選択の時③
ダスティン(神言教教皇)視点
神言教の総本山であるこのアレイウス教国、その行政府は常にない慌ただしさに包まれていた。
念話の上位スキルである遠話のスキル持ちを総動員し、各地に派遣されている遠話持ちに連絡を入れている。
神言教はこうして世界中に情報網を広げ、逐次何かあれば私の耳に入るようにしていたのだが、今回はその逆。
こちらから情報を拡散するのが目的だ。
「どのような詭弁を弄しても構わん! なりふりかまうな! なんとしてでも黒龍様に祈りを捧げるよう、民衆を説得するのだ! この際扇動でもなんでもやるのだ!」
遠話持ちが唾を飛ばしながら叫ぶ。
こうなったのもすべて、ワールドクエストとやらのせいだった。
おかげ、と言うべきかもしれぬ。
シークエンス1にて、全人類に禁忌が配られた際は頭を抱えた。
禁忌を見れば神言教のしていること、その意味が理解できてしまう。
それがわかれば、人心は神言教から離れてしまう。
元より、神言教の権威失墜は織り込み済みであった。
どのような結末になろうとも、神言教の発足理由と、これまでしてきたことを考えれば、いつかは消え去る宗教だ。
しかし、それは今では早すぎた。
まだ、神言教という私にとっての手足を失うには早すぎる。
黒龍様たちの戦いの結末を見届けるまでくらいは、神言教は存続していなければならなかった。
その予定を呆気なく打ち崩してしまった、ワールドクエストシークエンス1。
だが、続くワールドクエストシークエンス2にて、光明が見えた。
神言教の失墜はもはや止めることはできない。
しかし、まだ民衆は混乱している。
神言教には今まで信者が心のよりどころとしてきた実績がある。
時が経てば人心も離れようが、今ならまだ聞く耳も持たれる。
時間との勝負だ。
人心が離れる前に、少しでも多くの人々に黒龍様に祈りを捧げてもらう。
時が経ち、混乱が収まり、人々が冷静になった時、そうと誘導した神言教は誹りを受けようが、元より滅びることを前提としていたのだ。
少しばかり予定が早まったという、ただそれだけのこと。
神言教という大きな手札を手放さねばならぬタイミングとしてはベストとは言い難い。
しかし、少なくともベターにせねばならない。
「教皇様!」
険しい顔で遠話で会話をしていた一人が駆け寄ってくる。
表情を見ればそれが吉報ではないことがわかる。
「何か問題が?」
「はい。教会が何者かに破壊されたということです」
「……すでにそのような行動をとる地域も出てきたか」
予想はしていたことだ。
人は信頼していたものに裏切られた時、激しい憎悪を持つ。
親愛の強さがそのまま反転し、憎悪となるのだ。
であれば、心のよりどころとしていた宗教に裏切られていたと知れば、どうなるか。
簡単に予想がつく。
「いえ。それが、どうやら民衆が暴徒と化したなどではないようです」
「なに?」
予想と反する答え。
では、いったいなにが?
「空を飛ぶ巨大な円盤が通り過ぎ、その際に教会が破壊されたということです」
「……やられたか」
空を飛ぶ円盤。
そんなものを所有しているのはただ一人。
いや、所有していた、だな。
ポティマス・ハァイフェナス。
あの男が作った兵器か何かだろう。
そして、あの男が死んだ今、その兵器を接収できた人物は、ポティマスを倒したアリエル様しかいない。
となれば、教会を破壊したのもアリエル様だと考えるのが自然だ。
「教皇様!」
別の遠話の使い手が声を上げる。
「そちらも空飛ぶ円盤に教会を破壊されたという報告か?」
「は、はい」
「場所は?」
そして教会の破壊された街の場所を確認し、地図で位置を照らし合わせる。
そうしている間にも同様の報告が多数上がってくる。
移動速度が速い。
さすがポティマスの作ったものだけある。
業腹だが、あの男の優秀さは認めねばならない。
「……まっすぐエルロー大迷宮に向かっているか」
割り出された空飛ぶ円盤の進路は、まっすぐエルロー大迷宮に向かっていた。
その途上にある街の教会をついでに破壊しているようだ。
こちらの方が地理的に近いと油断していた。
これではアリエル様がたのほうが早くエルロー大迷宮に到着する。
転移を自在に操る白様を黒龍様が抑えてくれているからと、悠長にしていたのは失敗だったか。
ポティマスが討たれるのを確認する前に発つべきだった。
……いや。
その時はまだ、アリエル様がたの目論見はわかっていなかったのだ。
予想はできていたとはいえ、ポティマスを共に討つという共同体制をとっていたあの時に、裏切るようなまねはできなかった。
悔やんでも仕方がない。
アリエル様がたのほうが先にエルロー大迷宮に到着し、そこに陣取り守りに入ることはもう確定してしまった。
それよりも、今はこちらの対処をしなければ。
「教会が破壊された街の様子は?」
「やはり神罰なのではないかという不安の声がささやかれているようです」
やはり、そうなるか。
この時期に教会が人知を超えた空飛ぶ円盤などというものに破壊されたとあれば、そのように捉えられても仕方がない。
神言教への不信を加速させる、アリエル様の嫌がらせだ。
「どうしますか? このままでは……」
「……現地の神官に、白様を信奉している旨の発言をさせろ」
「は?」
呆気にとられる遠話使いたち。
だが、方法はこれしかない。
悪辣だと罵られようと、手段を選んでいられる段階はとうに過ぎた。
神言教の人心離れが加速した地で、神官が白様を信奉する発言をすればどうなるか?
反発から黒龍様への祈りを捧げるものも出よう。
「なるべく民衆を煽るような演説をするのだ。そのうえで白様の名を出せ」
そのような演説をした神官の行く末がどうなるか……。
だが、やらねばならない。
私の決意を感じ取ったのか、遠話使いたちが遠話を始める。
……すまぬ。
すべての責は私にある。
だからこそ、私には責務を全うする義務があるのだ。
アリエル様がエルロー大迷宮に先に到着するのであれば、それもよし。
先回りができないのであれば、少しでも多くの祈りを黒龍様に捧げさせるべく、行動する。
なに、これでも大昔は大統領選を制して大統領になった男だ。
票の集め方は、熟知している。




