最終決戦⑱
闇龍レイセ視点
僕は龍の中でも特殊な立ち位置にいる。
対神を想定した能力もそうだが、その戦い方も他の龍とは大きく異なる。
なんせ体のつくりが人型だ。
他の龍たちも人型になれるものの、あくまでそれは借りの姿であり、その本性は龍の姿だ。
僕のように龍の本性まで人型なのは他にいない。
だからこそ、僕のように徒手空拳で戦う龍も他にはいない。
外道攻撃を発動させた掌底。
難なく躱される。
さっきから僕の攻撃はかすりもしない。
基礎能力が違いすぎる。
下半身が蜘蛛というその姿から的は大きそうに見えたが、その下半身が前後左右に滑るような移動を可能にしており、動きが読みにくい。
僕が龍としては異端な徒手空拳で戦うように、相手も下半身が蜘蛛という特殊な姿故の動きをしている。
慣れない。
対して相手は徐々にこちらの動きに対応し始めている。
最初は大きく余裕をもって避けていた僕の攻撃を、ギリギリまで引きつけてから避けるようになってきた。
見切られ始めている。
この短時間で。
なんという戦闘勘。
基礎能力値だけではない、センスの高さがうかがえる。
敗北は、時間の問題か……。
わかっていたことだ。
僕の能力は対神を想定してはいるものの、あくまで想定しているだけであって、戦えるというわけではないのだ。
僕の存在は主様が敗れた後の悪あがきでしかない。
あわよくば、もしかしたら。
そんな儚い希望。
そもそも主様が戦わなければならない場面になることがないように立ち回るのがベストなのだ。
本来ならば主様が戦うこと自体があってはならない。
ましてや敗れるなどもってのほか。
僕はその万が一のさらに万が一の時のためだけに、この脳力を磨いてきた。
通用する確率は低いにもかかわらず。
敗北は既定路線。
主様が敵わなかった相手に、僕の力が通用するとは思えない。
勝てる見込みはない。
それがどうした!
ここで活躍できねば、僕が生きてきた意味は何だ?
僕は敗北するためだけにこの力を磨いてきたというのか?
否!
断じて否だ!
白き神が僕に掌を向けてくる。
そこには黒いエネルギーが渦巻いていた。
それが発射されれば、クイーンのブレスをはるかに超える威力の攻撃となるだろう。
遊びは終わりだと、そういうことらしい。
僕の外道攻撃を察して、必要以上に警戒して今まで避けることに徹していたようだが、僕が大した脅威ではないとみなして早々に決着をつけに来たようだ。
その判断は正しい。
僕と白き神の間には、越えられない大きな壁がある。
そもそも、神とそれ未満では戦いにならない。
しょせん僕らはシステムという、神からの借り物の力で戦っているに過ぎない。
神からの借り物の力で、神に抗することなどできるはずがないのだ。
だが、僕にも意地がある。
白き神の手のひらから、エネルギーの奔流が放たれる。
すさまじいスピードで迫りくるそれを避ける暇なんてない。
また、防御して耐えられるものでもない。
だったら、避けも防御もしない。
前に進む。
エネルギーの奔流が僕の下半身を吹っ飛ばす。
あまりにも呆気なく、跡形もなく。
だが、直撃を免れた上半身は無事だ。
エネルギーの力が強すぎたため、直撃した下半身をきれいに貫通していってしまったのだ。
もう少し威力が低かったら、逆に余波で上半身も爆散していただろう。
感性の法則に従って、僕の上半身が前に突き進む。
下半身はないので踏んばりなんてきかない。
ここから拳を叩きこんでもたいした威力にはならない。
それでも、最後の意地だ。
一矢報いる。
上半身だけで飛んでくる僕を見て、白き神の残った片目がわずかに見開かれる。
エネルギーを放出したのとは別の手を透かさず構え、そこから白い糸を放射状に放つ。
その糸に捕らわれれば、この前進も止まってしまう。
網目を通り抜けられるのは、拳一つ分だけ。
右手をもぎ取る。
それを網目の隙間を狙って投げ飛ばした。
そこで僕の上半身は糸の網に捕まった。
しかし、投げた右手は網目をすり抜け、白き神の顔面に向かって飛んでいく。
白き神が慌てて顔をそむける。
それでも避けきれずに、わずかに残った片目の上のほう、眉毛の当たりを浅く切り裂いた。
たったそれだけ。
僕が命を賭した結果は、たったそれだけだった。
ああ。
悔しいなあ。
僕の人生の結晶は、そのちっぽけな傷を与えるだけにとどまったのだ。
でも、この力を全く振るわれないままに、腐るように朽ちていくよりかは、マシだったのかもしれない。
悔しさと、少しばかりの満足感を抱きながら、僕の意識は闇に沈んでいった。




