究極の二択④
田川邦彦視点
「……つまり、若葉さん曰く、この世界の崩壊を防ぐためにそのシステム? ってのをぶっ壊すと。で、そいつをぶっ壊すと人類の約半数が死ぬ」
俺の確認に、アサカは無言で頷く。
思わず頭をかく。
……正直、んなこと言われても現実味がない。
さっき、若葉さんから直接聞いてた話だって、頭ん中で整理するのでいっぱいいっぱいだったんだ。
この上さらにそんな爆弾放り込まれたって、キャパオーバーだっつうの……。
「……どうする?」
「どうするったって、そもそもどうにかできんのか、それ?」
話のスケールがでかすぎて、どうすりゃいいのか想像もできねえ。
明日巨大隕石が降ってきてこの世界は滅亡します、ってのと大差ねえじゃねえか……。
○ルマゲドンみたいに宇宙船に乗って隕石掘削しに行きゃいいのか?
って、今回の話に隕石は関係ねえから!
やべえ、混乱して自分でも何言ってんのかわかんねえわ……。
「どうにか、したいの?」
「……難しい問題だな」
見たことも聞いたこともない神様、ああ、いや、神言で聞いたことはあんのか……って、それはどうでもいいか。
とにかく! 会ったこともねえ神様のことを救いたいかって聞かれると、別にどうでもいい。
若葉さんの残した本に書かれてたらしい、女神さまの境遇や、魔王と呼ばれる人がどうしてその女神様を助けたいのかって理由は、なるほど、納得できる。
この世界が崩壊する原因を作ったのが人類なら、大義は若葉さんたちにあるんだろうよ。
でもよ、だからって人類半分は多すぎだろ……。
しかも、死ぬ確率が高いのはスキルを多く持ってる人間なんだろ?
てことは、俺の冒険者の知り合いはみんな死ぬってことじゃねえか……。
「若葉さんたちが正しいのはわかる。わかるけどよ……。顔見知りが死ぬって、はいそうですかって、そんな簡単に言えねえだろ……」
「……だよね」
幸い、と言っていいのか、俺たち転生者は若葉さんの厚意で死ぬ心配はないらしい。
だから、このエルフの里に軟禁されてて、外とのかかわりがなく、知り合いもいなかった連中はあんま関係ない話だろう。
や、人類が半分になるんならその後の復興だとかなんだとかで無関係ではいられねえのか?
人類が半分になるっていうのがそもそも想像できねえから、その後どうなるのかわからねえ。
ていうか、それ考えたらシステム? とやらがスキルやステータスを司ってるってんなら、それがなくなったらどうなるんだ?
俺たち人間は、まあ、転生する前の魔法も何もできない一般人に戻るだけかもしんねーが、魔物とかはどうなるんだ?
魔物も弱体化してくれんのならいいが、そうじゃなかったらどうやって戦えばいいんだよ?
あー! わっかんねえ!
つーか考えること多すぎて考えがまとまんねえ!
マジでどうすりゃいいんだよ!?
思わず頭抱えたまま座り込んじまう。
「……ていうかさ、それ、どこまで本当のことなわけ?」
「あん?」
声のした方に顔を向けると、尊大な態度で椅子にふんぞり返る漆原がいた。
この場には寝込んでる長谷部と、どっかに行っちまったらしい俊と叶多以外の転生者が集まっている。
注目を集めた漆原が続ける。
「その本に書いてあることとさ、さっきまで話してたこと。全部あたしらには真偽を確認する術がないことじゃん。だったら嘘が入っててもわかんなくない?」
「……言われてみりゃ、そうだな」
若葉さんの雰囲気にのまれて、なんか言われたことそのまま鵜呑みにしてたけど、こっちにはそれが本当のことなのかどうかわかんねえもんな。
嘘をつかれてることは十分あり得る。
「シノー。そこら辺どうなのよ?」
漆原が草間に問いかける。
草間はこの場では最もそこらへんの事情に詳しい、神言教のスパイだ。
同じスパイのオギももしかしたら知ってんのかもしれねーが、オギはこのエルフの里に何年も潜入してたし、生の情報を得ているとしたら草間のほうが多いだろう。
「え? 知らね」
「は? ふざけてんの?」
草間の間の抜けた返答に、漆原がキレ気味のトーンで睨みつける。
「や!? ふざけてない! です! はい!」
ステータスなら断然草間のほうが高いはずなのに、ビビッて背筋を伸ばしてやがる……。
こいつ、生まれ変わっても根っからのパシリ体質っていうか、舎弟気質っていうか……。
「俺もそんな詳しく聞いてねえの! です! はい!」
「本当に? 嘘ついてない?」
「嘘じゃねーです! なあオギ!?」
「俺を巻き込むんじゃねえよ!?」
「おーぎー? どーなのー?」
「あ、はい。嘘じゃないです、はい」
オギ、てめえもか……。
まあ、漆原の威圧感はスキルもねえのに半端ないからしょうがない、のか?
「俺たちが知ってるのはエルフどもを壊滅させるってところまで。マジでそれより先の話は知らねえ。一応世界がやばいって話は知ってたけど、それをどうこうするって話は聞いてないな」
「……世界がやばいのはマジなのかよ」
そこがマジだとすると、それ以外の話にも信憑性が出てくんじゃねえか……。
「ハア。結局どこまでが本当なんだか」
「全部ホントのことだよ」
聞き覚えのない声。
そこで俺は初めて扉が開いていて、人が入ってきていることに気づいた。
……混乱してたからって気づかないなんて、油断しすぎだろ、俺。
入ってきたのは、知らない少女を筆頭に、根岸、京也、そして俺とアサカにとっては因縁のあるメラゾフィスだった。
「やあ。ほとんどの人は初めましてだね。私の名前はアリエル。魔王をしてる」
その言葉を聞いて、俺は即座に立ち上がった。
隣のアサカもにわかに緊張している。
「まあまあ。落ち着いて。危害を加える気はないよ。白ちゃん、若葉ちゃんっていったほうがわかりやすいか。若葉ちゃんが今ちょっと手が離せなくなっちゃったからね。捕捉の説明に来たのさ」
そう言って魔王は鷹揚に笑った。
見た目も態度も、言われなければ到底魔王とは思えない。
だが、あの若葉さんや根岸や京也、そしてメラゾフィスを従えてるんだ。
ただもんじゃねえはず。
……それにしちゃ、ずいぶん弱弱しく見えるが。
見た目に騙されちゃいけねえよな。
「まあ、こっちの説明を聞いて、それで選んでほしいわけだよ。どちらの側につくのかを、ね」
そして魔王は、選択を突きつけてきた。
捕捉:WEB版と書籍版の漆原さんは生まれが違うのでほぼ別人と思ってください




