S7 公爵令嬢
鑑定の式典はちょっとした騒動にはなったけど、一応無事終了した。
騒動の原因は俺とスーのステータスが異常に高いせい、だけじゃなかった。
強化された聴覚で貴族の声を盗み聞いてみると、どうやらスキルポイントというものは、レベルアップでしか手に入らないものらしく、レベル1で10万ものポイントを持っている俺は異常なのだそうだ。
そういえば、スーもスキルポイントは0だった。
これは、多分俺が転生者だからだと思うんだが、気になるのはちょいちょい話題に上る「公爵令嬢」も生まれながらにスキルポイントを有していたらしい。
貴族の話をまとめると、「公爵令嬢」は俺の数日前に鑑定の義を行ったそうだ。
そこで、今までにないような優秀すぎるステータスを叩き出し、ないはずのスキルポイントを有していた。
そして、俺にもあったあの文字化けしたみたいなスキルが「公爵令嬢」にもあったという。
俺の中である推論が浮かび上がる。
もしそうなら、俺は「公爵令嬢」になんとしてでも会わなければならない。
チャンスはすぐに来た。
鑑定の儀のあとは、会場を移して軽いパーティーが行われた。
俺とスーは国王に連れられ、パーティー会場の中心で、貴族の列を迎えることになった。
列に並んだ貴族たちは、それぞれ俺と同年代か、少し上くらいの子供を連れている。
つまりこの場は、年の近い貴族の紹介と顔見せのための場なのだ。
そこで俺は件の公爵令嬢を紹介されたのだ。
「お初にお目にかかります。アナバルド公爵家が長女、カルナティア・セリ・アナバルドと申します」
真っ赤に燃えるような髪に、気の強そうな顔が印象的な美少女だった。
パッと見だけで目を引く存在感があるが、それ以上に、俺の魔力感知が彼女の膨大な魔力を見抜いていた。
俺やスーとほぼ互角の量だった。
アナバルド公爵と言えば、この国でも有数の大貴族だ。
代々国の要職に就いてきた実績と、過去には王家や勇者の血にも繋がる由緒ある血統でもある。
公爵家に生まれた人間は、高い才能と、徹底的なスパルタ教育によって、国を支えるに足るだけの能力を持つように育てられる。
が、それでも目の前の彼女の魔力量は異常だ。
父親と思われる横に控えた赤髪の男性を、既に上回っている。
「初めまして。シュレイン・ザガン・アナレイトです。『よろしく』」
俺はある確信を持って、最後の言葉を日本語で言った。
公爵令嬢の目が一瞬見開かれたあと、スッと細くなる。
その動きで、俺の予想が当たっていたことがよくわかった。
「父上。この子とお話ししてきていいですか?」
「うん?」
国王は俺の言葉に少し迷う素振りを見せた。
まあ、一番に連れてこられた公爵令嬢の後ろには、まだたくさんの子連れ貴族が列をなしている。
ただ、ここで引くわけにはいかなかった。
「ダメですか?」
「ううむ」
国王は俺と公爵とその後ろに控える貴族たちを見比べてから、口を開いた。
「構わん。あまり長い時間離れるでないぞ。少ししたら戻ってきなさい」
「はい。ありがとうございます」
俺は子供っぽく公爵令嬢の手を取って駆け出す。
後ろでスーの気配がものすごい勢いで膨れ上がってたけど、気にしてられない。
俺は会場から出て、控え室になっている個室に入る。
貴族はパーティーを抜け出して商談などの仕事の話をすることもあるので、こういう個室が会場のすぐ近くに作られていた。
ここなら防音もしっかりしてるし、扉の前には衛兵が立っているので安全だ。
「ふう。ここならいいね」
俺はもう隠すことなく日本語でしゃべる。
「まさかとは思ったけど、本当に王子様が転生者だとはね」
そして、公爵令嬢も日本語で話す。
「あー、やべえ、自分以外の口から日本語聞くなんて超久しぶりだわ。ちょっと感動した」
気が強そうな印象は変わらないけど、この令嬢、結構口調が軽い。
「で、聞きたいんだけど、平進高校ってとこに覚えは?」
俺が聞いたのは俺が元通ってた高校の名前だ。
「めっちゃある。やっぱ同じ高校からこっちの世界に転生してきたお仲間か」
予想通り、この令嬢は俺と同じように、あの教室の謎の亀裂に巻き込まれてこっちの世界に転生した、元クラスメイトだったらしい。
「俺の元の名前は山田俊輔。そっちは?」
「ぶはっ!?」
俺が元の名前を言うと、令嬢は汚らしく吹き出した。
「ぶははははははは!ひっ、ふははは!おま、お前、俊かよ!俊が王子とか、くく、似合わねー!」
爆笑する令嬢。
なんだろう、この既視感。
目の前にいる令嬢は見覚えなんて全くないのに、その言動や仕草がよく見知ったやつと重なる。
「ま、まさか、お前、叶多か?」
「おう」
今度は俺が爆笑する番だった。
元男友達で、ゲーム仲間のあの叶多が、まさかの令嬢。
存在そのものが真逆の生物に生まれ変わったようなもんだった。
「笑うなよ。これでも生まれ変わった直後はマジでへこんだんだぜ?」
「いや、わりい。けどお前だって笑っただろうが。おあいこだ」
「だな。けど、お前に会えてよかったわ。今まで結構一人っきりで辛かったからな」
「ああ。そいつは同感だ。会えてよかった」
俺と叶多は互いに拳を打ち付け合う。
そこで、個室の扉が物凄い轟音を発した。
「なんだ!?」
叶多が慌てる。
俺も一瞬慌てかけて、扉の前に誰がいるのかわかって落ち着いた。
いや、別の意味で慌てた。
2度目の轟音で扉が内側に吹っ飛ぶ。
扉の外には、魔闘法で身体能力を底上げしたスーが、魔力撃で振り抜いた拳を構えて立っていた。
スーは俺と叶多を視界に収めると、叶多をロックオンした。
「スー、ストップストップ!」
慌てて叶多との間に俺が体を滑り込ませなければ、スーの拳が叶多を吹っ飛ばすところだった。
「兄様はわたさない」
そのまま俺に抱きついてボソッと呟くスー。
「お前の妹、こええ」
叶多は日本語でそうこぼした。
この日、俺は一人目のクラスメイトと再会した。




