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究極の二択②

魔王視点

「そっか」


 息を切らせて駆け付けたフェルミナちゃんの報告を聞いて、私が言えたことはそれだけだった。

 白ちゃんに隠密として鍛えられたフェルミナちゃんが、珍しく息を切らせるまで全力疾走して伝えてくれた最新情報。

 ならば、その働きに報いるべく、すぐさま行動に移さなければならない。

 そう思いはすれど、なかなか気持ちが切り替わってくれなかった。

 覚悟はとっくの昔にできていると思っていたけど、いざ実際にその場面に直面すると、こうまで取り乱してしまう。

 どれだけ長く生きても私はまだまだ小娘なんだと実感させられる。

 でも、受け入れねばならない。


 私とギュリエ、そして教皇であるダスティンとの道は、ここに違えたのだと。


 ギュリエとダスティンとの付き合いは長い。

 完全な仲間とは言い難い関係だったけれど、ポティマスとは違ってつかず離れずの、まあそこそこ良好な関係を保ってきていたつもりだ。

 時に方針の違いからぶつかることもあった。

 でも、お互いに目指しているものは明確だったために、決定的な決別には至らなかった。

 けど、それもここまで、か。


「アエル」


 複雑な心境を隠すように、なるべく平坦な声を出すことを心掛けて念話をつなげる。

 相手はダスティンのところに連絡役として置いておいた私の眷属であるアエル。


「教皇を殺せ」


 命令を下す。

 これでもう、後戻りはできない。

 イヤ。

 ギュリエが白ちゃんに手を出した時点で、すでに後戻りはできなくなっていたんだ。

 引き金はすでに引かれていた。

 そして、私の命令がその流れを加速させる。

 まだ、こうなるまでに猶予があると思っていた。

 その猶予を最大限活用しようと、私と白ちゃんは思っていた。

 けれど、D様はそれをよしとしなかったようだ。

 一度加速した流れは、もう戻せない。

 濁流となってこの世界の最後の戦いを勃発させるだろう。

 であれば、邪魔なダスティンにはここで退場してもらうのが一番だ。


 普段であればダスティンを殺すことに大きな意味はない。

 あいつは支配者スキルの一つである節制の効果により、死んでも記憶を継承して転生する。

 死んでから転生までに数年。

 そこからさらに体が成長するまで数年かかるとはいえ、ダスティンがいない間は神言教という巨大組織がその穴埋めをし、世界を正常な形に保っている。

 ダスティンがいない穴は決して小さくはないけど、埋められないほど大きすぎるものでもない。

 それはポティマスが神言教という組織を今まで潰すことができていなかったことから明白。

 ダスティンがいてもいなくても情勢に大きな変化はない。


 が、今ばかりは事情が異なる。

 この大一番にダスティンがいなくなれば、神言教は頭をもがれた烏合の衆となり果てる。

 だけでなく、支配者スキルの権限の空きを作ることができる。

 システム崩壊のキーとなる支配者権限の一つを、空白にすることができるのだ。

 こちらが手にできるわけではないから有利になるわけではないけど、不利な状況をイーブンに持ち込む効果はある。

 だから、このタイミングでダスティンを始末するのが最良。

 ただし、それは向こうだってわかっているはず。


「できないと判断したなら即座に撤退していい」


 アエルに追加の指示を出す。

 あのダスティンが何の備えもせずにいるとは考えにくい。

 アエルは私の眷属の中で、クイーンタラテクトに次ぐ実力の持ち主。

 そうそう後れを取るとは思えないけど、あっちに陣営にギュリエがいるとなると、楽観はできない。

 ギュリエがあちらにいるということは、ギュリエに従う龍種や竜種もまた、あちらの陣営に属しているということなのだから。

 その中でも、古龍の連中は一筋縄ではいかない。

 各属性の長である古龍は、間違いなくアエルよりも格上だ。

 それらがダスティンの護衛をしていれば、暗殺は失敗するとみていい。


 ダスティンにできるちょっかいはこの程度か。

 白ちゃんという空間魔術の使い手が不在の今、私たちには距離という絶対的な壁が立ちはだかっている。

 今私たちがいるエルフの里から、ダスティンのいる神言教の総本山である聖アレイウス教国までの距離を考えれば、アエルに指示を出すだけで精一杯。

 アエルの行動の成否にかかわらず、私たちもまた行動を起こすべきだ。


「白ちゃんのことは、本人に任せるしかない」


 こればっかりは手出しができない。

 フェルミナちゃんが目撃した状況を鑑みれば、白ちゃんとギュリエが戦っているのは私たちが出入りできないいずこか。

 転移でどこに行ったのかわからない。

 それどころか現実空間ではない可能性すらある。

 現実世界で戦っているとしても、この広い世界の中からそれを探し出すのは現実的じゃない。

 白ちゃんを信じるしかない。


 だとすれば、私たちにあとできることは何か?


「……よし。じゃあ、行こうか」

「どこに?」


 黙って成り行きを見守っていたラース君が代表して私に声をかけてくる。


「決まってるよ。残りの支配者スキルの持ち主をこちらに引き込みにね。まずは、すぐそこにいる岡崎女史だ」


 支配者スキルの持ち主はキーとなる。

 私たちの目的であるシステムを崩壊させるための。

 逆に言えば、支配者スキルの持ち主には、それをロックする術があるともいえる。

 つまり、この戦いはどちらがより支配者スキルの持ち主を確保できるかというのが、前哨戦となる。

 そして現状、どっちの陣営にも属していない支配者スキルの持ち主は三人。

 白ちゃんが先生と呼び慕う岡崎女史。

 勇者である山田くん。

 そしてその山田くんの妹であるスーレシア姫も、どうやら支配者スキルを獲得した、らしい。

 ここでの話し合いに一区切りがついた後、白ちゃんはフラッと出ていったわけだけど、その時にそんなようなことをもらしていた。

 山田くんをそのスーレシア姫に会わせに行ってくるって言ってたから、おそらく山田くんはスーレシア姫のいる聖アレイウス教国にいるんだろう。

 フェルミナちゃんの話を聞く限り、山田くんは戻ってきていないっぽい。

 つまり、ダスティンの手元に支配者スキル持ちが二人いることになる。

 白ちゃんめ。

 ぬかったな……。


 ダスティンのところに山田くんとスーレシア姫がいるとなると、この二人はそっちに取り込まれるとみていい。

 であれば、こっちは残ったもう一人、岡崎女史を何としてでも取り込む必要がある。

 口八丁でも何でも使って、丸め込まなければ。

 もしできなければ、最悪でも敵に回らないようにしなければ。

 白ちゃんの前世の恩人らしいから、できれば手荒なまねをしたくはないけど、必要であれば手段は選ばない。


 世界の命運を分ける戦いなんだ。

 情は、もう捨てる。

 だから、ギュリエ、ダスティン。

 覚悟しろ。

 私も覚悟、決めるから。

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― 新着の感想 ―
かっこいい。アリエルが一番かっこいいよ。
[一言] >そもそも皆が死んで異世界転生したのは、ポティマスによるD狙撃のせいなわけだし D狙撃じゃなくて元々の狙撃対象は黒で、目標がDになったのは女神の干渉のせい。 管理者である黒にあの攻撃をする…
[一言] アリエル死なないかな…
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