56 地上100メートルの防衛戦②
猿が壁を登ってくる。
操糸を駆使して猿の進行方向の壁に粘着糸を貼り付けていく。
まずいな。
MPの残りが心もとない。
毒合成で使いすぎたかもしれない。
けど、いざとなれば操糸なしで粘るしかないか。
石が飛んできたのでサッと岩の陰に隠れる。
地上に残った猿がひっきりなしに投石してくる。
当たっても致命傷には全然ならないだろうけど、鬱陶しいことこの上ない。
猿の先頭が私の貼った粘着糸ゾーンに突入した。
もちろん猿どもは粘着糸に引っ付いて動きを止める。
これで先頭が動けなくなれば、後続がつっかえてしばらく時間が稼げ、げっ!?
あいつら、味方の体を足場にしてさらに登ってきやがる!
粘着糸ゾーンはまだまだあるけど、これじゃ、予想以上に早く突破される!
クソッ!
もう出し惜しみしてる場合じゃない。
猿の特に数がかたまってる一団に向けて、投網を放つ。
投網に捕まった猿たちはそのまま放置。
もがけばもがくだけ粘着糸が絡まり、余計に身動きできなくなる。
そんな猿の塊が進路上にあれば、障害物として役立ってくれる。
糸に捕われた猿は基本放置する。
一部わかった猿のステータスから、あいつらでは私の糸から逃れることはできないと踏んだからだ。
今回は斬糸を使わない。
とにかく、確実な方法として、粘着糸ですべての猿を行動不能に陥れる。
倒すのはそのあとゆっくりやればいい。
投網の第二弾を放つ。
また猿の何匹かがその中に収まる。
第三弾を撃とうとしたところで、投石が私を襲う。
慌てて避ける。
クソ、敵ながらいいタイミングで援護しやがる。
しかも、猿どもは私の投網を警戒したのか、さらに左右に分散してかたまらないように行動し始めた。
これじゃ、投網を使っても、1、2匹しか捕まえられない。
こいつら、今までの魔物と違って、頭がいい!
頭がいいなら獲物として私は割に合わないって気付けよ!
こんなちっちゃな蜘蛛倒してもなんの得もないでしょうが!
けど、猿どもは何が何でも私を倒すという気迫を持って迫ってくる。
やめてほしいわー。
そういう情熱的なのは勘弁してよ。
その情熱をもっと別のことに向けようよー。
たとえば○○○(自主規制)とかさー。
くだらないこと考えてる間にも糸をばら撒く。
猿が左右に散っちゃったから、そこらじゅうに万遍なくばら撒かなきゃならない。
操糸はできるだけ節制モードで使う。
この状況でMPが切れたら、結構危ない。
なんで私が簡易ホームにこもるという選択肢をしないのか、それはここが地上100メートルだからだ。
私の糸は確かに強力だけど、無敵ではない。
火には弱いし、地龍には簡単に吹き飛ばされた。
高い防御力を誇るけど、それを上回る力が加われば、突破される。
猿にそれができるとは思えない。
地上だったら私は間違いなく籠城を選択してる。
けど、ここは地上じゃない。
もし、猿が簡易ホームに攻撃を加えて、その体を引っ付けてしまったら。
当然猿の体重分の負荷がかかる。
それが何匹も重なり、簡易ホームがその負荷に耐え切れなくなったら…。
簡易ホームには土台がない。
単に天井と壁の間を粘着力でくっつけてるだけだ。
私と岩くらいの体重だったら支えられる。
けど、どこまでの重量に耐えられるかはわからない。
拡張して安定性を増やすことも考えたけど、それよりかは猿を近付けないようにする方向を選んだ。
拡張しても、結局耐えられる許容量が増えるだけだと思ったからだ。
それでも猿の数を考えれば良かったかもしれない。
最初のうちは。
なぜか、それは猿の数が一向に減らないからだ!
毒で叩き落としたやつを仕止め損なったのかとも思ったけど、壁の真下にはそれらしき猿の死体が積み重なっている。
別に復活したわけじゃなさそうだった。
ただ単純な話、最初よりも猿の数が増えているだけだった。
いわゆる増援てやつね。
はっはー、あいつらどっから湧き出してきてんのか、どんどん数が増えてるー。
最初50匹くらいだったはずなのに、今は軽くその倍はいる。
しかも、まだまだ増えてきてる。
終わりの見えないマラソンって怖いよねー。
どうしよう。
マジでどうしよう。
MPどころか赤のスタミナも心もとなくなってきた。
さっきからずっと糸出しっぱだしね。
スタミナが尽きたら終わる。
糸が出せなくなるもんよ。
それだけはなんとしてでも回避しないといけない。
クモーニングスターを構える。
狙いは一番ここから近い位置にいる猿。
ぶん投げる。
当たる。
よし、そのまま粘着力に物を言わせて強引に引っ張り上げる。
暴れようとする猿を素早く糸で拘束。
毒牙を打ち込む。
その最中に投石をぶち当てられた。
痛っ!
けど、HPは5しか減ってない。
予想通り、さすがに地上からここまでじゃ、距離があって大した威力は出ないっぽい。
痛いけど、痛覚軽減と苦痛無効の力で強引に無視する。
毒牙の力で猿の息の根を止める。
そのまま食べる!
この作業は素早さが勝負だ。
早く終わらせて戦線に復帰しないと。
まだ猿どもは粘着糸に苦戦してる。
だいぶ糸にくっついて再起不能になってるけど、その分、くっついた猿の体っていう道が完成しつつある。
着実に私のもとまで近付いてきてる。
スタミナ回復もできてもう一回、けど、これが最後だと思っておいたほうがいい。
だから、早く、それでいて残さず食べきって余すところなく私の糧にする!
ブハッ!
食べきった!
心なしか猿どもの殺る気が上がった気がするけど、今更だ!
食うのは私のほうだ!
貴様らなんぞに食われてたまるか!