集う①
引き続きシュン視点
俺たちは教皇陣営として参戦する意志を伝えに、教皇と面会することにした。
俺よりも先に参戦する意志を固めていたカティアはもちろんのこと、スーもまた参戦するつもりのようだ。
「兄様が参戦するのなら、もちろん」
とのことだ。
人のことを言えた義理じゃないかもしれないが、そんな理由でいいのだろうか?
まあ、カティアの言う通り、人の意志の重さなんて本人にしかわからない。
きっと、スーの中では確固たる意志があるんだろう。
そして、俺たちは教皇と面会することになったのだが、通された部屋ではピリピリとした緊張感が場を包んでいた。
その空気を出しているのは、教皇の対面に座る人物からだった。
「あなたは」
その人物は俺の声に反応し、こちらをちらりと一瞥する。
同時に、そのすぐそばに座っていた二人の人物が俺に向き直り、軽く手をあげた。
「田川。櫛谷さん」
「よう」
それは、エルフの里にいるはずの田川と櫛谷さんだった。
よくよく見れば、教皇の後ろに控えているのは草間とオギだ。
俺たちは促されるまま席に着く。
「どうやってここに?」
「この人の転移でな」
そう言って、教皇の対面に座る人物に目を向ける田川。
「ご紹介しましょう。こちら勇者であるシュレイン様です」
「知っとるよ」
教皇に紹介され、軽く頭を下げる。
それに対して、その人物はつまらなさそうに返事をした。
「儂はロナント。お主の兄の師匠じゃ」
「!」
ロナント様。
それは、帝国の筆頭宮廷魔導士にして、ユリウス兄様の魔法の師匠。
そして、いつかのレストン兄様たちの処刑が刊行された時、王国の王城に潜入しようとした俺たちを迎え撃った人でもある。
その記憶があるからか、咄嗟に身構えてしまう。
「ああ、そう身構えるでない。一応儂は味方じゃ」
面倒そうに手を振るロナント様。
「味方、なんですか?」
俺は訝しげに聞いてしまう。
帝国軍は利用されていたとはいえ、ユーゴーに従っていた。
そして、そのユーゴーの裏には魔族、あの魔王アリエルがいた。
この人がその魔王アリエルとつながっていないという確証はない。
「そりゃそうじゃろ。あのお方への憧れはあるが、死ねと言われてわかりましたとは言えんわ」
ロナント様は不機嫌そうにそう言った。
「あのお方?」
「迷宮の悪夢。否、今は白様と言ったほうが通じやすいか」
白。
それは禁忌のワールドクエストの欄によって広く知れ渡った若葉さんの呼び名だ。
だが、迷宮の悪夢?
「ご存じかもしれませんが、迷宮の悪夢とはかつてエルロー大迷宮に現れた神話級と目される蜘蛛の魔物のことです。そして、おそらく白様と同一の存在かと思われます」
「え?」
教皇の説明に思わず驚きの声を上げてしまう。
迷宮の悪夢のことはエルロー大迷宮を抜けるときに迷宮案内人のバスガスさんに少し聞いた。
それが、若葉さん?
これには俺だけでなくカティアや田川たちも驚いていた。
「白様だけではございません。ラース様、あなた方には京也様と言ったほうが通じるかと思います。彼もまた魔の山脈と呼ばれる場所にて観測された特異オーガです」
「ほう?」
驚き言葉を失っている俺たちに代わり、ロナント様が興味深げに声を漏らす。
「若葉さんも笹島も魔物スタートだったのか」
田川が背もたれに寄りかかりながら息を漏らす。
京也も若葉さんも、俺たちとは全く異なる境遇からのスタートだったんだな。
だとしたら、魔王陣営につくのも納得できる。
俺には想像もできないような経験をしているのだろうから、前世と同じ考えではいられないだろう。
それなのに、俺は京也たちに、「日本の価値観を捨てなくちゃ駄目なのか?」なんて言ったんだな……。
あの時の京也の顔を思い出すと、やるせない気持ちになる。
「じゃあ、リホ、ソフィアも?」
「彼女はまたそれとは異なる、ですが数奇な道筋をたどっております」
田川がソフィアについても教皇に尋ねる。
……こいつ、今ソフィアのことリホ子って言いかけたな。
「サリエーラ国とオウツ国の戦争に巻き込まれ、両親と故郷を失ったところをアリエル様がたに保護されたという経緯があります」
それは、また。
すさまじい経緯だな。
手短に要点だけを絞り出して境遇を聞かせてくれたんだろうけれど、それだけなのにそれが酷い状況だったのだろうと想像を掻き立てる。
ソフィアにとって魔王アリエルは命の恩人なのか。
そりゃ、そっちに協力するよな。
「メラゾフィスって何者なんだ?」
田川がさらに質問を重ねる。
どうやら田川にとってはこっちのほうが本命らしい。
「ソフィア様のご両親に仕えていた従者です。落ち延びる際にソフィア様の手によって吸血鬼になったようです」
「吸血鬼!?」
思わず声を上げてしまった。
「そうです。ソフィア様とメラゾフィス様は吸血鬼です。ソフィア様に至っては初代魔王フォドゥーイ以来の真祖ですね」
いろいろと追加情報が多くて開いた口が塞がらない。
というか、この人はよくまあこんなにいろいろと知っているな。
「ふん。さすがじゃの」
ロナント様が鼻を鳴らしながら教皇を見つめる。
「じゃが、相手の情報を知っていようと、勝てるかどうかはまた別の話じゃ。勝ち目はあるのか?」
ロナント様が眼光鋭く教皇を見据える。
さ、さすがユリウス兄様の師匠。
威圧感がすさまじい。
「勝ちます」
それに対して、教皇は臆することなく言い切ってみせた。
「よかろう」
そう言ってロナント様が立ち上がる。
「ならばこの力、存分に振るってやる」
そして教皇に向かって手を差し出す。
それを教皇も立って握り返した。
「結局弟子入りはかなわんかったが、なれば自らの力で超えてみせるのみよ」
そう言って、ロナント様は不敵に笑った。
「では、できる限りの戦力をその空間魔法のお力でかき集めていただきたい」
そのロナント様に、教皇はにっこりと笑いながらそう言った。
瞬間、ロナント様の表情から笑みが抜け、愕然とする。
「お、お主。儂のことを運び屋として扱うつもりか……」
「これはロナント様にしかできないことです」
天下の帝国筆頭宮廷魔導士のロナント様を、運び屋に。
なんて贅沢な使いかただ。
「ええい! やってやろうではないか!」
ロナント様はそれを断らず、快諾。
若干自棄になっているように見えなくもないが……。




