選択の時④
アリエル視点
「見ろ! 人がゴミのようだ!」
「アリエルさん、それ、悪役のセリフですよ」
「言うて私たち悪役みたいなもんだし?」
「……たしかに」
「バルス!」
「アリエルさん、それ唱えるとこの船壊れた挙句に宇宙に飛び立ってっちゃうんですけど」
「宇宙船だし間違っちゃいないかも」
「……たしかに」
そんな割としょうもないことを喋りながら、空の旅を満喫する。
私たちが乗っているのはポティマスとの戦いで鹵獲した宇宙船だ。
ポティマスが最後に脱出のために用意し、白ちゃんにそれすら阻まれてしまったもの。
無傷で鹵獲していたため、こうして私たちで使うこともできたわけだ。
これ以外の兵器は軒並み白ちゃんが破壊して持って行ってしまった。
この船にあったポティマスの研究データに目を通すために破壊せず残していたわけだけど、それがこうして足として使えたのだからよかった。
もしこの船も壊してしまっていたら、今頃私たちは移動もままならずにエルフの里で立ち往生を余儀なくされていただろう。
移動は白ちゃんの転移を当てにしていたため、その白ちゃんがいなくなると支障が大きい。
ホント、この船が残っててよかった。
さて、この船なんだが、元はポティマスが宇宙へ飛び立つために用意していた脱出艇だ。
そして、長い間宇宙をさ迷うことを前提として作られている。
ポティマスが問題なく移住できる星を探すために。
そのため、ポティマスやそのお供たちのための居住スペースはもちろんのこと、食料を生産するための栽培スペース、家畜の放牧スペース、さらにはリラクゼーション施設なんかも充実している。
つまり何が言いたいのかと言うと、やたら広い。
転生者たちはもちろんのこと、魔族軍や生き残りの帝国軍なんかも、収容できてしまった。
帝国軍の生き残りに関してはエルフの里の最寄りの街におろしてきたけど。
あと、希望した転生者の一部も同じくおろしてきた。
タガワクニヒコくんとクシタニアサカさんの二人と、クサマシノブくんとオギワラケンイチくんとハセベユイカさんの神言教組三人の、計五人だ。
「どんな選択をするにしても、あんたらと一緒に行動することはやっぱできない」
タガワくんの言だ。
この二人はメラゾフィスくんに故郷を壊滅させられている。
そのメラゾフィスくんを擁する私たちについていくことは、心情的にもムリだったようだ。
そしてクサマくんとオギワラくん、ハセベさんの三人は神言教とつながりがある。
私たちが神言教と敵対してしまった今、同行することはできなかったようだ。
ハセベさんは目が死んでたけど、大丈夫だろうか?
聖女候補として敬虔な神言教教徒だったハセベさんは、ナツメくんに洗脳されて帝国軍と一緒にエルフの里の襲撃に参加していた。
それだけでも精神的な負担が大きかったようだけど、そこに来てこの騒動だからねー。
……駄目かもわからんね。
まあ、彼女には強く生きてほしい。
エルフの里に潜入していたオギワラくん以外の四人は、人間にしちゃ高い戦闘力を持っていたけど、エルロー大迷宮からかなり遠いエルフの里近くの街におろされたら、もう何もできないだろう。
できることといったら祈ることくらいだ。
どちらに祈るのか、それは彼ら自身が選択すること。
私から言えることはない。
元より私たちとは敵対的な二人と、神言教ゆかりの三人だしね。
白ちゃんに祈るのは、あんまり期待していない。
残った転生者の大半はエルフの里に監禁されてた子たちだ。
エルフの里で生活していたため、外の世界を全く知らないような子たち。
そんな子たちを見ず知らずの地にいきなり放り出すのは、さすがに無責任すぎる。
いったん私のところで保護しておき、落ち着いたらどこかで生活の基盤を作ってあげるのがいいだろう。
問題は、その落ち着くことができるかどうかってところだけど、ね。
例外として有無を言わさず同行してもらってるのが、先生だ。
先生は白ちゃんの恩人で、しかも支配者スキル持ち。
支配者スキルがシステム崩壊を防ぐキーになる以上、監視下に置かざるをえない。
なので、私たちに同行してもらっている。
これでこの船に乗ってるのは、転生者と魔族軍関係者だけとなる。
二人を除いて。
その二人のうち一人が、今この場にはいた。
「それで? 戦況はどうなの?」
「さてな。あいにく本体のことはわからん」
そう言って、ハイリンス、ギュリエの分体は腕を組んだ。
「そうなの?」
「ああ。元からこの体は本体からある程度自立している。普段はハイリンスとして、ギュリエディストディエスとは全く関係なく動いている。時たま本体がこの体に同期してくることがあるが、それも本体側からしかできん。こちらから本体に訴えかけることは、実はできないのだ」
「わかったような、わからないような」
「本体は俺の見聞きしたことをすべて把握できるが、俺自身は本体のことが何一つわからん、ということだ」
「ほーん」
「本体からのフィードバックは同期している時にしかなされない。俺にもギュリエディストディエスであるという感覚はもちろんあるが、それ以上にハイリンスとしての意識が強い」
「あー、そうなのかー」
だからか。
ギュリエと話してるつもりだったのに、若干違和感があったのは。
この目の前の男はギュリエの記憶を一部引き継いでいるハイリンスであって、ギュリエそのものではないってことか。
「……ていうことは、ギュリエ本体にはこっちのことが伝わってるわけ?」
「……どうだろうな」
ギュリエにこっちのことがすべて筒抜けになっているとなると、白ちゃんとの戦いに影響が出かねない。
そう懸念してたんだけど、ハイリンスの返答はあいまいなものだった。
「どういうこと?」
「ギュリエディストディエスも、異空間で神と戦う経験はない。異空間にいるのに俺との繋がりが保てているのかもわからんし、そもそもこちらの状況を把握している余裕があるのかもわからん」
「なるほど……」
結局のところわからない、と。
まあ、ギュリエがこっちの状況を把握していようがいまいが、こっちから何かできるわけでもない。
これは気にしてもしょうがないか。
「それで? あんたはハイリンスとしてどう行動するつもりなの?」
「どう、と言われてもな。この体のスペックは人間としてはそこそこ高めだが、それだけだ。こうしてお前たちの捕虜となっている今、できることはほぼないと言える」
「なんか神様パワー的なものはないの?」
「ない」
ないのか。
ちょっとだけ警戒してたんだけど、この様子なら大丈夫そうか。
「ギュリエに祈るくらいはできるんじゃない?」
「……自分で自分のことを祈るのか?」
「一応意識はハイリンスとしてのものなんでしょ?」
「それはそうだが、なんとなく嫌だ……」
ホントにイヤそうな顔をするハイリンス。
その様子に苦笑してしまう。
少し気が緩んでいたのかもしれない
『ワールドクエストシークエンス3。各代表の主張。魔王アリエル』
「むおっ!?」
だから、いきなり聞こえてきた神言に驚いて、変な声を出してしまった。
いきなり名指しされたのも驚いてしまった理由だ。
そして、その変な声がそのまま頭の中で二重に聞こえてくる。
「え? なにこれ?」
思わずつぶやいた声も頭の中で同時に響いてくる。
「アリエルさんの声が、頭の中で」
「え? 私だけじゃないの、これ聞こえてるの?」
「はい」
ラースくんが頷く。
ハイリンスを見ると、ハイリンスも頷いていた。
そこで、とても、そう、とーっても嫌な予感がしてしまった。
「え? これ、まさか、全人類に生放送とか、そんなわけないよね?」
ワールドクエストシークエンスは今まで、全人類に影響が出ていた。
ということは、まさか、これも、全人類に聞こえているんじゃないか?
しょっぱなの情けない声から、ここまで全部!
「う、ああああー!」
その可能性に思い当たり、思わず情けないうめき声をあげてしまった。
……このうめき声さえ、全世界に響き渡ってしまっているかもしれないとはわかりつつ。




