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302 死屍累々

 出向いた先では死体の山が築かれていた。

 イヤ、マジで。

 比喩でも何でもなくホントに。


 山となっている死体の正体は、エルフの里に攻め込んだ帝国軍のなれの果てである。

 夏目くんがここまで率いてきた帝国軍は、エルフと戦い、そのうえ背後から挟撃される形で魔王軍に襲撃されと、散々な目にあって瓦解した。

 もちろん生き残りも結構いるけど、いわゆる軍事的な意味での全滅と言ってもいいレベルで打撃を受けている。

 死傷者が三割超えたら全滅だっけ?

 四割だっけ?

 まあ、それよか被害がでかいのは確実だね。


 夏目くんが直接率いていた部隊は、山田くん一行や先生といった、割と普通の面々を相手にしたので被害も少なめ。

 けど、それ以外の部隊となると、ポティマスの秘密兵器とやりあうはめになったりしてるから、文字通り全滅した部隊もあったっぽい。

 秘密兵器って言っても、私が相手にしたウニだとか、魔王が相手をしたらしいグローリアとかいうのとかとは違う、量産品。

 私が道中でボコボコ壊してたあれだ。

 とは言え、私からしてみるとガラクタ同然のものでも、この世界の人々の基準からしてみるととんでもない脅威。

 普通の人間には対抗できないくらいの強さの兵器で、それが量産品って言うんだからもちろんのことワラワラ出てくる。

 うん。普通に死ねるね。


 結果、出来上がったこの死体の山。

 どうやら生き残った帝国兵と、メラの部下たちが夜通し戦場後から回収してきていたみたい。

 私が寝心地悪いなんて言ってる間に、彼らは戦ったその日のうちに徹夜で働いていたのか。

 なんかすまぬー。

 贅沢言ってすまぬー。

 寝れただけでも好待遇だった。

 異世界の兵士は死ぬまで戦って、死ななかったら徹夜で働かされる、超絶ブラック職業だった件。

 異世界に憧れる諸君! 君も異世界で兵士にならないか?


 ……なんかすっごい哀れに感じてきた。

 もともと帝国軍の兵士諸君は使い捨てられる予定だったわけだし、こうなったのも想定通りなんだけどねー。

 わざわざ死んでもいい、腐敗してる帝国の貴族の兵とかを夏目くんに招集させて編成したんだけど、上が腐ってるだけで兵士たちに罪はないもんなー。

 中には上から垂れてくる甘い蜜を吸ってたのもいるだろうけど。


 まあ、彼らはしっかりと己の役割を全うしてくれた。

 なので、それなりの待遇で弔ってやるべきだと思う。

 さすがにここから死体をそのまま帝国に持って帰ることはできないので、遺品を持ち帰るか、それとも火葬して遺灰だけ持って帰るか。

 どっちにしろ手厚く葬ってやらなきゃね。


 対して、エルフの死体はここにはない。

 全部私の腹の中に消えた。

 より正確に言えば、私の分体たちが手分けして食った。

 これはこれで、私なりに手厚く葬っているんだよ?

 だって、自然界では殺した相手は食べるのが礼儀ってもんでしょ。

 その死体は私に食われ、私の血となり肉となる。

 うむ、素晴らしい。

 ポティマスも自分の身内が神の血となり肉となるんだから、泣いて喜ぶに違いない。


「白様。おはようございます」


 死体の山を眺めていたら、メラが近寄ってきて挨拶してきた。


「朝食はお済ですか? まだでしたら用意させますが」


 なんかやたら手際よく朝食の案内をされた。

 イヤ、うん。

 メラはいろいろと気が回るし、普段であればこういう風に言われても違和感ないんだけど、今は軍団長って立場でここにいるわけで。

 部下がまだ周囲にいるのに、一応役職的には同格の私にここまで気を使う姿は、ちょっとおかしい。

 メラは公私の切り替えもちゃんとできる人物だからね。

 部下にあからさまに自分のほうが下ですって姿は見せないはず。

 ……まさかとは思うけど、メラくんや?

 私が死体を食べるんじゃないかと危惧したりしてないか?


 目を開けていたらきっとジト目になっていただろう。

 そんな雰囲気を感じ取ったのか、メラの目が若干泳ぐ。

 常人には感知できないくらいの些細な動揺だけど、私の目は誤魔化せん。

 この野郎。

 まあ、いい。

 朝食食べてないのは確かだし、ここはメラの言う通りに用意させよう。

 それくらいのことはしてもらわないとこっちの気が済まん。


「ふうぉぉぉぉぉぉ!」


 了承の意味で頷こうとしたところで、奇怪な物体が奇怪な音を発しながら奇怪な動きで迫ってきた。

 そのあまりの奇怪さに私はちょっと動きが止まってしまった。

 が、隣にいたメラはすぐさま反応。

 迫りくる奇怪な物体に手刀を叩きこむ。


「ごふっ!?」


 割と本気なメラの手刀によって地面に叩きつけられた奇怪な物体は、血を吐きながら地に伏し、てない!?

 なんと、その奇怪な物体はメラの手刀をくらいながらも、これまた奇怪なポーズで倒れることを阻止していた。

 人、そのポーズのことを、土下座という。


「どういうつもりだ?」


 メラが怒り半分、困惑半分といった感じで奇怪な物体に問いかける。


「弟子に、弟子にしてくだされ!」


 その奇怪な物体は、これまた奇怪なことを言っている。

 意味がわからないよ。


 メラの訳がわからないって顔で困惑している。

 そりゃ、ねえ?

 いきなり突っ込んできて弟子にしてくれとか言われても、はあ? ってなるわな。

 たぶん私に言ってるんだろうけど、メラは事情も知らないし訳わからんよね。

 私も事情はわかるが訳わからんもん。

 なんだこいつ感が半端ない。


 なんか、この奇怪な物体には深く関わらないほうがいい気がしている。

 私の本能がエマージェンシーを発している。

 これに関わってはいけないと。

 なんだろう、これ。

 なんか、うん、なんか、言葉にできない。


 土下座する奇怪な物体を、そのまま糸で拘束。

 動けなくしてからメラに声をかける。


「行こう」

「えっと、よろしいのですか?」


 困惑しまくりなメラに、力強く頷いて肯定。

 これは放置するに限る。

 ていうか放置するしかねえ!


 奇怪な物体をそのままにして、朝食を食べるべく歩き始める。

 メラのチラチラと奇怪な物体に視線を向けていたものの、私が迷いなく歩いていってしまうので慌てて後を追いかけてきた。

 後ろから「ま、待ってくだされ!」とかなんとか聞こえた気がしたけど、きっと気のせい。

 私には奇怪な音が不協和音となって耳を通り過ぎただけだ。

 それを意味のある言葉として脳内で処理してはいけない。

 転生者たちと会う前に、なんかどっと疲れた。

 ないわー。

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― 新着の感想 ―
[一言] あきらめろんw
[一言] 戦場のゴタゴタの中とは言え、目的地を探し当て魔族の幹部の所までたどり着けるその能力。禁忌スキルの何かを持ってても不思議じゃないレベル。
[一言] うん、ものすごく誰か分かりやすい
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