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最終決戦⑳

シュン視点

 若葉さんが現れてから、形勢が一気に傾いてしまった。

 魔王を狙ったレイセさんが若葉さんに阻まれ、そのままやられてしまった。

 黒き神も、若葉さんとの戦いに敗れたようで、倒れてしまっている。

 そして、若葉さんの遠距離攻撃にこちらはなす術もなくやられっぱなしだ。

 まるで追尾性能でもあるかのように、的確にグエンさんとヒュバンさんに魔法を命中させてくる。

 それでいてこちらの遠距離攻撃は簡単に避けられてしまう。

 この状況を何とかするには、若葉さんに近づくしかない。


「カティア。こっそり若葉さんのところに行くぞ」

「はっ!? 状況がわかっていますの!?」

「声がでかい! わかってるから動くんだ」


 今、若葉さんの注目はグエンさんとヒュバンさんに向いている。

 時折ニーアさんとスーにも視線が向いているが、そちらにはまだ攻撃は仕掛けていない。

 龍形態になって的の大きいグエンさんとヒュバンさんから先に仕留める算段なんだろう。

 そして、俺とカティアには意識が全くと言っていいほど向いていない。

 自分で言うのもなんだが、俺たちはこの場で最も戦力的に低く、いてもいなくてもいい存在だ。

 それが若葉さんにもわかってるんだろう。

 だから意識から除外されている。


「でも、近づいたところでどうにもできませんわよ?」

「俺たちがどうにかする必要はない。ていうかできない。だから、レイセさんを蘇生させる」


 俺にできるのは慈悲による死者蘇生だけだ。

 レイセさんの死体は若葉さんの背後に転がっている。

 うまくすればレイセさんを甦らせ、背後から奇襲することもできるかもしれない。


「そううまくいきますか?」

「分は悪いだろうが、成功しなければ勝てない」


 今は劣勢だ。

 このままだと間違いなく負ける。

 ならば、分の悪い賭けでもやらねばならない。


「……ならばまずはロナント様のところへ」

「なるほど」


 その言葉だけでカティアの思惑が伝わってくる。

 つまり、ロナント様の転移を頼れってことだな?


「そうと決まれば行きますわよ」

「おう」

「しょうがない。目くらまし程度はこなしてやるか」


 俺たちの中で結論が出た時、すぐ近くでニーアさんの声が聞こえた。

 直後、ニーアさんが龍形態に変身する。

 ちょうど俺たちを若葉さんから隠すような位置で。

 さらにニーアさんは目立つように氷のブレスを若葉さんに向けて吐き出し、注意を引きつける。

 今ので完全に俺とカティアは若葉さんの視界から外れただろう。

 心の中でニーアさんにお礼を言いつつ、俺たちは静かに移動を開始した。


 蜘蛛型の魔物たちのほとんどはもう倒されている。

 俺たちを阻むものはなく、さらにその蜘蛛型の魔物たちの死骸がいい障害物になって、俺たちの移動を隠してくれている。

 これならば目立つことなくロナント様のところにたどり着ける。


 そしてすぐにロナント様のところに到着した。

 ロナント様は大型の蜘蛛型の魔物、アークタラテクトと戦っていた。

 アークタラテクトは危険度Sの、神話級一歩手前の強力な魔物だ。

 人間が一人で相手をできるものじゃない。

 ……だというのに、ロナント様はそのアークタラテクトと互角に戦っていた。


 アークタラテクトがその巨体を駆使してロナント様に突撃をする。

 そのアークタラテクトに向け、ロナント様が灼熱の火球を放つ。

 アークタラテクトも迎撃で闇の弾丸を放つが、火球はその弾丸を飲み込んで前進していく。

 アークタラテクトはたまらず火球を回避するために斜め後ろに飛びのき、ロナント様との距離を開けた。


 すごい。

 これが人族最強の魔法使い。

 ユリウス兄様の魔法の師匠か。

 っと、感心してる場合じゃないな。


 再びロナント様に向かって飛び掛かろうとするアークタラテクトに背後からこっそり近づき、その後ろ脚を切りつける。

 全くの無防備だったこともあり、その斬撃はアークタラテクトの後ろ脚を一本切り落とした。

 アークタラテクトは奇声を上げた。

 素早く反転し、俺を視界に収める。


「儂に背を向けていいのかの?」


 そのアークタラテクトの背に語り掛けるロナント様。

 アークタラテクトが振り向いた時には、熱線がその体を貫いていた。

 体を貫通する熱線を受け、再びくもんの叫びをあげるアークタラテクト。

 その頭に俺は剣を叩きこんだ。

 アークタラテクトの巨体が一度大きく痙攣し、その体を支えていた足から力が抜けていく。

 そして音を立てながら倒れた。


「ふいー。助太刀感謝するぞい」

「いえ。ロナント様であれば一人でも勝てたんじゃないかと思います」


 俺は不意を突いただけで、大した貢献をしていない。

 さっきの戦いぶりからするに、ロナント様ならば一人でも倒せたんじゃないかと思う。


「そうでもないわい。さすがにあのクラスの魔物を、倒れたこ奴を守りながら相手にするのは骨が折れたわ」


 ロナント様はそういって倒れた老人を見た。

 その老人は神言教教皇だ。

 調和というスキルを使って、二度、敵の攻撃を無効化している。

 だが、その調和というスキルは反動が大きいようで、教皇は血まみれになって倒れていた。


「治療を」

「私、のことは、いい。他の、こ……ごふっ!」


 言葉の途中で吐血する教皇。

 どう見ても瀕死だ。


「……ロナント様、俺たちのことを、レイセさんのところまで転移できませんか?」


 俺は、教皇を見捨てた。

 ここで俺が治療魔法を使えば、教皇の傷は治せるだろう。

 だが、それには時間がかかるし、何よりも教皇を治したところで状況を改善するには足りない。

 人を見捨てるなんて苦渋の決断だが、これも覚悟だ。

 ……まったく、嫌な覚悟の決め方だ。


「わかっておるのか? その力はお主自身の身を苛むのだぞ?」

「わかってます。覚悟の上です」


 まっすぐロナント様の目を見ながら答える。

 それに対してロナント様は盛大な溜息を吐き、黙って魔法の準備を始めた。


「こ奴は儂が治しておく。なに、どうせ儂の力ではこれ以上の相手はできん。自分のできることをしてるまでじゃ。だからのう、お主らも自分のできることを、できる範囲でやるんじゃぞ?」

「はい」


 それはロナント様なりに、俺たちのことを心配して言ってくれた言葉なんだろう。

 無茶をするなよ、と。

 でもすいません。

 今は、無茶をしないと勝てないんです。


 そして俺とカティアはロナント様の転移によってレイセさんのところまで運ばれた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 透視能力あるからブラインドは意味ないのではないかと。ちょっと前に若葉さんが言ってた。 先読んでないから織り込んであるのかもしれないけど。
[一言] 前半、595話を繰り返しみたような感覚。しかもこの展開よw
[一言] Dはコイツに何(どんな面白さ)を求めてんだろうな。 まぁ、神を犠牲にして「人類」を残しても、守るモノが無くなった地でどう侵略者(神)に対抗するんだ、って部分が地味に触られてないから、どうなる…
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