最終決戦⑥
火龍グエン視点
しまったー!?
ま、まさか奇襲を受けてしまうなんて!
背に乗せていた人間たちは無事か!?
マグマに落ちてやいないか!?
慌てて気配を確認すると、人間たちは運よく地面のある所に投げ出されていた。
ほっと一安心、してる場合ではないなこれは!
相対する二刀流の剣士。
人によく似た姿ながら、額から二本の角をはやしている。
その姿、アリエルの仲間の一人、ラースとやらに違いない。
風龍ヒュバンと雷龍ゴーカの二人がかりでも負けた相手だ。
ゴーカは単純バカだから負けても、そういうこともあるか、と思うが、ヒュバンはあれで古龍の中でも上から数えたほうが早い強者。
……あまり認めたくはないが、己よりもヒュバンのほうが格上だろう。
そのヒュバンがゴーカと二人がかりでも勝てなかった相手。
人間たちという護衛対象がいる中、果たして勝てるか?
「京也!」
人間の一人、勇者の小僧が叫ぶ。
「……俊、来たんだね」
「ああ」
「なら、容赦はしない」
「!」
勇者の小僧と会話をしながらも、ラースはこちらに隙をさらさない。
少しでも隙をさらそうものなら飛び掛かってやったものを。
「待っ!」
「待たない。問答する時はもうとっくの昔に過ぎたんだ。だから、ここに来たのならば、敵として、斬る」
直後、出現する無数の武器。
空間魔法の空納に入れられていた魔剣の数々。
事前にラースとやらの戦法は聞いている。
あの魔剣を射出し、爆破するのだと。
そしてその魔剣の切っ先は、勇者の小僧やその連れの娘二人に向いていた。
そして放たれるおびただしい数の魔剣。
貴様!
斬ると言いながらそれは爆破ではないか!
「ぬん!」
周囲のマグマを操作!
マグマの津波が魔剣を飲み込む。
魔剣が爆発し、マグマが飛び散る。
い、いかん。
人間どもはこのマグマの飛沫でさえしにかねん!
「レイセ! 小僧どもの避難を!」
「はいはい」
「え? おわ!?」
背後でレイセが勇者の小僧どもを抱え、走り去っていくのを感じる。
「逃がしはしない!」
「貴様の相手は己だ!」
なおも小僧どもに魔剣を放とうとするラースの前に立ちはだかる。
「貴様のほうが格上であろうが、地の利は己にあり!」
この中層には火が満ちている。
火龍である己の力が最も発揮される場!
周囲一帯のマグマをかき集め、その奔流をぶつける!
「この場で己に挑んだことを後悔するがいい!」
ラースと己の力量差はおそらくさほど離れていない。
地の利があればその差も逆転できる。
懸念があるとすれば、憤怒。
だが、あれは発動してしまえば自我を失いかねない諸刃の剣。
早々に発動することはできん。
ヒュバンの話によれば憤怒を使われて敗走したそうだが、追い打ちをかけてこなかったことから発動には時間制限があるのではないかとのことだった。
おそらく、自我を保っていられる時間はごく短いのだろう。
憤怒発動の兆候を見逃さず、そのごく短時間をしのぐことができれば、勝機はある!
「……ソフィアさん、もしもの時は、頼んだ」
殺到するマグマに飲み込まれる瞬間、ラースのささやきが聞こえた。
その意味を理解する前に、
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
体の芯まで震え上がらせるような咆哮が響き渡った。
マグマが爆ぜる。
骨すら焼き尽くすマグマをものともせずに突っ切って、ラースが飛び掛かってくる。
「グ、グオオ!」
反射的にブレスを叩きこむ。
しかし、それすら意にかえさず、直進してくる!
ブレスの直撃をくらったはずなのに!
まるで何事もなかったかのように、わずかな減速すらせずに!
で、でたらめだ!
己の思考加速が効いた状態ですら速すぎると感じる突進。
首を狙って迫りくる刃を前に、咄嗟に己の爪を割り込ませる。
刃と爪が激突し、火花を散らせる。
それも一瞬、爪が切り裂かれ、その先の手に異物がめり込んでいく違和感。
それでもなお止まることなく、刃はそのまま突き進み、己の首を……。
「はっ!?」
気が付けば、己は中層の天井を見上げていた。
すぐさま首に手を回す。
ある。
くっついている。
だが、だが、さっきのは……。
「よかった……」
声が聞こえて、ようやく己はすぐ真横に勇者の小僧がいることに気づいた。
「これは、己は?」
「君は死んでたよ。勇者くんの慈悲で蘇ったのさ」
勇者の小僧の隣にレイセも立っていた。
それにも全く気付いていなかった。
気が動転しすぎている。
しかし、それも仕方がないことなのかもしれぬ。
まさか、死んだだと?
この己が?
ブルリと体が震えそうになるのを、なけなしのプライドで何とか抑え込む。
「奴は?」
「ヒュバンとゴーカが駆け付けてくれたから、今はそっちと交戦中だ」
「そうか」
震えそうになる体を叱咤し、立ち上がる。
「礼を言う、勇者よ」
「俺にはこれくらいしかできませんから」
「卑下するな。それができるだけでありがたい」
見れば、ヒュバンとゴーカがラース相手に為す術もなく攻められている。
ニーアの姿が見えないが、奴もまさか逃げ出しているということはなかろう。
おそらく隠れながらお得意の弱体化のスキルでラースの弱体化を狙っているはずだ。
だが、それでも、ラースを止められる気がしない。
「勇者よ。己らが死んだら、また蘇らせてくれ」
「は、はい!」
「頼んだ」
本音を言えば、また殺されに行くのは恐ろしい。
だが、ここであれは倒さねばならない。
甘く見ていたつもりなどない。
だが、奴は己らの予想を裏切ってきた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
まさか、自我を失うことを恐れず、憤怒を使ってこようとはな!
……己はここで死ぬかもしれん。
否、ここで何度死ぬかもわからぬ。
そして、生き返れるかも、わからぬ。
こんな恐ろしい戦い、生まれて初めてであるよ。
火龍グエン
龍形態の姿は典型的な西洋のドラゴン。超越者っぽく大物感出してるが、かっこつけてるだけで実は内心はいろいろとテンパってたりビビってたりする。




