんじゃないかと、淡い期待を持っていたけど、見事に打ち砕かれた。
猿は私を殺すまで止まらない。
これは、私が猿を殺しきるか、猿が私を殺すか、その2択でしか終わりがない。
投石が私を襲う。
けど、私はもう避けない。
避けてる暇がない。
石が体に当たる。
HPが減る。
それでも、痛覚軽減と苦痛無効の力で無視する。
減ったHPは自動回復に任せる。
石が当たったその瞬間も、糸を撒き続ける。
そうでもしなきゃ、この難局は乗り切れない。
どこかで私は猿どもを侮っていた。
地龍に比べたらどうってことはないと。
確かに、あれに比べたら大抵の相手は大したことはない。
けど、それで侮っていいわけじゃなかった。
馬鹿か私は。
私自身の弱さを忘れたのか?
弱い私に比べれば、周りは全部強敵と言っていいはずなのに。
何を雑魚相手にしてる気でいたんだ?
しかも、相手は遥か格下の私を相手に、死ぬことすら厭わず決死の特攻をしてきている。
格上の魔物が命を賭してかかってきているのに、私がヘラヘラして乗り切れる道理なんてなかった。
こうなったら私も、覚悟を決めて挑まなきゃならない。
また投石が私の体に当たる。
一瞬。
本当に一瞬、私は衝撃で怯んだ。
その隙に、ついに猿の1匹が私の足を掴んだ。
体の半分以上を糸に捕われながら、残った自由になる右腕を伸ばして。
ギチギチという、あまり気分の良くない音が足から響く。
今にも握りつぶされそうな痛みを我慢しながら、足を掴む手に毒牙を突き刺す。
猿が力尽きるのと、足が半ばから引きちぎられたのは、ほぼ同時だった。
痛い。
ものすごく痛い。
痛覚軽減越しでも痛い。
部位欠損、HP自動回復でどうにかなるかな?
あるいはレベルアップで回復してくれれば。
けど、今は失った足の心配をしてる場合じゃない。
今のでだいぶ時間を稼がれた。
すぐに別の猿が登ってくる。
糸を出す。
焦りが出る。
残りのスタミナがまた少なくなってきた。
糸を受け止めた猿が、そのまま虚空に飛び出す。
その行く末を見守ることなく、次の糸を出す。
《経験値が一定に達しました。個体、スモールタラテクトがLV4からLV5になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『集中LV3』が『集中LV4』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『命中LV3』が『命中LV4』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『堅固LV2』が『堅固LV3』になりました》
《スキルポイントを入手しました》
その声を聞いた瞬間、素早く簡易ホームに退避する。
グッドタイミングだけど、バッドでもある。
脱皮だ。
もどかしげに古い皮を脱ぐ。
ちぎれた足も問題なく回復していた。
古い皮を脱ぎ捨て、すぐさま戦線に復帰する。
脱皮の僅かな時間ですらこの状況だと命取りだ。
予想通り、簡易ホームに猿が取り付いていた。
ついに、最終防衛ラインまで猿の脅威が迫ってきた。
レベルアップで尽きかけていたMPとSPは両方とも回復してる。
けど、それでどうにかなる段階をもうとっくに通り過ぎたかもしれない。
いや。
まだ手はある。
簡易ホームの端から足を伸ばす。
その足を猿に掴まれるが、知ったことか!
私はばら撒きまくって今や一つの巨大な塊となった糸に触れる。
ありったけの力を込めて操糸を発動する。
徐々に私の力が糸の中に浸透していく。
スキルレベルが上がって、操作できる糸の数もかなり増えていた。
さすがにこの塊全部となるとムリだけど、それでもいい。
量が量だけに、回復したMPがものすごい勢いでまた減っていく。
そして、掴まれた足がまた嫌な音を立てる。
それと同時に体全体も簡易ホームの外の方に引っ張られる。
外から猿の腕が伸びてくる。
なんとか頭を掴まれるのは回避する。
けど、胴体を掴まれた。
猿は容赦なく私の胴体を握りつぶそうと、力を込める。
HPが急速に減っていき、激痛が走る。
《熟練度が一定に達しました。スキル『生命LV1』を獲得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『魔量LV1』を獲得しました》
天の声(仮)と同時に、糸の準備ができた。
私は残った力を振り絞って、糸を操作する。
私の指示に従って、糸は壁から剥がれ落ちる。
当然そこに引っ付いていた猿共々。
轟音とともに、もう一つの壁とも言える様相になった糸の塊と猿の群れが、地上に残っていた猿の群れに向かって倒れていく。
《経験値が一定に達しました。個体、スモールタラテクトがLV5からLV6になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『操糸LV6』が『操糸LV7』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『過食LV3』が『過食LV4』になりました》
《スキルポイントを入手しました》
《経験値が一定に達しました。個体、スモールタラテクトがLV6からLV7になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『痛覚軽減LV5』が『痛覚軽減LV6』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『隠密LV5』が『隠密LV6』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『回避LV1』が『回避LV2』になりました》
《スキルポイントを入手しました》
大量の猿を一気に屠ることに成功した。