魔王様のおさらい
「クイーンを二手に分けたのは失敗なんじゃないの?」
ダズトルディア大陸側のクイーンから、軍が攻めてきたという報告が来た。
それに対してカサナガラ大陸側に動きはなし。
片方に戦力を集中させて強行突破しようという魂胆が透けて見える。
それに対するソフィアちゃんの感想は、まあ、そう感じても仕方がないと思う。
「とは言え、片っぽを開けておいたらそっちから突撃されただろうしねえ」
苦笑しながら答える。
神言教はあっちこっちに転移陣を設置している。
多少時間がかかっても、軍をどちらかに移動させることはできるのだ。
そして、その多少かかる時間にしても、こっちが防衛のために戦力を派遣するより早い。
結局、両方とも先んじて防衛部隊を配置しておくしかないのだ。
「それじゃあ、今からでも手の空いた方のクイーンを呼び戻すとか」
「それもなあ。カサナガラ大陸側のクイーンを呼び戻した瞬間、伏兵が突入してくるってパターンもあるしねぇ」
さすがに軍規模での伏兵が潜んでるとは思えないけど、少数精鋭の突撃部隊がいないとも限らない。
特に、向こうについてるだろう古龍連中は、クイーンクラスでないと対等以上に渡り合うことは難しい。
「防衛側って不利なのね」
「そうでもないんだけどねぇ」
むしろ防衛側のほうが有利な点は多いんだけどね。
攻め手が有利となるのは、いつ、どこを攻めるかを選択できるって点。
つまり、このしょっぱなの選択こそが攻め手の最初で最後の有利な点なのだ。
それが終わった今、あとは不利な点しか残らない。
クイーン一体という札を無駄打ちしても、お釣りが返ってくると私は思っている。
「ま、戦いは始まったばかりだ。こっちは時間を稼ぐだけでも勝利条件に近づいていく。のんびり遅滞戦術といこうじゃないか」
エルロー大迷宮は広大だ。
上層からこの最下層まで、ただ移動するだけでも相当な時間がかかる。
ショートカットともいえるいくつかある縦穴にしても、すでに対策ずみ。
ノコノコそこにやってくるのならば、むしろ好都合。
正規ルートを進めばそれだけ時間がかかり、ショートカットをしようものならそこで仕留められる。
どっちに転ぼうとも構わない。
「それにしても、あっち結構集まってるわね」
ソフィアちゃんがどこか遠くを見るような目をして言う。
見るような、と言うか、見てるんだろうな。
吸血鬼の能力には分身のようなものもあるし、地上に残ったメラゾフィスくんの様子をそれで見てるんだろう。
「あっちも後がないからね。相当無茶してるはずだけど」
攻めてくるのはもうちょっと先になるだろうって予想してたのに、それよりだいぶ早い。
相当無茶をしたのは予想できる。
ただ、おそらくそれであっちにとっては正解だろう。
早く動けば動く分だけ、あっちにとっては有利だ。
イヤ、有利と言うか、不利になる前に動いたと言うべきか。
おそらく時間経過とともに、比例して人々の混乱も大きくなっていく。
なにせ全人類が禁忌をインストールされたんだから。
禁忌はあるだけで嫌悪感を覚える。
そして禁忌メニューを見るのは精神的な苦痛がものすごい。
だからこそ、多くの人は目を逸らしてなるべく見ないようにしているだろう。
でも、それもいつまでも続かない。
禁忌から発せられる強迫観念。
それにいつまでも抗っていることはできないのだ。
いつかはイヤでも禁忌の中身を見ざるをえない。
そして、その中身を見てしまえば、禁忌からの強迫観念と、罪悪感を煽るその内容を叩きつけられることになる。
そうなれば、私たちに向ける刃に迷いが生じることになる。
たぶんだけど、時間が経てば経つほど、私たち寄りの支持者が増えていく。
もしくは、自殺者などが。
そしてそうなれば、国々は混乱し、戦うどころじゃなくなる。
教皇はそうなる前に迅速に動き、短期決戦に持ち込んだんだろう。
考える時間さえもないはずなのに、最善手を打ってくる。
やっぱりと言うかなんというか、敵に回すと厄介極まりないな。
「私たちの勝利条件はひたすら時間を稼ぐこと。今も白ちゃんがシステム崩壊に向けてこの中で作業をしてくれてる。それが完了するまで、ここを死守する。簡単でしょ?」
そう言って、私は背後に鎮座する扉を指さす。
ここはエルロー大迷宮最下層最奥。
そこにそびえる扉こそ、この世界のシステムの中枢。
サリエル様がいる場所だ。
「逆に、教皇たちの勝利条件は、システムの崩壊が始まる前にここにたどり着き、支配者権限を持つ連中がキーとなってシステム崩壊をロックすること」
つまり、私たちが突破されたら、私たちの敗北ということだ。
「まあ、白ちゃんとギュリエの戦いの結末によっても変化するだろうけど、どっちにしろ私たちがやることに変わりはない」
私たちは白ちゃんの勝利を信じて、ここを防衛する。
私たちにできることをする。
単純な話だ。
「うーん」
と、ソフィアちゃんが何事かを悩み始める。
「何か疑問がある?」
「私たちはいいとして、ダスティンおじ様たちはどうするつもりなのかなって」
「さっき言ったじゃん……」
この子は私の話を聞いてなかったんだろうか?
「勝利条件の話じゃなくて、この戦いが終わった後のことですよ」
「この戦いが終わった後のこと?」
「だって、ダスティンおじ様たちの方法って破綻してないですか?」
「ああ」
言われて納得する。
たしかにそれは私も気になってた。
教皇たちの目的は私たちの阻止、つまり、今まで通りにシステムを稼働させ続けるというものだ。
サリエル様はもう少しで限界を迎える。
サリエル様の後釜としてギュリエについてもらい、ギュリエの持てる力のすべてを放出してエネルギーを規定値にまで到達させる、ということらしい。
しかし、それはムリな話だ。
すでに人類の魂もまた、サリエル様同様限界に近付いている。
サリエル様が限界を迎えるということは、人類の魂もまた限界に達するということ。
そうなれば、人類の魂が回復するまで転生はできなくなり、この世界の人口はどんどん減っていくことになる。
そして人口が減ればその分システムに回収されるエネルギーの量も減る。
このままシステムを通常通り稼働させ続けても、先細りしていくことは目に見えている。
「十中八九、教皇はなんかを私たちに隠してる」
「何かを隠してる?」
頷く。
「あの教皇がそのことに気づいていないはずがない。ならば、どこかで帳尻を合わせることができるって踏んでるんだよ」
あの教皇だよ?
あの化物が、わざわざ破滅に向かうような道をたどるはずがない。
絶対に何か方法を考えている。
「どうやって?」
「さあね。それがわかれば苦労はしないさ」
肩をすくめる。
「ただ、私たちに隠すってことは、私たちにとって都合が悪いってことさ」
そう。
私たちに隠してるってことは、私たちにとって都合が悪いことってこと。
私たちにとってろくでもないことであるのは確実だ。
「はーん。つまりそれごと叩き潰せばいいってわけね」
「早い話がそういうこと」
教皇が何を企んでるのか、それはわからない。
が、やっぱり私たちのすることに変わりはないのさ。
「さて。人類のお手並み拝見とさせてもらおうか」




