300 終戦、そして……
システムを監視していた分体が、勤勉の枠が空いたことを察知した。
支配者権限の空白を埋めるようにすぐさま手配し、システムの稼働に影響が出ないように調整。
さらに、空いたその支配者権限の枠に私の存在を無理矢理ねじ込む。
これで、必要な枠はあと一つ。
勤勉の枠が空いたということは、それすなわちポティマスが死んだということ。
死んだ、というか消滅した、か。
死にたくないと生き続けたポティマスが、ただ死ぬよりも悲惨な末路をたどったのは何の因果なんだか。
因果がありすぎて逆に困るくらいだわ。
糸で雁字搦めにしていたUFOの中に踏み込む。
ウニの大群と三角錐を撃墜したら出てきたこのUFO。
あのタイミングで出てきたということは、こいつこそがポティマスの最後の砦なんじゃないかと思って撃墜せずに捕獲したけど、その予想は当たってたっぽい。
これで実はまだ隠し玉があるとか言われたらビックリだわ。
もしそうだったらポティマスの評価をさらに一段上げないと。
まあ、ポティマス本人が死んだってことは、ホントに最後だったんだろうけど。
無駄に長い道をたどってたどり着いた先で、魔王が椅子に座って目の前のコンソールのようなものを操作していた。
「終わったよ」
「そう」
魔王はこちらに振り向くことなく、端的に言った。
長い因縁に終止符を打って、いろいろな感情が渦巻いているのかもしれない。
淡々とした口調が、むしろそういう感情が溢れすぎてて逆に自分でも自分の感情が理解できない状態になってそう。
あんまりにも感情があふれかえると、逆に無感動な気持ちになるみたいな。
「これ見て」
魔王がモニターを指さす。
そこに映る文字を追ってみれば、ろくでもないことが書いてあった。
転生者の魂を利用した神化実験、ねえ。
長ったらしい理論やら何やらを端折って言えば、それは転生者の魂を対象にぶっこんで神にしよう、という試み。
ポティマスはシステムの力だけではもう神になれないと見切りをつけていた。
いくら経験値という名の魂を集めても、限界を突破することはできない。
だったら、新たな種類の経験値、すなわちこの世界とは別の世界の人間の魂、転生者の魂をを使えば、あるいは限界を突破できるのではないかと。
下らねー。
イヤ、まあ、なんだ。
こう言っちゃなんだけど、これ成功するビジョンが見えないって。
この世界の魂収集しても限界突破できない。
なら別の世界の魂使えばいいじゃない!
それで神になれるんだったら苦労はないっちゅーの。
ポロッと神になった私が言えた義理じゃないけどさあ。
こんな理由で転生者って集められてたんかー。
先生が浮かばれん。
「まあ、ポティマスも本気でこれで神になれるなんて思ってなかったんじゃない? もしかしたらっていう淡い希望みたいな」
「でも、その割にはすんごい慎重に理論を検証して、装置作ってるみたいなんですけどー?」
「ポティマスゆえ致し方なし」
モニターに映し出されている文章には、開発中の機材や、実験を成功させるための検証結果なんかが事細かに記されている。
転生者になるべくスキルを取らせないような生活を強いていたのも、システムによって魂がこの世界になじんで変質しないようにするため、らしい。
なんて言うか、成功する確率が天文学的な低さの実験のために、涙ぐましいまでの細かい努力の跡が見受けられる。
そこまでして神になりたかったか。
なりたかったんだろうなー。
「慎重に慎重を期して、実行に移してなかったのが幸いしたねー。あと一年遅かったら機材も完成して転生者たちはミキサーにかけられてたかも」
恐ろしいことを言わないでほしい。
けど、魔王の言う通りだわ。
今回はポティマスが慎重であってくれて助かった。
まあ、もし転生者に手を出そうという動きがあれば、計画を早めて私が直接殴り込んできてただろうけど。
「これ以外にも、ここにはポティマスのこれまでの研究結果の資料がわんさか」
「わお」
つい声に出してしまった。
ポティマスの研究資料。
ろくでもないのがいっぱいありそう。
「というわけで、ざっと中身確認したら壊しちゃうね」
「それがいいんじゃない」
こんなもん、残しておいても害にしかならない。
むしろ魔王が確認する必要すらないんじゃないかと思う。
「こっちはこんな感じだけど、そっちの首尾は?」
「誰にものを聞いているのかね?」
バッチリに決まってるじゃないか。
ウニや三角錐の残骸はすでに回収済み。
火がこれ以上森に広がらないように鎮火もした。
そんでもって、地下に隠されていた秘密基地も跡形もなく消し飛ばしておいた。
そして、
「エルフの生き残りは先生だけ」
全てのエルフの抹殺完了。
ハーフエルフだとか、クォーターだとかは残ってるけど、純粋なエルフはもうこの世界にいない。
「そっか。じゃあ、あとはこの宇宙船を壊せばホントにお終いか」
「感慨深い?」
「そうだね」
そう言う魔王の横顔は、いつになく穏やかだった。
「あ、そうだ。約束、守ったよ」
約束?
ああ。
死んだら許さないってやつね。
「無事に目標達成しました、ボス」
魔王が椅子をくるりと回し、おどけた様子で敬礼してみせる。
無事に、ねえ。
「それが無事と言えるの?」
「死ななきゃ安い」
魔王は笑って答えた。
椅子から立つことさえできない、瀕死の状態のくせに。
魔王の体に傷はない。
けど、体ではなく、魂に深い傷ができてしまっている。
あれだけ強大だった魔王の気配が、今は酷く弱々しい。
「どんな感じ?」
「んー。たぶん、少し休めば日常生活に支障がないくらいには動けるようになると思う。今まともに動けないのは魔力が枯渇しちゃってるから。それさえ回復すれば、とりあえず動けはする」
「つまり、戦闘は不可能、と」
「さらに寿命を縮めていいならできなくはないけどね」
「魔王」
「冗談だって。どっちにしろ私の寿命はもう長くない。もって一年ってところかな。残りは見届けるための余生に使うとするよ」
もともと、魔王の寿命はもうあまり残っていなかった。
それでも、まだまだあったはず。
それも、今回の戦いで縮めて、残り一年。
「私の役目はここまで。ホントならもっと頑張りたかったけど、後は白ちゃんに任せる」
「任された」
「じゃあ、始めるんだね?」
魔王の問いかけに、私は頷く。
世界の敵であるポティマスは始末した。
ここから先は、世界を救うための物語。
けど、私は世界を救っても、人類を救うとは言っていない。
だから、私は人類の敵としての活動を開始する。
さあ、人類を滅ぼして、世界と女神を救おうか。
それが、女神の意にそわないことだとしても。
☆
《条件を満たしました。『強欲』のスキルを取得しました》
《条件を満たしました。称号『強欲の支配者』を獲得しました》
《称号『強欲の支配者』の効果により、スキル『鑑定LV10』『征服』を獲得しました》
「くふっ! 死んだ! あのクソが死んだ! ああ、これで、これで私は自由! 待っていてくださいお兄様! この力さえあれば、お兄様を私のものにできます! 私だけのものに! くふ、くふふふふふふ!」




