320 誰も悪くはない。ただしポ、テメーだダメだ
「ホントのこと?」
魔王が黒に問い質すけど、黒は沈黙でもって答えた。
その態度がすでに肯定を示してるんだけどねー。
黒としては自分を狙った攻撃が、いつの間にかサリエルによって防がれてて、しかもそれが原因でMAエネルギー減ったり転生者生み出したりと、妙な事態を引き起こしちゃってんだから責任感じちゃうのも仕方ないわな。
先々代勇者と先代魔王に会わなければ、攻撃の標的にされることもなかったわけだし。
次元魔法だって万能じゃない。
超便利な空間魔法、その進化先である次元魔法は、そりゃすさまじく便利。
けど、できることとできないことははっきり分かれている。
まあ、これはスキル全般に言えることなんだけどね。
スキルとして定められた範囲を超えて行使するには、それこそスキルの根幹となる魔術への理解が深くなきゃできない。
空間魔法を使える人すら少ないんだから、次元魔法を使えた先々代勇者と先代魔王はかなり優秀だったんだろう。
それでもできないものはできない。
次元魔法では、出会ったことのない対象への攻撃は不可能なんだよ。
空間魔法でもそうだったように、次元魔法の第一段階は空間の指定。
その指定した空間に対して、次の魔法を選択して行使する。
転移だったり攻撃だったり。
そして、第一段階の空間の指定でできるのは、術者が一度実際に行ったことのある場所、もしくは出会ったことのある人物。
黒は先々代勇者と先代魔王に会ったことによって、攻撃対象に選択可能な状態になってしまった。
ここで警戒して、黒本人じゃなくて部下にでも行かせていれば、攻撃対象になることもなかったわけだ。
まあ、信用を得ようと本人が出向いちゃったんだろうなー。
それが裏目っただけで。
そして、その攻撃対象を、サリエルがシステムに干渉してDに移した。
ぶっちゃけ、サリエルの思惑はよくわからん。
いくつか理由は考えられるけど、あいつの思考回路は私には理解できないんで、どれが正解なのかわからない。
単純に黒を救いたかったのか、Dを害したかったのか、他に何か思惑があったのか。
こればっかりは本人に聞いてみないとわからんね。
聞く気はないし、興味もないけど。
だってあいつと対面するとイライラしてぶん殴りたくなるし。
まあ、どの理由にせよ、本人に悪気はなかったのは間違いない。
突発的な事故を咄嗟に防いだみたいなもんだし。
防ぎきれてないあたりダメダメな気もするけど。
もし、サリエルが変な干渉をせずに先々代勇者と先代魔王の攻撃が黒に直撃してたら。
黒は死んでたかもしくは大怪我で弱体化。
そしたらポの字も黙ってないだろうし、状況は混沌としただろうね。
最悪ポの字の一人天下か。
ただし、黒を攻撃するのに使ったMAエネルギーの一部は回収できただろうし、MAエネルギーの観点で言えば今の状況よりましだった可能性はある。
この世界で使われれば、全部とは言わないけどMAエネルギーの回収もできなくはなかったはずだからね。
しかも、黒が死ねばたぶんMAエネルギーにプラスされる。
管理者への攻撃が可能な時点で、そういう機能をシステムに組み込んでても不思議じゃない。
神を吸収してMAエネルギーを増加させるような、ね。
一方、今の状況。
黒は無傷で生き残り、代わりにMAエネルギー大暴落。
転生者たちがはーいこんにちはして、激動の時代に突入。
どっちのルートにしろ、状況は混沌としてたか。
ただ、ポの字の抹殺に成功。
この世界の膿というか癌というか、まあ、とにかく一番いらないものは排除できたわけだ。
うーむ。
こう考えると、どっちのルートでもメリットデメリットハッキリしてて甲乙つけがたいな。
ただ、ポの字が生き残ってたらどう考えても悪いほうに転がってく未来しかないって考えれば、今のルートのほうが正解なのか、な?
うん、そういうことにしておこう。
転生者諸君にはいい迷惑だけど。
あ、私は除く。
ほら、私ってばこの世界に転生しなかったらただの蜘蛛として、向こうで一生を終えてただろうし。
それが何の因果かこうして神にまでなったんだから、転生してよかったと思うわけですよ。
およ?
そう考えるとサリエルよくやった?
……拝んどこう。
「ギュリエ。あんたは悪くないよ」
「いいや。やはり私が悪い。私の責任でこんなことになっているということも知らず、のうのうと今まで過ごしていたのかと思うとな」
魔王が、いったんサリエルのことから思考を戻し、黒を慰める。
それに対して黒は自虐的に笑うのみ。
うん。
黒さんMAエネルギーが激減してたことも知らなかったし、その原因は全部ポの字のせいだと思い込んでたからね。
そこに自分の知らないうちに一枚噛んでたって知ったら、このヘタレは責任感じちゃうよね。
どうせどっかの邪神が気を利かせて、懇切丁寧に教えてあげたんだろうなー。
教えられなきゃ、背景の裏なんか知りようもないし。
そんで、それを全部知れる立場にいるのは、あの邪神くらいだもん。
邪神マジ邪神。
え?
私は何でそれを知ってるのかって?
私の情報収集能力を甘く見てもらっては困る!
情報収集専門の分体たちが各地から足を使って現地の様子を見聞きし、システムにハッキングしてる解析班がシステム関連の情報を抜き出し、さらに限定的ながら過去視の邪眼を開発。
この新邪眼で過去を覗き見て、状況証拠やら何やらで推測を重ねて真相にたどり着いているのだ。
私は今ならどんな未解決事件でも解決できる、スーパー名探偵なのです。
まあ、過去視はホントに使い勝手悪すぎて、ほとんど使わないんだけど。
「悪いと思うなら、償えるように今行動すればいいじゃん」
そろそろウジーっとうざくなってきたので、そう言って締めくくる。
「そう、だな。そうしよう」
うんうん。
そうしてくれ。
君にはこの後、でっかいお仕事が待ってるんだから。
先々代勇者と先代魔王が引き起こした事件は、サリエルの手によって今のルートに進んだ。
さてさて。
これから私が引き起こす事件に、この世界の住民諸君はどういうルート選択をするのかな?
まあ、どのルートを選ぼうが、結末は変わらないんだけどね。




