329 神様の殺し方
黒が高速で迫ってくるのを、私は同じ速度で後退することによって、逃げる。
その間にも分体が別の分体を召喚し、黒のフィールドを塗り替えていく。
空間魔術の扱いでは私が一歩上を言っているみたいでホッと一安心。
ここで負けていたらお話にならない。
空間魔術で最低でも拮抗できなければ、その時点で詰みなんだから。
このフィールドに引きずりこまれた直後の私の醜態を思い返せば、いかにフィールドというものが凶悪なのかわかるってもんよ。
自分にバフをかけて、相手にデバフをかけるようなもんだからね。
抵抗する手段がなければ、為す術もなくやられちゃう。
だから、空間魔術は神において必須の技能。
byD謹製神の基本講座。
ここまでは格上の神と戦う前提条件。
スタートラインに立ったに過ぎない。
空間魔術が同等以上でなければ、戦う資格さえない。
私のほうが上回っていたのは嬉しいことだけれど、それも最初の奇襲によるダメージで相殺されちゃってるようなもん。
初動が遅れた分、私のフィールドの展開は遅い。
黒のフィールドを侵食できてはいるものの、その速度はじわじわって感じ。
長期戦を覚悟しなければ、完全に塗り替えるのはムリだね。
でだ、今の私の状況はというと、とーってもまずい。
空間魔術が同等以上っていうのが前提条件。
それは満たすことができた。
けど、奇襲による初動の差でこっちはダメージを負い、本来なら私のフィールドにおびき寄せるはずだったのが、逆に黒のフィールドからスタート。
加えて、黒は格上。
格下の私が黒に勝つためには、私のフィールドで有利に立ち回らなければならない。
それができてないんだから、ヤバイ。
「むっ!?」
ビルとビルの間に張り巡らされた糸が、黒の体をからめとる。
分体があらかじめ設置しておいた蜘蛛の巣。
もちろんただの糸じゃありませんとも。
空間魔術を併用し、物理的にはほぼ切断不可能な糸。
これに捕まったら最後、抜け出すことはできない。
はずなんだけどなー。
黒が腕を無造作に払う。
たったそれだけの動作で、私自慢の糸がプツッと切られ、消滅していく。
チート結界め!
私の糸は魔術によってできている。
つまり、全ての魔術を問答無用で消去してしまう、黒の龍結界には通用しない。
わかっちゃいたことだけど、糸に絡まって身動き取れなくなる神様なんていう面白映像は披露してくれませんか、そうですか。
まあ、それはできたらいいなー、くらいの気持ちで、本命は時間稼ぎなんだけどね。
黒が糸に気をとられた一瞬の隙をついて、私はさらに距離を稼ぐ。
今はとにかく時間を稼いで、黒のフィールドを私のフィールドに塗り替えるのが先決。
反撃はそれからでも遅くない。
ていうか、できないっていうか。
私の手札は少ない。
たぶん神を名乗るにはあまりにも貧弱。
すなわち空間魔術、分体、邪眼。
これだけ。
空間魔術で作り上げた私のフィールド、マイホームにこもり、無数の分体から同時に邪眼を浴びせかける。
私ができる攻撃手段はほぼこれだけと言っていい。
短期間で身に着けられる、本物の神様とやりあえるだけの手段がこれしかなかったっていうのもある。
今分体はマイホーム建築に向けて全力稼働中。
邪眼を使っている余裕はない。
ほぼ一種類しか攻撃手段がないから、それにメタを張られるともう私の勝ち目はなくなる。
そうそうメタられるものではないと信じたいところだけど、その可能性がないわけではなかった。
だからポティマスの兵器と戦う時、できれば見せたくはなかったのだ。
黒の様子を見る限り、邪眼対策はできていない。
そこはまあ一安心ではあるんだけど、奇襲を仕掛けてこちらの出足を挫くっていう手段に出たからなー。
うん。
単純だけど超有効。
おかげでマイホームも邪眼も封じられて、守勢に回らされてるんだもん。
けど、裏を返せば、不利な状況に追い込まれてもなんとかやれてるってことなんだよな。
奇襲くらってごっそり魔力失ったけど、立て直しがきくくらいで済んでる。
正直、最悪一発くらったら即死くらいありえるって覚悟してただけに、この程度のダメージで済んだのは僥倖。
思ったよりも黒の攻撃性能は高くない。
接近してこようとしてきてるあたり、遠距離攻撃で威力の高いものはなさそうだし。
龍結界のこともあるし、どうやら黒は防御型の神だな。
神っていうのは理不尽な存在である。
だって、傷をつけても瞬く間に元に戻っちゃうんだから。
黒に傷つけられた私の体も、すっかり元通りになっている。
物理的に神をどうにかするのはものすごく大変。
心臓潰そうが頭吹っ飛ばそうが、すぐに元通りになって復活してくるんだから。
もちろん、頭吹っ飛ばされればいくら神だって、一瞬思考能力を奪われる。
けど、あらかじめ対策をしておけば、自動復活することは容易。
私だって対策してあるんだから、神を名乗る連中は絶対対策してるに決まってる。
そんな神を倒すには、いくつかの方法がある。
大別すると大体二種類。
削りきるか、魂を砕くか。
私が知る魂を砕く代表例が、外道攻撃と深淵魔法。
神を倒しうる手段をサラッと仕込むD。
そこに痺れないし憧れない。
なんてことをしてくれやがってるんですかねー、あいつ。
で、こっちの手段は、私には高度すぎてできない。
そんなもんをサラッと神でもない人々に使わせるD。
そこに痺れないし憧れない。
なんてことをしてくれやがってるんですかねー、あいつ。
大事なことなので二回言いました。
魂っていうのは生物の核そのもの。
いくら神でもこれを砕かれたら生きていけない。
ていうか、神の本体みたいなもんだし。
神の基本講座によると、神々の戦いの主流はこっち。
魂を砕く手段を持って、それを防ぐ手段を持つ。
相手に通用する手を模索して、それを叩きこむ隙を窺う。
そんな感じらしい。
が、私にはそんなものできましぇーん。
こちとら裏技で神になったようなもんで、下積みがないんじゃ。
というわけで、私の取れる手段はもう一個のほう。
削りである。
何を削るのかって?
エネルギーです。
エネルギーは神の原動力。
魂が神にとっての心臓だとすれば、エネルギーは血液。
それを使って様々な奇跡を引き起こしている。
瞬時に傷ついた体を再生させるのだって、このエネルギーを使っている。
エネルギーが尽きていれば、当然それはできなくなる。
つまり、死ぬ。
私は邪眼によって、そのエネルギーを奪い取ることに特化している。
毒を流し込むかのように、じわじわと相手を追い詰める。
ただなー。
この方法には問題がありまして。
というのもね、神って膨大なエネルギーを貯めこんだ連中のことをいうわけじゃん?
でもって、そのエネルギーを枯渇させなきゃいけないわけじゃん?
メッチャ時間かかるよね?
そうなんですわー。
この削りという手段、とーっても時間がかかる。
しかも黒は龍結界持ち。
完全には邪眼を防ぐことはできないだろうけど、削る速度はどうしたって遅くなる。
しかも、私はその前準備のマイホーム建築でてこずってる現状。
黒も私を一瞬で倒すような火力がない。
以上、導き出せる結論。
超長期戦突入。
俺たちの戦いはこれからだ!




