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過去編⑮

 奴隷の取引先である違法研究機関、それはポティマスのものだった。

 そして、そこに買われていった奴隷の末路は、人体実験。

 摘発され、保護された元奴隷たちは、その人体実験の被害者たちだった。

 吸血鬼化実験の。


 吸血鬼。

 それはおとぎ話で語られる架空の生物と世間では認識されているが、実は実在する。

 生物が特殊な魔術によって変異した姿、それが吸血鬼の正体。

 そして、吸血鬼となった生物は、他の生物の血液を食料とし、血を吸われた生物もまた吸血鬼となる。

 食物を同族に変えてしまうという、他には見られない生態の異様な生物なのだ。

 そんな生物が架空の存在として扱われていたのは、ひとえに龍が吸血鬼を嫌い、排除する方向に動いていたからに他ならない。

 サリエルもまた、吸血鬼は外来種であるために、元となる生物が在来種だったとしても、龍が排除するのを静観していた。

 そして曖昧な伝承のみが残り、架空の生物として扱われるようになったのだ。


 それを、ポティマスは伝承を紐解いて復活させていた。

 吸血鬼の特色はいろいろとあるが、ポティマスが着目したのは不老であるということ。

 自身を吸血鬼にすれば、不老不死の不老の部分を解決することができるのではないかと考えて。

 しかし、いきなり自分にその施術をするなどという大胆な行動をとるような男ではない。

 奴隷を使い、実験を繰り返し、安全が確認されてから実行する。

 そして、吸血鬼化は結局ポティマス自身に施されることはなかった。

 あまりにも危険だったためだ。


 吸血鬼化が施された奴隷は、全て自我を失い、目につく生物に襲い掛かり血を啜るだけの化物へと変じてしまったのだ。

 しかも、そうして襲われた生物さえも吸血鬼にしてしまうというおまけ付きで。

 ポティマスが求める不老不死の姿とは程遠い。

 ゆえに実験を繰り返し、自我が残せないかいろいろと試していた時期に、摘発が起きた。

 ポティマスは直前で摘発に気づき、逃亡。

 そして実験に使われた奴隷たちや実験記録は回収されていった。

 保護した時に、何人かに噛みつきながら。


 そして、吸血鬼化した奴隷に噛まれた幾人かが、時間差を置いて吸血鬼化。

 自我を失い目についた人物に襲い掛かった。

 新たな被害者は血を吸われ、またさらに吸血鬼となって加害者となる。

 鼠算式に増えていく吸血鬼。

 一歩間違えれば世界を大混乱に陥れかねない、大参事だった。


 しかし、それは水際でせき止められた。

 フォドゥーイが倒れたことによって。

 より正確には、フォドゥーイが倒れたことを知った二人の人物が、事態を把握したことによって。

 サリエルとギュリエだ。


 二人はフォドゥーイが倒れたことを知り、見舞いを兼ねて様子を見に行った。

 そして、フォドゥーイが吸血鬼化していることを察知したのだ。

 そこからの動きは迅速であった。

 フォドゥーイを噛んだ吸血鬼、隊長にたどり着き、さらにその隊長を噛んだ元奴隷にたどり着き、警察機関とも協力して素早く吸血鬼の隔離を成し遂げた。

 それでも被害は甚大であったが、初動の速さが功を奏し、最小限の犠牲者だけで済んだと言える。

 残念ながら、吸血鬼化した人々を救う手立てはない。

 そのほとんどが取り押さえる際に抵抗し、射殺されてしまうか、日の光を浴びて自滅してしまった。

 数少ない吸血鬼の生き残りも、自我のない獣のような状態で、隔離されている。


「となると、私もまた隔離対象というわけか」


 そして、唯一自我を保つことに成功したフォドゥーイもまた、その危険性から隔離されることとなった。

 いつ自我を失うかわからない。

 そのうえ、自我を保っていても吸血鬼であることに変わりはない。

 彼の犬歯は、人のものとは思えないほど鋭くとがってしまっている。

 その歯で噛みつき、血を啜れば、その相手を吸血鬼にしてしまえるのだ。

 フォドゥーイの人格云々の前に、危険生物として隔離しておかなければならなかった。


「なるべく不便な思いはさせないよう尽力します。しかし、あなた様に外を自由に出歩く許可は与えられません」

「それこそが不便というものなのだがね」


 説明に訪れた男に、フォドゥーイは皮肉で返す。

 しかし、その口調はどこか弱々しい。

 フォドゥーイ自身、己の身に起きた不幸を受け止めきれずにいた。

 自我を保てたことだけでも奇跡なのだが、それを喜べるはずもなし。

 いくら水を飲んでも癒えない渇きが、輸血用の血液を口に含んだ瞬間潤った時の絶望は、言葉に表せない。

 実験動物にされないだけましなのだろうが、フォドゥーイにとって今回の事件はまさに青天の霹靂であり、事故などの不幸で他界してしまうことよりもある意味ショックが大きかった。

 元より老齢で、残り短い余生を消化するだけの人生だった。

 死ぬことは恐ろしくはあれど、受け入れていたのだ。

 それが、いきなり吸血鬼となって不老となり、しかも生涯隔離され続けるというのだ。

 今まで歩んできた人生のレールを、明後日の方向に外れる事態に、フォドゥーイといえども不安を感じざるをえない。


 こうして、フォドゥーイという財界の重要人物はいったん表舞台から姿を消すこととなる。

 これにより、サリエーラ会の活動はかなり限定されることとなった。

 しかし、それがかえって良かったのかもしれない。

 サリエーラ会はこの後、ある分野に注力することとなる。

 それは、ポティマスの人体実験被害者の保護と治療。

 ポティマスが行っていたのは、吸血鬼化実験だけではなかった。

 その他にも多数の人体実験を行い、その被害者の数は膨大だった。

 それが吸血鬼事件によって明るみとなり、芋づる式に判明していったのだ。

 これによりポティマスは国際指名手配される。

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