最終決戦⑮
アリエル視点
いつの間にダスティンがここに?
どうやって?
その答えはダスティンの横に立っている老魔導士だった。
空間魔法使いで人族最強と名高いロナント。
転移を使ってダスティンをここまで連れてきたのか。
でもなんのために?
ロナントはラースくんとの戦いでも避難していた。
それは転移が使えるロナントが万が一にもやられてしまえば、活路がなくなってしまうからだ。
それはダスティンにも同じことが言える。
山田くんや大島くんや妹ちゃんも支配者スキル持ちだけど、彼らが全滅した時の保険のためにダスティンは安全圏にいるんだと思っていた。
ダスティンが現れるとしたら、私たちを倒し、安全が確保されてからだろうと。
それなのに、このタイミングでなぜ?
イヤ、考えるまでもないか。
奴もまた、なりふり構っていられないってわけか。
調和、と言ったか?
クイーン二体のブレスをなかったことにしたあのスキル。
おそらくあれは特殊スキルだ。
支配者スキルを取得時に獲得する称号、その称号によって獲得できるスキル二つのうち、二つ目のスキルだ。
私の暴食の場合は昇華というスキルがある。
おそらくダスティンが発動させた調和もそのたぐいだろう。
調和とか言うスキルで何が起きたのか、正確なところはわからない。
ただ、クイーン二体のブレスの被害が全くなかったという結果だけは確かだ。
つまり、調和のスキルには最低でもクイーン二体のブレスを防ぐだけの力があるとみておいたほうがいい。
まあ、乱発できるようには見えないけどね。
ダスティンは全身から血を噴き出していた。
調和のスキルを使った反動だろう。
スキルの中には使用に際してデメリットがあるものもあるけど、特殊スキルのデメリットは大きい。
私も昇華はおいそれと使えない。
というか使ったことがない。
使おうとも思わないくらいのデメリットがある。
調和のデメリットは見た通り、ダスティンが瀕死になるくらい。
だが、ほとんど戦闘力のないダスティンがクイーン二体のブレスを無効化したのだから、費用対効果としては破格の成果だといえる。
でも、だからこそ気にくわないよね。
スキルを介して指示を出す。
クイーンやパペットタラテクトたちには引き続き古龍どもの相手をしてもらう。
その他のアークやグレーター、その他有象無象に対しての指示だ。
狙うのは、ダスティン。
瀕死になった非戦闘員なんて、狙わない方がおかしい。
「いかん! 教皇が狙われておるぞ!」
「私のことは構わず目の前の敵に集中するのです!」
グエンがタラテクトたちの動きに気づくいてダスティンの守りに入ろうと動きかけるが、それを制止したのはダスティン本人だ。
奴はもう自分の命を捨ててでも勝ちに来ている。
自ら退路を断って、後に引けないようにしている。
実際、ここで古龍たちが負ければダスティンたちになす術はない。
そうなれば黒き神の陣営はギュリエが勝つのを祈るばかりだ。
だからここに駆けつけたんだろう。
安全圏から高みの見物をしていだろうと高をくくっていたけど、その予想の裏をかかれた。
でも、これ以上の邪魔はさせない。
「舐めるでないわ!」
しかし、ダスティンに向けて殺到していたタラテクトたちが炎に薙ぎ払われる。
ロナントの火の魔法だ。
チッ!
人族最強の魔法使いの名は伊達じゃないってことか。
今の一撃でタラテクト以下は全滅。
グレータータラテクトでさえ、深手を負っている。
アークタラテクトでようやく互角か?
人族のくせに、強いじゃないか。
もちろん古龍どもに比べれば弱い。
けど、無視しえない程度には戦力として機能している。
イヤ、それはロナントだけじゃない。
結界を張っている大島くんもそうだけど、山田くんもちょこちょこタラテクトたちを倒している。
山田くんも、グレーターくらいならば一人で倒しそうだ。
ちょっと彼ら人族のことを甘く見ていたようだ。
そうこうしているうちに、パペットタラテクトたちが押され始めた。
やはり、パペットタラテクトたちでは古龍どもの相手は荷が重かったか。
すぐにクイーンに加勢するよう指示を出すが、その指示を無視するようにクイーンの一体が私の前にその巨体を動かす。
視線がクイーンの巨体で遮られる。
ほぼ反射的に万里眼を発動させ、クイーンの体を透かし見て状況を把握。
そこには、私に向かって手を突き出している姿勢のレイセがいた。
……攻撃されそうになっていたか。
たぶん魔法でも打たれたんだろう。
それをクイーンが身を挺して防いでくれた。
クイーンのその判断は正しい。
正しい、が、これはバレたな。
私が、弱体化していることが。
向こうからしてみれば私が一番の脅威のはずだ。
古龍どもがまとめてかかってきたとしても、全盛期の私ならば勝てた。
それをしないことに、あっちも疑問を持っていたはずだ。
それが、クイーンにかばわれたことで確信に変わったはず。
全盛期の私ならばかばわれる必要なんてないもん。
クイーンがかばったということは、それが必要だったということ。
レイセが襲い掛かるパペットタラテクト二体をいなし、突き飛ばす。
その隙に走り出す。
私に向かって。
その目はまっすぐ私のことを見据えている。
これは完全に私のことを狙っているな。
私も山田くんたちやダスティンを狙ったから、そのレイセの対応を責められない。
クイーン二体はレイセの迎撃に動いた。
二体のクイーンがレイセに向けてブレスを放つ。
タイミング的に躱すことはできない。
いくら弱体化しているとはいえ、それでもクイーンの力は古龍と同等。
二体のクイーンのブレスの直撃を受ければ、古龍であるレイセもただでは済まない。
「調和!」
しかし、それは直撃すればの話。
再び発動されたダスティンの特殊スキル。
クイーンのブレスはレイセに直撃したはずが、レイセはダメージを受けることなくブレスの中を突き進んでくる。
あの調和とか言うスキル、防御力を上げるとかそういうものじゃなくて、ダメージの完全無効化か!
クイーン二体が慌ててレイセに向けて足を振り下ろすが、それすらも調和のスキルのせいか効いていない。
レイセは足を止めることなくまっすぐ私のところまで突っ込んできた。
そして、その貫手が私の胸目がけて振るわれた。