表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
545/600

323 勇者と教皇

 妹ちゃんの暴走も丸く(?)納まったところで、そろそろ山田くん治療しないとやばいと思うんだけど?

 床に血だまり作ってるし。


「っ!」


 山田くんの膝がカクッと落ちる。

 出血多量で立ってられなくなったっぽい。

 しかも、お腹には妹ちゃんの剣が埋まったまま体勢を崩しちゃったもんだから、肉を抉る感じで傷を広げちゃってるよ。

 肩に食い込んだ大島くんの剣のほうはすっぽ抜けたっぽいけど、こっちもこっちでざっくり肩の肉切り取っちゃってるし。

 いくら勇者でステータス高めだからっていって、傷を負えばダメージになるしそれがもとで死ぬことだってある。

 ここで山田くんが死んだら妹ちゃんルートのバッドエンドなんだろうか?

 それとも大島くんルート?

 二股修羅場エンドか?


「お兄様!?」

「シュン!」


 膝をついて、そのまま地面に倒れそうになった山田くんを、妹ちゃんが抱き留める。

 大島くんが、ついさっきまで山田くんを切りつけていた剣を放り捨て、慌てて治療魔法の構築を始めた。

 んー。

 しかし、山田くんの怪我を治すには、ちょっと足りないかなー?

 一応大島くんの魔法だけでも、死にはしないまで回復できそうだけど、傷は残りそう。

 治療魔法も万能ではないからね。

 その上の奇跡魔法だったら死んでさえなければ大抵の傷は治せちゃうけど。

 しょうがない。

 さすがにここで山田くんに一生消えない傷痕残ると後味悪いし、助太刀するか。


「白様。ここは私にお任せください」


 そう思った私だけど、それを制止する声。

 振り返れば、そこには数人の女性を伴って教皇が部屋に入ってきていた。

 あー、姿見せるんだ。


「誰?」


 大島くんが突如現れた集団に警戒する。

 まあ、実は突如現れたのは転移で移動してきたこっちのほうなんだけどさ。

 だってここ、神言教の総本山、聖アレイウス教国だもん。

 妹ちゃんを保護していたのは、帝国じゃなくてこっちだったんだよなー。

 実は山田くんの祖国である王国のすぐ近く。

 目と鼻の先に妹ちゃんはいたんだなー、これが。


「お初にお目にかかります。私は神言教第五十七代教皇、ダスティン六十一世。以後お見知りおきを」

「神言教教皇!?」


 大島くんにとって予想以上の大物だったのか、それとも予想外の人物の登場だったのか、とりあえずすんごい驚いている。

 けど、驚いたのは一瞬で、山田くんの治療をしつつ警戒のこもった視線を教皇に向ける。

 チラッと放り投げた剣を見たあたり、相当警戒してるな、これ。

 まあ、神言教と言えば、夏目くんを勇者だと発表して、山田くんを陥れる一因を作った連中なわけだし。

 先生の認識では夏目くんを裏から操ってる黒幕が神言教、ひいてはそのさらに裏にいる管理者だったわけだしねえ。

 

 ん?

 でもそれ、ある意味正解じゃね?

 大体私のせいだし、神言教はそれに協力してたし。


「安心なさい。治療の手伝いをするだけです。エルフが滅びた今、もうこちらに争う理由はありません」


 人好きのする、穏やかな笑みを浮かべる教皇。

 見た目だけなら好々爺。

 そして雰囲気もとても穏やかで、紳士的。

 人を無条件で安心させるような空気を纏っている。

 別にそういうスキルを持っているわけじゃない。

 長年に渡って教皇が素で身に着けた技術だろうな。

 だってお腹の中は見た目通りじゃないもん。


 大島くんも、教皇のその邪気のない雰囲気に困惑。

 その隙に教皇が一緒に連れてきた女性たちがサササッと山田くんに近寄り、治療魔法を展開。

 妹ちゃんや大島くんが妨害する暇を与えず、山田くんの肩の傷を治療してしまった。


 おお。

 なかなかに素早い術の構築と連携。

 一人一人の力は大島くんに大きく劣るけど、それぞれが協力して一つの術を構築することによって、術の効果を大きく上げている。

 彼女たちはたぶん聖女候補なんだろうな。

 長谷部さんが最有力候補として台頭してたけど、それ以外の育成をこの教皇がさぼるはずもないし。


「剣を抜きます」

「それは私がやります」


 聖女候補の一人が、未だに山田くんのお腹に刺さった剣に手を伸ばそうとして、大島くんに遮られた。


「シュン、少し我慢しろよ?」


 大島くんが剣を引き抜き、山田くんが呻き声をあげる。

 そして、すぐさま治療魔法がかけられた。

 ふむ。

 私はその治療を見守りつつ、山田くんに傷跡が残らないように、大島くんたちの術式をこっそり強化した。

 これでよし。


 治療があらかた終わると、聖女候補の女性たちはすぐに山田くんから離れ、教皇の背後に控えた。


「……まずは治療のご協力、ありがとうございます」

「いえいえ。礼には及びません。この程度では罪滅ぼしにもなりませんから」


 不本意そうだけど、それでもお礼を言った大島くんに、教皇は心底申し訳なさそうに答えた。

 本気で申し訳ないって思ってるのかな?

 教皇の腹のうちは私でもわからん。

 大体からして、この場面で姿を見せることそれ自体がよくわからんし。


 教皇は姿を見せる必要なんてなかった。

 ここで姿を見せなければ、まだ夏目くんに上位陣が洗脳されていたとして、神言教の体裁を守ることはできたはずなのだ。

 それで何人か神言教の幹部は首を切られる事態になっただろうけど、神言教の威信を地に落とすより傷は浅い。

 どうしたって評判は落ちるだろうけど、全部夏目くんのせいにしちゃえば、まだ挽回の余地は十分にある。

 なのに、ここで教皇という神言教のトップが顔を出しちゃったら、それもできない。

 私という夏目くんの裏にいた真の黒幕と一緒にいるところを見たら、それだけで察する人は察する。

 神言教は夏目くんに操られていたわけじゃなく、自らの意思で私に協力していたのだということを。


 その証拠に、大島くんは私と教皇の姿を交互に見つめ、険しい表情で目を細めている。

 あれはいろいろと察しちゃった顔だよ。

 だから妹ちゃんの暴走を治めたら、さっさと転移でエルフの里に戻るつもりだったのに。

 なにのこのこと登場しちゃってるんですかー?


「けじめですよ」


 まるで私の思考を読んだかのように、ぽつりとこぼす教皇。


「神言教はもう終わりだということです」


 そして、衝撃の宣言をかました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おじさま?!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ