最終決戦㉓
本日二話目
ぜー、ぜー。
あ、危なかったー!
まさか本体がやられるとは思ってなかった!
山田くんの天の加護をなめてたよ! マジで!
あんな針の穴に糸通すようなやり方でやられるとかわかるかボケ!
警戒しろってほうがムリってもんよ!
だが残念だったな!
本体がやられようと第二第三の私がいつか現れるだろう!
イヤ、うん。
ただ単に分体がいるから本体がやられても大丈夫ってだけなんだけどね。
本体、分体って呼んでるけど、その違いはメインで私が動かしてるってのと、エネルギー配分の違いだけで、全部私の体だってことには変わりないんだよね。
魂さえ無事ならどの体を動かそうがそれは私自身ってね。
つまり私を殺そうと思ったら、魂そのものを破壊するか、本体含めてすべての分体を修復不可能なくらいに木っ端みじんにするしかない。
魂を破壊するのは外道攻撃とか深淵魔法とかの例外除けば神の特権だし、体を木っ端みじんにするのだって生半可な威力の攻撃じゃ達成できない。
腕の一本二本くらいだったら切り飛ばされても瞬時に再生できるし。
だから黒を倒した時点で私の勝ちは揺るがないって思ってたんだけどねえ……。
まさか勇者剣で吹っ飛ばされるとは。
誤算だったよ。
おかげで本体がやられてしまった。
……これは痛い。
本体にあったエネルギーがもろとも吹っ飛んでしまった。
ぶっちゃけこれ以上の戦闘行為は、できない。
システム中枢に残っていた分体の奇襲で山田くんと大島くんはぶっ飛ばすことができた。
気絶してはいるけど、死んではいない。
もしこの二人が魔王を殺していたら、もうエネルギーが足りないだとか関係なくぶっ殺していたところだけど、見逃してくれたからね。
こっちも見逃してあげるのが礼儀ってもんよ。
魔王もなー。
ムリしすぎなんよー。
もう魔王は戦える体じゃないんだから、ムリして山田くんたちの前に立ちはだからんでもいいのに。
本体がやられた直後で私もすぐには動けなかったから、あそこで山田くんたちが魔王にとどめを刺す! とかやってたら、間に合わなかった。
ちょっとヒヤッとしたよ。
山田くんと大島くんは私がぶっ飛ばした拍子にシステム中枢から扉の外に出てしまっている。
私はテクテクと扉の所まで行き、そっ閉じ。
ついでに糸で扉を固定。
あれだ、台風の前にガムテで隙間を補強するような感じ。
これで扉を開ける時間が稼げるだろう。
しばらくは誰も入ってこれない。
さーてさてさて。
ちゃっちゃと進めちゃいますか。
ここまで予想外の出来事の連続で、私のエネルギーもかなりかつかつ。
これ以上は本気でまずい。
かなり危ない橋を渡ることになるけど、このまま座して待っててもそれは同じこと。
ならば、やるしかない。
そいや。
私は糸を女神サリエルの頭にぶっ刺した。
『経験値ががががが!』
女神サリエルの声がバグったみたいにノイズをまき散らす。
同時に女神サリエルの体、残った上半身がのけぞる。
目が見開かれ、明らかに苦痛を訴える表情になる。
あー、魔王には見せられない光景だわ。
扉閉めといてよかったー。
私が今しているのは、システムのハッキングだ。
それも女神サリエルを介して、直接システムに干渉している。
今までは女神サリエルの負担を考えて、なるべく外側から徐々に攻める感じで干渉していた。
けど、やっぱそれだと時間がかかる。
時間をかければもうちょい安全にシステム崩壊まで持って行けるけど、それだとまた山田くんとかが私の予想を超えてくるかもしれない。
そんな予想外が起きる前に、決着をつける。
なーに!
その代償はちょっと頭の中くちゅくちゅされて女神サリエルが悶絶することになるくらいよ!
え? その女神サリエルを救うためにお前ら頑張ってんじゃないのって?
それはそうだけど、それはそれとして私こいつのこと好きじゃないし。
ほら、最終的にはちゃんと救うからさ。
それで魔王だって納得してくれるさ。
ていうか魔王にはこんなことしたって隠し通すし。
バレなければそれでいいんだよ!
女神サリエルを介して直接システムに干渉する。
システムという巨大魔術。
その一部を解体し、そのエネルギーを星の再生にあてがう。
そしてその一部と言うのは、ステータスやスキルといった、この星に生きる生物に付与された、魂の強化要素。
これらを用いてこの星に生きる生物の魂を強化し、強化された魂を回収して生きるのに最低限以外の余剰エネルギーを回収する機構。
そこらへんの、いわゆる星の再生を司る部分以外をバッサリとカット。
エネルギーに変換しようとする。
その際、そこに紐づけられていたこの星に生きる生物の魂、それに付随したステータスやらスキルもまた、エネルギーとして回収されてしまう。
それらは魂に付随しているため、少なくない衝撃が魂にも与えられる。
接着剤でくっつけられていたものを、溶解液とか使わずに無理やり引っぺがすようなものだからね。
んでもって、長年歪な転生を繰り返していたこの世界の人々の魂は、その衝撃に耐えきれなくなっていたりする。
約半数は、その衝撃で死ぬ。
それを防ぐために黒や山田くんたちは私たちと戦うことになったわけだ。
今、私がこの作業を進めれば、人類の約半数を犠牲にして、星の再生のためのエネルギーが確保される。
……が。
『ががが!』
ノイズをまき散らしながら、女神サリエルの手が私を掴む。
同時に、システムへの干渉を阻害するように、魔術的にも動きがあった。
……うん、知ってた!
そりゃ、女神サリエルは邪魔してくるよね!
はいはいはいはい。
わかったから大人しくしてろ!
私はシステム崩壊を発動させる前に、用意していたエネルギーを使い、新たな術式を組み込む。
それが何なのか理解したようで、女神サリエルの抵抗が止む。
あーあ。
やっぱこうなっちゃうか。
まあ、こうなるのは予想通りだったけど。
だからこそ、エネルギーを温存しといたわけだけど。
おかげで私のエネルギーはすっからかんだよ!
ていうか本体がやられちゃった分ちょっと足りねえ!
でもやるしかねえ!
システムを崩壊させる。
私が追加した術式は、なんのことはない、魂の保護術式だ。
あらかじめ私に近しい人たちや、転生者にはエネルギーがそもそも引っこ抜かれないような術を施してある。
それとは異なる、エネルギーを引っこ抜いた時にショック死しないように保護するという、単純な術式だ。
ただし、それをこの世界に生きる全ての人類に施すとなると、数の関係で莫大なエネルギーを消費する。
私はこのためのエネルギーを頑張ってためた。
黒との戦いでもそのためのエネルギーには手をつけず、結果最初のほうは防戦一方になってしまった。
まあ、勝てそうにないってなったらさすがにこのエネルギーも使ってただろうけど、何とか逆転できたからね。
正直ね、このエネルギーはできれば使いたくなかった。
女神サリエルが抵抗しなければ、私は人類の半分犠牲にしてそのままシステムを崩壊させてもよかった。
でもまあ、物語の終わりはみんなが笑顔になれるハッピーエンドのほうがいいでしょ。
だから悔いはない。
支払ったエネルギー、そこに私の生命維持のためのものも全部突っ込んじゃったけど。
薄れゆく意識の中、私は魔王に向けてサムズアップした。
今の私の手は鎌だから、単純に振り上げただけみたいになっちゃったし、この場に魔王はいないから、女神サリエルにしか見られなかっただろうけど。
ま、私はやり遂げたよ、魔王。
0時にエピローグ更新します。