290 エルフの里攻防戦前
エルフの里に張り巡らされた結界。
その真ん前に隠れることなく堂々と陣を敷く帝国軍。
そんでもって、その帝国軍から離れた場所で、ひっそりと陣を構築している魔王軍。
さらにエルフの里に対して帝国軍の反対側に布陣するようにして群れているのが、クイーンタラテクト率いるタラテクト群団。
さらにさらに、魔王軍の反対側にポツンと待機している私と魔王とその配下若干名。
人数的には一番ここが少ないわけだけど、戦力的にはここが一番強いっていうね。
配置的に、エルフの里を中心に時計回りで帝国軍、魔王軍、タラテクト群、私と魔王という、包囲網。
作戦はこうだ。
まずは私がポコッとエルフの里に張り巡らせてある結界を破壊します。
ここで帝国軍が頑張って新型の大魔法で破壊したように見えるよう小細工します。
目くらましくらいにはなるでしょ。
で、夏目くん率いる帝国軍が進軍。
夏目くんはいろいろとヘイトを稼いでくれているので、きっとそっちにエルフの皆さんは殺到してくれるはず。
少なくとも山田くん一行を向ってくれる、と思う。
ていうかそうじゃないと困る。
万が一にも魔王と山田くんが鉢合わせるってことだけは避けないと。
黒、頼むよー?
そこはきっちり誘導してくれよー?
まあ、そうやってエルフたちの目を帝国軍に向けている間に、魔王軍が進軍開始。
エルフたちの横っ面に攻撃を加えると。
魔王軍の指揮はメラと鬼くんに任せてるし、吸血っ子もいるから問題はない。
いざとなればフェルミナちゃんもいるから何とかなる。
エルフの戦力がこっちの思っていた以上だったとしても、彼らならつつがなく撤退できるくらいには粘ってくれる。
ぶっちゃけ吸血っ子と鬼くんさえいればどうとでもできるわな。
でまあ、帝国軍と魔王軍に攻められて二方面作戦を展開しなきゃならないエルフさんたちに、さらにタラテクト群団をプレゼント。
クイーンもいるよ!
クイーンだけでもあかん戦力なのに、さらにアークが14体。
グレーター51体。
その他多数。
もう、こいつらだけでいいんじゃないかな?
普通に死ねる。
阿鼻叫喚の地獄絵図が予想されるけど、その混乱に乗じて私と魔王がエルフの里の内部にこっそり潜入。
転生者の身柄確保だとか、ポティマスの本体殺害だとかを敢行すると。
ポティマスの本体さえ殺してしまえば、この戦争は勝ったも同然。
すでにエルフの里の外にいる分体は全部始末してある。
王国で吸血っ子が始末したのがたぶん最後の分体。
もし漏れがあったとしても、私みたいに本体を分体に移行することなんかできない。
ポティマスはあくまでも本体は本体で、分体は遠隔操作してるだけだからね。
だから本体さえ殺してしまえば、その時点で分体は意味をなさなくなる。
帝国軍も魔王軍もタラテクト群でさえも囮。
最初に囮になってもらう帝国軍は結構な被害が出るだろうけど、元より使い捨てるつもりで集めた軍だからね。
エルフたちをひきつけてくれさえすればそれでいい。
で、魔王軍とタラテクト群でひっかきまわすと。
その隙に本命である私と魔王が動く。
ぶっちゃけ私と魔王だけでその他の全軍合わせたよりも戦力としては上だし。
その魔王と私は今睨み合っていた。
「白ちゃんが何と言おうと、これだけは譲れないなー」
「ダメなものはダメ」
ビリビリとした緊張感が周囲を包み込む。
同行している魔王の配下のパペットタラテクトが、その緊張感に耐えられずに恐怖でガタガタと震えている。
私も魔王も互いに主張を譲らず、睨み合いが続く。
何をもめているのかというと、ポティマスに止めを刺す役をどっちがやるかということ。
私は先生の件もあってポティマスをボコボコにしたい。
プラスで言えば、ポティマスの底が見通せない分、魔王よりも強い私が対処したほうが安全だというのもある。
対する魔王もそこら辺をわかった上で、それでもポティマスと戦いたいと主張している。
そりゃ、魔王はこれまでずっとポティマスにさんざん好き勝手やられていた恨みがある。
私なんかよりもその想いはずっと深いはずだ。
けど、相手はあのポティマス・ハァイフェナス。
たった一人で世界を敵に回してずっと暗躍し続けてきた男。
前に吸血っ子が倒したサイボーグボディや、私が神化するきっかけになった地下の旧世界の施設にあったロボの技術。
それらを考慮すると、ポティマスが抱えている戦力は魔王にも届きうると私は予想している。
こんなつまらないところで魔王にもしものことがあったらと思うと、私としては安全策を取りたい。
だっていうのに、魔王はその説明を聞いても頑として引かない。
それだけだったらまだいい。
私も自分の手でポティマスを八つ裂きにしたい気持ちはあるけど、魔王だってそれは同じかそれ以上。
譲歩しても構わないと思う。
私の手助けがあれば。
「せめて手助けだけは容認して」
「断る。これは私の闘争。何人も介入すること能わず。なんて言ってみたりして」
これだ。
魔王は自分一人でケリをつけると言い張って引かない。
私の手助けも、配下の手助けも一切許さないと。
一対一で長い因縁に終止符を打ちたいと。
「我が儘言ってるのはわかってる。けど、これだけは譲れないんだ。ポティマスは私がこの手でケリをつけなきゃならない。だってあいつは、私の……」
覚悟を決めた、魔王の瞳。
その目でまっすぐ見つめられると、こっちが悪いことをしているみたいな気になってくる。
「死ぬかもよ?」
「もちろんわかってる。元より私の寿命はもうそんなに残ってない。ここで死んだとしても、悔いはない。私が死んだら、そしたら白ちゃんがポティマスを替わりに始末してくれるって信じてるから」
死んでもポティマスは道連れにするって顔して、よくもまあそんなことが言えるもんだわ。
あー。
ないわー。
盛大に溜息を吐く。
ここまで言われたら引かないわけにはいかない。
魔王はその長い生の全てを賭けてポティマスに挑もうとしている。
己の誇りを賭けて。
それを私が否定できるわけないじゃないか。
私がそういう風に言われれば、引かざるをえないってわかった上で言ってるんだから、質が悪い。
「許さないよ」
「え?」
「死んだら許さない。魔王が死んだらその瞬間この世界のことなんか見捨ててとんずらこくから。私にそんな無責任な行動させないためにも、絶対生き残ること。わかった?」
「……了解、ボス」
泣き笑いの表情で敬礼する魔王の顔を見ていられなくて、私はそっぽを向いた。




