328 白黒つける
まあ、いつかこうなるんじゃないかっていうのはわかっていたこと。
結局のところ何を優先するかっていう話で、それがお互いに違っている。
私と魔王は女神の存在。
黒と女神は女神の意志。
女神の存在を救って、女神の意志をないがしろにしようとしている私たち。
女神の意志を尊重して、女神の存在が消え去ることを黙認している黒たち。
それが相反している以上、ぶつかり合うのは必然。
なんだけどさぁ!
いくらなんでもこれは酷いと思うな!
こっちを踏み砕こうと振り下ろされた黒の足を、横に転がって回避する。
ドゴン! という派手な音がして、黒の足がさっきまで私がいたところにめり込んだ。
綺麗に整地された地面に罅が入る。
地面が木っ端微塵に砕けないからといって、なめちゃいけない。
ここは黒が作り出した異界。
通常の物理法則でものを考えていると、痛い目に遭う。
たぶん、あれくらってたら全身の骨が粉々になってたね。
転がりつつ、地面に手をついて跳ね起きる。
首の骨は治った。
けど、ちょっとストップストップ!
顔面に迫った黒の拳を、上体をのけぞらせて何とか回避!
イナバウワー!
もしくはマトリックス!
そのまま地面に手をついてブリッチ!
エクソシスト走りで離脱!
気持ち悪い?
そんなこと気にしてられるか!
ちょっと黒さん、あんた容赦なさすぎだろ!
奇襲からの自分の領域に引き込みーの、立て直す暇も与えずに攻勢って。
それ格上がやっていいことじゃねーから!
格上ならどこぞの金ぴかみたいに慢心してろよ!
あーた王どころか神でしょうが!
カサカサと逃げる私に、黒が一瞬で追いつき背中を蹴り上げる。
ぐっふおう!
なんかちょっと人体から出ちゃいけない音が聞こえた!
ちょっと本気でシャレにならないんですけどー!?
蹴り上げられ、空中に投げ出された私の体を、黒の拳が打ち抜く。
胸の真ん中を捉えたその拳は、私の体を貫通していた。
ははは。
防御結界張ってるのに意味ねー。
笑いこっちゃないがな。
ちょっとこの状況は本格的にやばい。
体の動きは鈍いし、防御はろくにできないし。
体の動きが鈍いのは、ここが黒のフィールドだから。
主である黒以外はこの場にいる限り、力を発揮しきれない。
まるで水中にいるかのように、体の動きが鈍い。
そして、防御が意味をなさないのは、黒の結界に私の結界が消されているから。
これが本物の龍種だけが持つ、本物の龍結界。
全ての魔術を問答無用で無効化する、チート結界である。
防御に使えば攻撃系の魔術を無効化し、攻撃に使えば今みたいに相手の防御を無効化できる。
まさにチート。
ずるい。
そんなチート能力持っていながら奇襲しかけてきて、万全の態勢でこっちを殺しに来ている。
慢心しない格上とかやってられないっすわー。
黒といつか雌雄を決する時が来たら、まずは私のフィールドに誘い込むつもりだったのに、完全に逆のことされちゃってるじゃないですかー。
ないわー。
ふう。
文句を言ってても始まらない。
こうなっちゃったもんは仕方がない。
いろいろと予定外過ぎるけど、私のやることに変わりはないな。
黒をはっ倒して世界再生計画を始動させる。
「む」
私の胸を貫いている黒の腕を掴む。
同時に下半身を蜘蛛型に変化させ、前足の鎌で切り付ける。
黒は私の手を振りほどき、腕を引っこ抜いて後退。
フィールド効果のせいで動きの鈍った鎌を、悠々と避けた。
龍結界があるんだから、避けなくても問題ないだろうに。
それだけこっちのことを警戒してるってことか。
まあ、おかげで距離を空けることはできた。
ここは黒のフィールドだから、距離を空けることに意味なんてさほどないけど。
そも神が作り出したフィールドっていうのは、その神の体内にいるようなもん。
自分を有利に、相手を不利にする。
ここにいる限り、黒の優位は覆らない。
ま、私がいつまでもやられっぱなしになってるわけはないんだけど。
カサカサと、私の足元の影から白い蜘蛛が這い出してくる。
いくつもいくつも。
白い蜘蛛はまるで空間を食い漁るかのように、出てくるたびにフィールドを歪めていく。
「させん!」
黒が拳を構えて突進してくるけど、白い蜘蛛は四散していく。
もちろん本体である私も後退して黒の攻撃を避けている。
四散した白い蜘蛛たちは、さらに白い蜘蛛を呼び寄せ、呼ばれた蜘蛛がまたさらに白い蜘蛛を呼び寄せる。
鼠算式に増えていく白い蜘蛛。
そいつらが黒のフィールドを食い破っていく。
「これほどか」
けけけけけ!
私がただでボッコボコにされてるとでも思ったか!
……嘘です。
割とガチでボコられてました。
が、ちゃんと分体を動かしてこうして外側から黒のフィールドに侵入する手筈は整えていたのだ!
穴の開いた胸をもとに戻していく。
ふ、戦いはここからが本番だ!
ボコられていたなんてものは私のログにはない!
「ちっ!」
黒が舌打ちする。
私の本体に向けて突進してくるけど、私はどんどん後ろに下がって距離を縮めさせない。
黒の突進速度と私の後退速度が拮抗する。
さっきまでの体の動きの鈍さはもうない。
空間魔術の使い手同士の戦いは、陣取り合戦の様相を呈する。
自分のフィールドを広げ、いかに相手のフィールドの広がりを防ぐか。
そして今、私の分体である白い蜘蛛たちが、ものすごい勢いで黒のフィールドを塗りつぶし、私のフィールドへと変換していっている。
ふはははは!
だてにこれだけ極めちゃいないってもんよ!
特化型なめんなよ!
ああ、認めよう。
総合力では私は黒には及ばない。
奇襲うけてピンチになったのも確か。
ていうか、実はさっきまでの攻防で私の魔力はごっそり減らされた。
黒の奇襲は大成功だよチクショウ。
けど、けどだ!
こっちは神になった時からずっと、あんたを意識して鍛え上げてきたんだ。
そう簡単にやれると思ってもらっちゃ困る。
この勝負の行方が、世界の行く末を決めるといっても過言じゃない。
さあて、ここで白黒つけようじゃないか!
……一応保険はかけとこう。




