前哨戦 鬼VS風雷①
『死にさらせぇ!!』
豹のような龍の体が発光し、バチバチという不穏な音が響き渡る。
咄嗟に手に持つ刀のうちの一振り、雷の力を宿した魔刀の力を解放する。
それをそのまま刀を振りぬくと同時に放つ!
次の瞬間、雷鳴が響き渡った。
耳が馬鹿になりそうなほどの轟音。
目が潰れそうな閃光。
そして、肌を焼くような熱風が押し寄せてくる。
『はーっはっは! これで跡形も残らねえだろ!』
耳鳴りがする中、勝ち誇ったような豹龍の声が聞こえてくる。
『目が、目がぁー!?』
もう一体の龍の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
どうやら今の閃光で目がやられたらしい。
龍にも目くらましが有効だということか。
そう分析しつつ、駆け出す。
攻撃を仕掛けてきた豹龍は今ので決まったと思い、油断しまくっている。
もう一体の龍も目つぶしをくらってまともに動けない。
この隙を逃す手はない。
雷刀を口にくわえ、空いた手に空納から四本の投げナイフを取り出す。
見た目は小さいそのナイフは、しかし着弾と同時に爆発する性質が加えられた炸裂剣だ。
小さくとも威力は申し分ない。
走りながらナイフを投擲。
完全に油断しきっている豹龍から見れば、先ほどの攻撃で上がった土埃によって視界がふさがれている中から、いきなりナイフが飛んできたように感じられるだろう。
『ぬおぅ!?』
豹龍の叫び声と、爆発音。
だが、その叫び声はダメージをくらったものというよりかは、驚きで出た成分が強そうだ。
つまり、ビックリはしたがダメージにはなっていない。
だが、それも想定内だ。
土煙を割いて飛び出す。
手に持ったもう一振りの刀、火の力を秘めた魔刀には、すでに炎がまとわりついている。
両手で握り締めたそれを、豹龍に向って振りぬく。
『おわぁ!?』
豹龍が思わずといった具合にのけぞる。
しかし、本体のその悪手と言える反応に対し、豹龍の周辺を漂っていた紫電は的確にこちらに降り注いできていた。
「くっ!」
口にくわえた雷刀を空に向け、避雷針の代わりとする。
こちらに向かってきていた紫電は雷刀に吸い込まれ、再びの閃光を発する。
雷刀をくわえた口、歯や顎に衝撃が走る。
それを文字通り歯をくいしばって耐え、さらに一歩踏み込み炎刀を振りぬく。
しかし、その時にはもう豹龍はこちらの射程外に逃れていた。
『あ、あっぶねぇ!』
焦ったような豹龍の声。
僕が一歩踏み込む間に、豹龍は十メートルほどの距離を離していた。
やはり、こいつは僕よりも速さが大幅に高い。
そして、今のやり取りで確信したけれど、こいつは雷を司る雷龍だ。
厄介な……。
内心で舌打ちする。
雷龍。
龍はどの属性でも厄介ではあるけれど、中でも雷と闇、この二属性が特に厄介だと僕は思っている。
闇は絶対数が少なく、遭遇すること自体がほぼないのでまだいい。
しかし、雷龍は違う。
数は他の属性と同じくらいいる。
何よりも雷龍は縄張り意識が薄く、たびたびフラッと人里などに現れるのだ。
おそらく、人族や魔族が最も多く戦うことになる龍種こそ、雷龍だろう。
その性質は単純明快。
雷による攻撃と、その体躯を生かした肉弾戦。
それだけだ。
しかし、単純明快だからこそ、純粋な地力が試される。
何が厄介かと言えば、その雷による攻撃だ。
雷の速度は人間が反応できるものではない。
避けることはほぼ不可能だと言っていい。
それでいて高威力。
生半可な防御力では一発で消し炭にされてしまう。
避けることも防ぐことも難しい。
その分MPの消費は激しいものの、MPが尽きる前にこちらがやられてしまう。
雷龍と相対するには、最低でもその雷撃を耐えることが前提となる。
その前提を僕は一応満たしている。
僕の得意属性は雷と火。
そのため、雷の魔剣をよく作っていたし、耐性も獲得している。
さっきやったように、同じ属性の魔剣であればその攻撃に耐えることもできるし、相殺することもできる。
ただし、防げるというのは、あくまで戦える前提を満たしただけに過ぎない。
それがなければ戦いの土俵に上がることさえできない。
つまり、僕はまだ同じ土俵に立てただけに過ぎないということ。
勝てるか否かは、わからない。
雷龍の最大の特徴はその回避も防ぐことも難しい雷撃にある。
それ以外の特徴はと言えば、まず挙げられるのがその素早さだ。
雷龍は全ステータスの中で速度が飛びぬけて高く、その素早さで敵を翻弄して雷撃を叩きこむ戦法を得意とする。
そして物理攻撃力も魔法攻撃力も高い。
半面、防御力は物理魔法ともに龍種の中では最も低い。
龍種特有の龍鱗のスキルは有しているが、そもそも攻撃をくらうことが滅多にない種族なため、スキルレベルは最低の1であることが多い。
つまり、完全な攻撃特化タイプ。
僕もまた、変則的ではあるけれど攻撃に特化しているタイプと言える。
防御面で特筆すべき点はない。
ステータスで言えばバランスタイプと言えるだろうけれど、スキルは完全に攻撃面に振り切れている。
つまりこの戦い、攻撃特化同士のぶつかり合いとなる。
僕の魔剣と、豹龍の雷撃。
どちらが優れ、またどちらが先に有効打を決められるか。
そういう戦いになるだろう。
……僕と豹龍、一対一の戦いであったならば。
『やーっと目が見えるようになってきたぜ。まだチカチカしてやがる』
頭を振るプテラノドンのような龍。
『おいコラテメエ何悠長なこと言ってんだ!? こいつ俺のスパークに耐えやがったぞおい! ヤベーやつじゃん!』
『テッメ! 誰のせいで目がチカチカしてると思ってんだこら!』
『いいからさっさと手貸しやがれ!』
『あ、はい』
二体の龍が油断なく身構える。
今のやり取りから、豹龍のほうがプテラノドンのような龍よりも立場が上なのかもしれないが、気安い態度で接しているのを見ればほぼ同格なのだろう。
ここからはどちらも油断なく攻めてくるはずだ。
さっきのまだ油断しきっている絶好の機会に、手傷の一つでも与えられなかったのは大失敗だ。
だが、まだ悲観するのは早い。
あちらも無傷だけど、こっちだってまだ無傷だ。
戦いはまだ始まったばかり。
じっとりと汗がにじむ手で、魔刀を握り直し、僕もまた構えなおした。




