最終決戦㉑
油断も慢心もしているつもりはなかった。
ただ、私だって万能じゃない。
すべてのことを把握できるわけじゃなく、予想外のことだって普通に起きる。
最善の状態ならある程度それも様々な魔術を使って情報を収集し、対策を講じることもできる。
けど、今の私は最善とは程遠い状態だった。
黒との戦いで私はかなり消耗していた。
黒の奇襲から始まった戦いだったこともあって、序盤は完全に劣勢。
事前の予定では黒を私のフィールドに誘い込んで決戦、と考えてたのに、蓋を開けてみればその逆に黒のフィールドにぶち込まれてしまった。
そのせいでまずは黒のフィールドを私のフィールドに塗り替える作業から始めなければならなかった。
が、もちろん黒がそれを簡単に許すはずもなく、肉体の損傷の再生を阻害する効果を持った剣で切りつけてきた。
おかげでこっちは血まみれだよ!
それでも徐々にフィールド塗り替えて、ようやくこっちが有利になったと思ったら、決死の覚悟で突っ込んできた黒に片目を潰された。
脳天真っ二つにされなかっただけマシだったけど、このダメージはでかい。
フィールドを書き換える過程であれだけいた分体のほとんどがやられたし……。
ぶっちゃけると、今の私はこの本体がやられるとまずい。
非常にまずい。
たぶんギリギリ。
これ以上やられると、マジで死にかねん。
だからエネルギーのほとんどは使えないし、それが使えないってことは魔術の多くも使えないってことだ。
油断も慢心もしていないけど、制限がかかってるのは否めない。
だからこそ、私は敵の優先度を確認し、高い順から対処に当たった。
ひと当てした感じ、風龍がこの場では最も厄介だ。
時点で妹ちゃんと氷龍。
妹ちゃんは腕に巻き付いてるちっこい龍の補助のおかげでかなり強くなってるし、そのちっこい龍は治療魔法も使って他のサポートまでしてやがる。
氷龍のほうは硬い。
あと地味にこっちを弱体化させようとしてくるデバフがうざい。
最後の火龍は、何ていうか普通。
イヤ、弱くはないんだけどね?
何ていうか、こう、特徴がないっていうか。うん。
上から順にこの四体に集中し、他を排除したのは正しい判断だと思う。
山田くんの天の加護は対局を動かすって点では脅威だけど、こういう狭い範囲での戦場ではあまり役に立たないって思った。
山田くん自身がそんな強くないしね。
いくら天の加護の力で都合のいい状況に持って行けるって言っても、都合がよくなったところで私が山田くんに後れを取ることはない。
大島くんにしてもそう。
大島くんの結界はそれなりの強度があるけど、突破できないほどじゃない。
大島くん本人も山田くん同様強くないし、防御しかできないんだから放置しても障害にはなりえない。
教皇は瀕死だし、放置。
変な爺は人間にしちゃ強いけど、あくまで人間にしちゃって話。
放置しても問題ない。
エネルギーに余裕があるんだったらそれらにも意識を傾ける術を展開しててもよかった。
けど、今の私にはその余裕がない。
限られたリソース内で最善の結果を出すために、優先度の高い順から集中して落とすというその判断は正しかった。
正しい、はずだった。
なのにこの状況はどういうことだ!?
風龍とか火龍に闇の魔術弾を撃ち込んでいた。
さっきの龍人の件もあるし、慎重を期して迂闊に近寄ることはせず、遠距離から一方的に嬲り殺すつもりだった。
この対応だって間違ってなかったはずだ。
それなのに、私はいきなり背後から襲われた。
私の首に何かが噛みついてきたのだ。
ゴリッと魂が削れる感触がした。
外道攻撃。
さっきの龍人と同じか!
と、そう思って下手人を見てみたら、さっきの龍人だった。
さっき死んだはずの龍人が、上半身だけでまた襲い掛かってきていたのだ。
どうなってんだこいつは!?
さっき死んだはずだろ!?
ていうか上半身だけで動くなし!
右手もないから、左手だけで跳んだってことか?
死してなお牙をむくとか、執念足りすぎだろ!
そこは大人しく死んどけよ!
状況的にも絵面的にもホラーなんじゃボケ!
慌てて噛みついてきている龍人を引っぺがし、地面に叩きつける。
上半身だけの死に体なので、それだけで龍人は再び動かなくなった。
イヤ、動いてたこと自体が異常なんだけど。
なんでこいつ動けたんだ?
その時、ふいにイヤな予感を覚え、振り向いた。
そこには、一振りの剣を振りかぶった山田くんの姿があった。
その姿を見て繋がる。
龍人を甦らせたのは山田くんか!?
でも、どうやってここまで?
あ! あのへんな爺の転移か!?
くっ!? 山田くん含め、そっちは全然気にしてなかった!
そしてまずい。
山田くんの手に握られているのは、勇者剣だ。
勇者のみが使える、たった一度だけ絶大な威力を発揮する一撃を放つことができる、D謹製の聖剣だ。
どういう経緯か先代の勇者であるユリウスが見つけてもっていたものを、王家に代々伝わる剣だとか言って第三王子のレストンとかいうのが山田くんに渡したものだ。
この剣がその由来も知らぬまま山田くんの手に渡った時、私は天の加護の危険性を認識したんだった。
その天の加護を侮ったのが失敗だったか!
山田くんに向けて慌てて闇の魔術弾を放つ。
それが、大島くんの張った結界に阻まれた。
クソ! 咄嗟だったから大島くんの結界を突き破るだけの威力が出せなかったか!
でも、それならば直接ぶん殴るのみ!
山田くんのスピードは私から見ればとろい。
私の拳のほうが断然早く届く。
もちろん、結界なんざぶち抜いてやる!
「調和!」
私の拳が山田くんの胸を穿とうとした、まさにその時、教皇の声が響いた。
そして、私の拳は山田くんを傷つけることなく、ポスッとその胸に優しく触れただけだった。
すべての威力を殺されたかのような、不思議な感覚。
攻撃の、無効化!?
まずい!
山田くんの勇者剣が振るわれる。
間に合え!
残った片目で邪眼を発動させる。
……させようとした。
さっき龍人に切られた瞼から、血が垂れて視界を一瞬ふさいだ。
邪眼は不発。
そして、私の体は勇者剣からあふれ出る光の奔流に包まれ、跡形もなく吹き飛んだ。




