最終決戦⑯
闇龍レイセ視点
この力の振るいどころを求めていた。
そしてその力を存分に振るえる死に場所を求めていた。
僕ら古龍の長と呼ばれている存在は、本物の龍の出来損ないだ。
ポティマスの実験によって生み出されたキメラ。
アリエルら女神サリエルの孤児院に保護された人型のキメラたちとは異なり、僕ら古龍の長たちは本物の龍に近しい外見をしていた。
そのため保護の対象にされず、動物扱いだった。
僕の知らないところで実験動物にされて死んでいった同胞もいたかもしれない。
というかいただろう。
そんな僕らを保護してくれたのが、主であるギュリエディストディエス様だ。
だから僕らは主様に敬意を抱いている。
アリエルが女神サリエルに抱いているのと同じような気持ちだろう。
ただ僕らがアリエルと違うのは、僕らはシステムに魔物判定されたことだろう。
神の目線から見ても、僕らは動物だったのだ。
だから僕らは主様の眷属になる道を選んだ。
人に混ざるのを諦め、されどただの魔物になることも拒み、管理者の眷属という立場を手にした。
その中で各々の役割をこなし、自身の眷属を増やし、この世界で生きる基盤を整えていった。
ヒュバンは汚染された荒野の浄化を。
イエナは人が外洋に飛び出さないように海の管理を。
ニーア、レンド、ゴーカもそれぞれ領地を持ち、そこの管理を。
その中で僕は魔王剣の封印を担当した。
管理すべき領地がなく、あまりものだったというのが一番の理由。
そして、僕の力が他の連中に比べ、特殊だったのがもう一つの理由。
もし魔王剣が振るわれるのならば、同時に僕の力も必要とされるかもしれない。
だから魔王剣もろとも封印されていた。
僕の能力は意図的にある分野を伸ばしていた。
それは、対神能力。
神に通用する能力。
それすなわち、魂を攻撃する能力だ。
魂を直接攻撃する外道攻撃。
死を司る腐蝕攻撃。
魂を滅却する深淵魔法。
これらに多くのスキルポイントを割き、優先的に伸ばしていた。
全てはこの世界にもし神が侵略してきた時のために。
だが、そんな事態はまず起こらない。
主様のさらに上司に当たる上位管理者のD様は、主様曰く神々の中でも恐れられる高位の存在だという。
そのD様の管理する世界に侵略しに来る神などいない。
もしいたらそれはよほどの世間知らずだと。
だから、僕の存在は保険でしかなかった。
ほぼありえない、しかしもしあったとしたら大事になる、神の侵略に備えた。
しかし、僕の存在は保険でありながら、あまりにも効力が低い。
もし神が侵略してきたら、まず真っ先に対応に当たるのは主様だ。
僕の出番が来るとしたら、主様が負けた後になる。
主様が勝てなかった相手に、僕が勝てるはずもない。
だから、保険としてはあまりにも弱すぎるのだ。
対策を講じないわけにもいかない、しかし、対策してもここらが限度。
それが僕の存在。
万が一主様が敗北する事態になって初めて出番が来るというのに、その出番が来た時にはほぼほぼ負けが確定しているという、いてもいなくても変わらない存在だ。
笑えてしまう。
万が一主様が負けた時用の、億が一相手を倒せるかもしれない保険。
もしかしたらという、淡い期待を抱かれる程度の存在でしかない。
だから僕は、自分の存在意義がわからなかった。
活躍の場が欲しかった。
この力を振るう場所が。
僕の存在がきちんと意義を発揮できる場所が。
それはこの場しかないだろう!
アリエルに向けて放った貫手。
回避はもう間に合わない。
ガードも間に合わない。
アリエルはどういうわけかかなり弱っているようだ。
戦いが始まったにもかかわらず椅子から立ち上がる気配がなく、配下であるタラテクトたちに任せっきりの段階で違和感はあった。
だが、クイーンにかばわれたところでその違和感は一つの確証に至る。
今のアリエルは、まともに戦うことさえできないほど弱体化している。
アリエルの力を持ってすれば、クイーンやパペットタラテクトはまだしも、その他の配下に頼る必要はない。
アリエルはたった一人で僕ら古龍を全滅させられる力がある。
それはしない、できない。
そして、本来ならば直撃しても耐性の関係で無傷で済むはずの攻撃を、クイーンがかばった。
もう決定だった。
とった!
そう思った直後、横合いから腕を掴まれる。
僕の貫手はアリエルの体に届く直前で止められていた。
その僕の腕をとった手は、何もない空中から伸びていた。
と、なにかが僕の体にいきなりぶつかり、その何かと一緒に僕は吹き飛ばされ、地面を転がる羽目になった。
慌てて体勢を立て直して立ち上がる。
そこでその何かが目に入り、僕は絶句した。
「主様……!?」
それは僕の敬愛する主様、ギュリエディストディエス様だった。
その体はボロボロに傷つき、瞳からは光が失われ、虚ろな視線を宙に向けている。
まさか、死んで、いる、のか……?
驚愕で身動きの取れなくなった僕のすぐそばに気配が生まれる。
呆然と突っ立っているだけの僕が攻撃を受けなかったのは、その相手もまた満身創痍だったからだ。
白い服をところどころ血で染め、下半身の蜘蛛の体も同様に赤く染まっている。
片目はつぶれ、まるで涙を流しているかのように血を流し続けている。
そんな痛々しい姿でありながら、残った眼はギラギラと強い意志の光をともしていた。
白き神が、まるでアリエルを守るかのように僕の前に現れていた。




