最終決戦④
引き続き水龍イエナ視点
「なによ、こいつら」
こんなに強いなんて聞いてないわ。
交戦した悪夢の残滓どもは、わたくしの想像よりも断然強かった。
押し寄せる水をものともせず、地面や壁に糸を張り巡らせ、そこに張り付いてこちらに攻撃を加えてくる。
水流で糸を押し流そうともビクともしない。
そして、その糸に掴まればたちどころに身動きできなくなる。
そうしてわたくしの配下たちが次々と犠牲となっていく。
一匹一匹が下位龍に匹敵すると思ったほうが良いですね。
そんなのがうじゃうじゃいると。
たかが魔物の分際で、よくもまあこれだけの力をつけたものです。
魔物は強くなりにくい。
それもそのはずで、魔物とは人類に倒されなければならない存在なのですから。
システムの根幹が人類を鍛え、その鍛えたエネルギーを回収することにあるのですから。
魔物とは、そのための当て馬。
時に人類が魔物に敗北して死ぬこともあるでしょうが、魔物が人類を滅亡させるほど強くなってしまうわけにはいかないのです。
だから魔物が得られる経験値や熟練度は人類に比べて少なく調整されている。
例外として、魔物に転生した転生者、白と呼ばれている今回の首謀者の一人、にはその枷がなかったんでしょう。
でなければわたくしたちのように長い年月をかけ生き抜いてきたならばともかく、生まれて数年そこらの魔物がわたくしたちを超えるほどの力を身に着けるなど、本来ならばありえないこと。
それならば、その眷属らしきこの悪夢の残滓たちにも、その枷が適用されていなかったのかもしれない。
それにしても、ここまでの力をつけるというのは尋常なことではありませんが。
でも……。
「たかが下位龍程度の力で、わたくしを止められると思おい?」
水流を叩きつける。
糸が地面や壁に張り付いてはがせない?
ならば、その地面や壁ごと洗い流せばいいだけのこと。
すべて水で飲み込み、水没させる。
そして、ひとたび水の中に沈めてしまえば抵抗する術はない。
その体内にわたくしの水を流し込み、内側から破裂させる。
口があるのならばそこから。
呼吸をしているのならその呼吸器から。
生物である以上、わたくしの水の侵入を防ぐことはかなわない。
これでもわたくし、古龍の中で最も残酷と言われてましてよ?
悪夢の残滓たちが不利を悟ったのか、後退していく。
逃がすと思おい?
すでに上層の半分以上は水没している。
そして、崩壊もまた。
この分で行けば上層そのものが崩れて、中層にたまった水がなだれ込むのも時間の問題。
水とマグマ。
極度の温度差。
嫌な予感がヒシヒシとするわ。
上層の崩壊、それすなわちエルロー大迷宮全体の崩壊を意味していそう。
そうなったら、本気で掘り起こすつもりなのかしら?
まあ、ダスティンの思惑がどうあれ、わたくしはわたくしの役目を全うするだけよ。
危険感知に反応。
咄嗟に身をひねる。
一瞬前までわたくしの首があった場所を、刃が通過していく。
それを悠長に確認なんてしない。
刃の持ち主に向けてわたくしの水を叩きこむ。
しかし、その水が一瞬で凍り付いた。
「「チッ!」」
相手とわたくしの舌打ちがはもる。
水と氷の攻防。
その結果は、水が凍りついていくことで示されていた。
この場にある水が急速に凍り付いていく。
わたくしはすぐさま下半身も人型の形態に変化し、水から飛び出す。
直後、水が完全に凍り付いてしまった。
あのままそこにとどまっていれば、今頃凍りつけにされていたでしょうね。
氷に触れないよう、空中に浮かびながら、現れた敵手を見据える。
大剣を構えた少女。
ソフィア・ケレン。
アリエル旗下の特記戦力の一人。
アリエルも、さすがにこの状況では切り札の一人を早々に切らざるをえなかったようね。
「今ので仕留めるつもりだったんだけど、やるじゃない」
「あの程度で仕留められると思われるなんて、安く見られたものね」
お互いに一挙手一動を見逃さないよう注視しながらの言葉の応酬。
その間にも新たな水が上層になだれ込み、そして凍り付いていく。
その氷が支柱となり、上層の崩壊を押しとどめていた。
ああ、なるほど。
こうなるのをダスティンは見越していたのね。
いざこうなれば納得。
アリエルとしてもエルロー大迷宮が崩壊するとなれば、それを止めざるをえない。
ダスティンは女神サリエルのいるシステム中枢は無事に済むと言っていたけれど、そんな保証はないしね。
そして、この状況を止めるとなればアリエル本人か、このソフィアを派遣するしかない。
つまり、わたくしのマッチング相手はこのソフィアと言うわけね。
勝ち目は、なさそうね……。
わたくしと相対しながら、上層を満たしつつあった水を徐々に、しかし確実に凍結させていっている。
この時点でわたくしとの力量差は明確。
わたくしが完全に押し負けているということなのだから。
とは言え、これほどの規模のことをしていれば、相応の消耗はある。
ここから導き出されるわたくしの最善手は……。
「とっととけりをつけるわよ!」
「そう言わず、わたくしと踊りましょう」
時間稼ぎ。
すでにわたくしがどうこうせずとも海底と上層は繋がっており、水がなだれ込んできている。
上層の崩壊を防ぐためにも、ソフィアはそれを凍らせ続ける必要がある。
おそらく、上層すべてを凍結させるくらいのことをしなければ、止めることはできない。
引き撃ちに徹しつつ、相手の消耗を誘う。
たとえ勝てなくとも。
ここにソフィアと言う戦力を釘付けにする。
消耗させる。
そこに意味がある。
「踊りましょう! ずっとずっと!」
「しゃらくさいわ!」
わたくしが力尽きるまで、つきあってもらいますよ?
悪夢の残滓
ステータス平均3000程度
ただしいっぱいいる
思ったほど強くないと思われるかもですが、同じように特訓重ねまくってさらに対人戦で経験値稼ぎまくってるメラゾフィスが5000程度で、イエナさん曰くないかもと言っていた魔物逆補正もしっかりあるんでこれでも相当頑張ってるほう




