331 どういうことぞ!?
『と、そういうことになりましたので、頑張ってください』
……なにが?
ねえ、そういうことって、なにが!?
戦闘中だっていうのにポカーンとしちゃうのも仕方ないと思うな!
だってさ、黒とドンパチやり合ってる最中にいきなりDが脳内に語り掛けてきたんだもんよ!
しかも、その内容がヤベえ。
え、全人類に禁忌インストール?
え、祈ることで私か黒に力を送れる?
え、魔王と教皇の主義主張合戦?
……なぁにそれぇー?
私たちがヒーコラ戦ってる時に、何がどうしてそうなるのさ?
イヤ、原因は明確なんだけど!
D、お前だよお前!
人が留守にしてる時になんてことをしでかしてくれてるんだ!
ないわー。
部外者を自称するなら最後まで傍観者でいてくれよ。
思いっきり干渉してきてんじゃん……。
そのあんまりな事態に、黒のほうも動きを止めてしまっている。
攻撃のチャンスだけど、私も頭抱えたい気分だから、とりあえず一時休戦と言うことにしよう。
『と、言ったところですぐには受け入れがたいでしょうし、質問なら受け付けますよ』
私も黒もフリーズしてしまっていたためか、Dがひとかけらの優しさを見せる。
その優しさ、事態をややこしくしない方向に使ってほしかった。
「禁忌を、全人類に配ったと、そう言ったか?」
『はい』
あ、黒が頭抱えた。
そりゃ、頭抱えたくもなるよね。
私でさえあれは結構精神的に来るものがあったし、今頃地上は阿鼻叫喚の地獄絵図になってるんじゃないか?
「禁忌も、一応はスキルだが、そのエネルギーは一体どこから?」
あ!
そういえばそうだよな!
禁忌だってスキルの一種だし、相応のエネルギーを内包しているはずだ。
それを全人類に配るなんてことするには、莫大なエネルギーが必要なはず。
この世界に残ってるエネルギーをそんなことに使っちゃいかんだろ!
『ご安心を。それに関しては私の持ち出しですので』
ほ。
ひとまず安心。
……安心?
持ち出し?
あのDが、エネルギーを、わざわざこの世界のために?
『もっとも、持ち出しと言ってももともとはこちらの世界のエネルギーだったものですが』
私の疑問を解消するように、Dが爆弾発言をする。
もともとこの世界のエネルギーだったもの?
いったいどっからそんなエネルギーが?
『転生者を生み出すきっかけとなったあの爆発ですよ』
……やっぱこいつ私の思考が読めてるんじゃないか?
本人曰く私が神になったことで思考を読むことはできなくなったとか前は言ってたけど……。
まあいい。
そんなことより、エネルギーの出どころについてだ。
転生者を生み出すきっかけとなった爆発と言えば、地球の教室で起きたあれのことだろう。
先々代の勇者と先代の魔王がやらかしたとかいうあれ。
そのせいでこの世界のエネルギーはゴリッと減り、巻き添えくらった転生者たちがこっちの世界に転生することになったわけだね。
しかし、それはDを、正確には管理者を殺すために放たれた攻撃だ。
エネルギーなんて攻撃のためにみんな消費されちゃったんじゃ?
『仮にも神である管理者を殺そうとした攻撃が、教室一つ吹き飛ばす程度の威力しかないなんておかしいと思いませんか?』
……言われてみれば。
神を、管理者を殺すための攻撃。
それがたかがた教室一つ爆破しただけの威力って言うのは、違和感がある。
その程度の威力じゃ、神はおろか、アラバクラスの龍とかも殺せない。
だというのに、それのせいでこの世界に蓄えられていたエネルギーは大幅に減った。
威力と消費されてしまったエネルギーの量が比例していない。
『つまり、その差額となっているエネルギーは私が回収し、保管していたのですよ』
あ、黒がふらっとした。
そりゃ、ちょっと眩暈を感じても仕方ないよね。
先々代勇者と先代魔王がしでかしたDへの攻撃。
それは本来だったら黒に行くはずだったわけで、それを女神サリエルが無理やりDに飛ばしたせいで、転生者がこっちの世界に生まれたりエネルギーが大暴落したりといろいろなことが起きたわけだ。
そのことについて黒はやたら責任を感じてたみたいだからなー。
エネルギーをDがこっそり回収してましたー、なんて言われたら、ショックうけてもしょうがない。
でも、これはかなりの朗報だ。
さすがに全部ではないだろうけど、失われたエネルギーの一部だけでもこの世界に戻ってきたのだから。
……それが禁忌になってるっていうのには目を瞑る。
その時、黒がハッとしたように何かに気づいた。
「待て! 全人類と言ったな!? もしこの状態でシステムが崩壊した場合、人類はどうなる!? 禁忌もまたスキルだろう!?」
あ。
そーいやそうだわ。
禁忌だってスキル。
システムが崩壊した際、人類と言わず、この世界に生きとし生ける生物全部からスキルがぶっこ抜かれる。
そのショックでおおよそ全人類の半数が死ぬだろうって私らは計算してたわけだ。
ただ死ぬだけならまだしも、中には魂崩壊するのも出るだろうと。
そして、スキルを多く持てば持つほど死ぬ可能性が高くなる。
禁忌がスキルである以上、それが上乗せされたということは……。
『もちろん、死ぬ人間は増えたでしょうね』
ですよねー!
あ、黒が膝をついた。
……うん、まあ、その、強く生きて。
『心配せずとも、あなたが勝利してシステム崩壊を防げばいいだけの話ですよ』
待って。
それつまり私が負けるってことなんですが。
そんなこと言ったら黒が張り切っちゃうじゃないか!
『ああ、そうそう。たとえあなたが勝ったとしても、私は報復などしませんのでご安心ください』
バッと黒が顔を上げる。
「だが、あなたは眷属が害されたら決して許すことはないと」
『私は彼女のことを、眷属にする、とは言いましたが、まだ正式な契りは交わしていません。つまり、眷属に内定しているものの、まだ眷属ではないということです』
う、む。
まあ、そうね。
私とDとの間にはまだ何のつながりもない。
『ここで朽ちるようならば、それまで。私の眷属たりえなかったという、それだけのことです』
ムカチーン!
……いえね?
私もですね? 別にね? Dの眷属にね? なりたいわけではね? けっしてね? そうけっしてね! ないのですけどね? そういう言い方をされるとですね? こうね? ムカつくわけでしてね?
ふ、ふふふ。
言うじゃないですか。
ふほほほほ……。
結論、負けるわけにはいかねえ。
お互い負けるわけにはいかない理由が増えてしまった。
改めて私は黒と対峙する。
「後顧の憂いはなくなった。個人的な恨みはない。むしろ、感謝すべきことの方が多い。だが、それでも、私は貴様を倒さねばならん」
決意を新たに表明する黒に対して、私は無言で来いと手招きする。
「行くぞ!」
そして、私たちは戦いを再開させた。
『楽しませてくださいな』
……邪神の観戦者に見守られながら。
やりにく!




