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最終決戦⑭

アリエル視点

 さて、啖呵を切ったはいいものの、状況は悪い。

 こちらの主戦力はクイーン二体。

 クイーンは本来ならば古龍を超えている。

 ただ、白ちゃんに魂の一部を食われた結果、弱体化している。

 おそらく今のクイーンは古龍どもと互角程度でしかない。


 対するあちらはその古龍が五体。

 闇龍レイセ。

 火龍グエン。

 風龍ヒュバン。

 氷龍ニーア。

 光龍ビャク。

 どいつもこいつも厄介な連中だ。


 グエンは単純にすべての能力が高い水準でまとまっている。

 他の連中に比べて爆発力はないけど、その分安定感がある。

 ヒュバンは空中戦を得意とし、高速戦闘では右に出る者がない。

 幸いこのエルロー大迷宮という閉鎖された空間では自由に空を飛び回ることはできないので、その力は半減していると見ていい。

 それでも空気を操る力は侮れない。

 ニーアもめんどくさい相手だ。

 氷と呪い、その二種類の力を使って敵の体力をじわじわと削っていくのを得意としている。

 そのくせ本人は亡き地龍の長、ガキアに次ぐ防御能力を有している。

 持久戦になれば不利なのに、その防御能力で持久戦を強要してくるいやらしい相手だ。

 ビャクは補助特化。

 本人は大した戦闘力を持たない代わりに、誰か一人を大幅に強化することができる。

 山田くんの妹ちゃんの腕に巻き付いているということは、どうやら彼女を強化しているようだ。

 強化された人間の強さは古龍と同等。

 さらにビャク本人は治療魔法の使い手で、ヒーラーの役割もこなせる。

 そして、レイセは……、後のことを考えるとこいつが最も厄介かもしれないな。


 さてさて。

 どうしたものか……。

 ま、打つ手は、決まってるよね。


 私はスキルによってクイーンたちに指示を下す。

 それを受けて動き出すクイーンたち。

 この場にいる蜘蛛型の魔物、そのすべてが一斉に襲い掛かる。

 山田くんに向かって。


「ぬうっ!? 勇者の小僧を守れ!」


 グエンが叫ぶ。

 その顔には焦りが見える。

 そりゃそうだろう。

 この場で最も弱いのは山田くんだ。

 山田くんがこの場にいるのは、彼が支配者スキルである慈悲の持ち主だからに他ならない。

 そして、その慈悲のスキルの効果は死者蘇生。

 ラースくんはその死者蘇生によって古龍どもを復活させられ続け、力尽きてしまった。

 ならば、その厄介な死者蘇生の力を持ちながら、この場では最も戦力の低い山田くんを狙うのは当然のこと。


「悪く思わないでくれ。私はもう、なりふり構わないって決めたんでね」


 転生者だろうと、敵対するのならば殺す。

 ラースくんが転生者でありながら捧げたんだ。

 彼にそこまでさせたのだから、私たちは負けるわけにはいかない。

 向こうだってそれは同じ。

 ラースくんとの戦いで雷龍ゴーカは力尽きて捧げている。

 互いに引けないのならば、あとは全力を尽くすのみ。

 そして先の問答で山田くんの答えは聞いている。

 ならば遠慮は無用。

 一切の容赦なく、殺す。


 殺到した蜘蛛の群れは、結界に阻まれて進行を止めた。

 大島くんの純潔のスキルか。

 純潔のスキルは強力な結界を作る能力。

 大島くんも山田くんと大差ない、どころか山田くんよりもさらにこの場にはふさわしくない弱さだけど、その結界だけはこの戦いでも通用する強度を誇っている。

 ただし、破れないわけではない。


「いかん!?」


 クイーン二体が同時にブレスを放つ。

 さすがの支配者スキルによって生み出された結界でも、クイーン二体の同時ブレスに耐えられるほどの強度はない。

 そして、結界を張っているからには、その結界の中から逃げられないということでもある。

 中にいる者たちを守るための結界が、檻に変わった瞬間だ。


 だが、さすがにこんな見え見えの攻撃を許すほど敵も甘くはない。

 グエンとヒュバンが龍形態に変化、クイーン二体のブレスに応戦し、ブレスを放つ。

 火と風のブレスがまじりあい、相乗効果を発揮してクイーン二体のブレスとぶつかり合う。

 結果は、相殺。


「ぬ?」

「おぅん?」


 グエンとヒュバンが首ヒュバンが首を傾げる。

 ……チッ。

 今のでクイーンの弱体化を悟られたか。

 確証には至らないだろうけど、違和感は抱かれたはずだ。

 そしてこちらが手加減する理由がない以上、クイーンが弱体化していることがばれるのは時間の問題。

 長引けばボロが出る。

 ま、長引けばの話だけどね。


 ド派手なクイーンのブレスに隠れるようにして、山田くんたちに近づく十体の影。

 パペットタラテクトだ。

 その姿は人間とさほど変わらない。

 腕が六本あることを除けば。

 パペットタラテクトの本体は拳大ほどの大きさの蜘蛛型モンスターだけど、自らの糸で作り出した人形を内部から操ることで戦う。

 腕が六本ある人間の姿は、あくまで人形なのだ。


 そのパペットタラテクトが十体、山田くんたちに一斉に襲い掛かる。

 パペットタラテクトのステータスは一万程度。

 古龍たちには及ばないものの、山田くんや大島くんが敵う相手じゃない。

 そして、及ばないとはいえ、古龍たちも鎧袖一触でなぎ倒せるほど脆弱ではない。

 二対一ならば、古龍たちでさえ危うい程度には強い。


 どうせ古龍たちが相手ではクイーンやパペットタラテクト以外は戦力として数えられない。

 アークタラテクトでさえ、あまり役には立たないだろう。

 つまり、この場にいる蜘蛛型モンスターのほとんどは、あってないようなもの。

 戦力的にはこちらの方がやや不利。

 ならばとれる手段は一つ。

 速攻だ。


 迫りくるパペットタラテクトたちの前に、グエン、ヒュバン、人型のままのニーアとレイセ、そしてビャクを腕に巻きつけた山田くんの妹ちゃんが立ちはだかる。

 数の上ではこちらのほうが倍だけど、単体の戦闘力だけを見るならばこちらのほうが劣る。

 パペットタラテクトたちと古龍たちがぶつかり合い、拮抗。

 古龍たちの脇を抜けて山田くんや大島くんを狙おうとするパペットタラテクトたちと、それを阻止しようと動く古龍たち。

 激しい攻防を繰り広げながら、お互いに隙を窺っている。

 だが古龍諸君、忘れていないかね?

 ここにはまだクイーンがいるんだよ?


「おいおい!? あいつら仲間ごとやる気か!?」


 クイーン二体の口に再びブレスの光が灯る。

 射線上にはパペットタラテクトたちもいるけど、それでもいい。

 ここで山田くんや大島くんといった支配者スキル持ちを仕留められれば、連中の企みを潰すことができるのだから。

 黒き神の陣営の勝利条件は私たちに勝つことじゃない。

 私の後ろにある扉、その先にあるシステム中枢へ支配者権限持ちを連れて行き、システムの崩壊を止めること。

 そのためには支配者権限持ちがいなければならない。

 だから、その該当者である山田くんと大島くん、それから妹ちゃんの三人を仕留められれば、私たちが死んだとしてもこちらの勝ちなのだ。


「まずい!」

「止め、られねえ!?」


 クイーン二体のブレスの発射を阻止しようとする古龍たち。

 だが、その邪魔をするパペットタラテクトたち。

 クイーン二体のブレスが放たれれば、自分たちも巻き添えになるというのに。

 パペットタラテクトたちも、この戦いで命を落とす覚悟を決めている。

 その献身に報いるためにも、躊躇いはしない。


「放て!」


 私の合図とともにクイーン二体のブレスが放たれる。

 それは大島くんの張った結界を打ち破り、山田くんたちに直撃する。


 その直前。


「調和!」


 この場にいないはずの男の声が聞こえた。

 そして、パペットタラテクトたちもろとも、敵陣のど真ん中に直撃したはずのクイーン二体のブレスは、何の変化ももたらさずに消えてしまう。


 は?


 状況の変化に頭が追い付かない。

 その一瞬の思考の空白をつくように、古龍たちはパペットタラテクトに一撃を加える。

 パペットタラテクトたちも同様で動きが一瞬止まってしまったのだ。

 さすがに一撃でやられるほど弱くはないけど、一気に形勢が不利になったのは確かだ。


 私はそのことに顔をしかめながら、この状況を引き起こした男を忌々しげに睨みつける。


「ダスティン……!」


 そこには、神言教教皇であるダスティンがいた。

WEB版と書籍版の魔王陣営の主な違い。

・WEB版では魔王を経由してクイーンたちにも並列意思を派遣し、魂を食い荒らしていた。そのためクイーンはみんな弱体化している。

・書籍版ではクイーンや魔王一行とのドンパチが激しかったためにパペットタラテクトは残り四人にまで減っている。ただし、生き残った四人はその後いろんな戦場を経験しているのでWEB版よりだいぶ強くなっている。

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[良い点] 誤字報告 [気になる点] ぬ?」 「おぅん?」  グエンとヒュバンが首ヒュバンが首を傾げる。  ……チッ。  今
[良い点] ストーリーがまた動き出して嬉しいです [気になる点] ヒュバンが首の部分が2回繰り返していたのでミスじゃないかなと思いました。 [一言] 執筆頑張ってください!応援しています!
[気になる点]  グエンとヒュバンが首ヒュバンが首を傾げる。 この一文は誤字でしょうか?
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