285 どう見てもヒロイン
山田くんたちは第三王子の用意した隠れ家に逃げ込んだ。
まあ、隠れ家って言ってもこっちには筒抜けだから、全く隠れられてないんだけどね。
この後その隠れ家に襲撃をかける予定。
その部隊の指揮を執っているのは、大島くん。
前世からずっとそばで支えててくれた大島くんが洗脳されて裏切った時、山田くんはどう出るかな?
私がこんな悪趣味な趣向を凝らしたのは、何も山田くんへの嫌がらせってわけじゃない。
夏目くんは素でそういうことやりそうだけど、少なくとも私はそこまでの外道ではない。
ないったらない。
山田くんに大島くんをぶつける目的は、山田くんのよくわからないスキル、天の加護の効果のほどを確かめるためだ。
天の加護。
それは洗脳した大島くんや長谷部さんから聞き出された山田くんの固有スキル。
山田くんは同じ転生者相手には特に隠しもせず、自分の固有スキルを話してたみたい。
だから労せずしてそのスキルの存在を確認できた。
その効果は、あらゆる状況で自身の望む結果を得られやすくする、というものらしい。
転生特典でもらえるスキルはユニークなスキルが多いけど、その中でも異色なスキルだ。
効果だけ聞くと何そのチート能力って思う。
極論、山田くんがこうしたい! って思えば実際にそうなるっていうご都合主義的なスキルなんだから。
まあ、あくまで望む結果を得られやすくなる、っていうだけで、望む結果を確実に得られるわけじゃなさそうだけど。
もし確実に望む結果を得られるなら、それはどこぞの七つ集めると願いが叶う龍の玉を超えちゃうわ。
そんなんチートオブチートやん。
修正が必要だ。
アップデート早よ。
そんなご都合主義スキルを持つ山田くん。
で、山田くんはさらにもう一つご都合主義な能力を持っている。
それは、勇者の称号。
勇者の称号は人族と魔族をバランスよく争わせるために、いくつかのご都合主義的な隠し能力がある。
その代の魔王があまりにも強すぎたりしてバランスが崩れたりすると、追い詰められた主人公のごとくパワーアップしたりするのだ。
「ここで負けるわけにはいかないんだ! うおおおおお!」
「馬鹿な! 貴様のどこにそんな力が!?」
「これは世界を救うための、勇者の力だ!」
という陳腐な展開が実際に起こりうるんだな、これが。
まあ、魔王って基本魔族から選ばれるわけで、魔族って人族よりも長命でステータスもともと高いから、どうしても勇者よりも強くなりやすいのよね。
そのバランスとりのための救済措置なんだけど。
それやられた魔王はたまったもんじゃないよね。
今の魔王は強すぎてもろこの案件に引っかかる。
魔王と山田くんがぶつかった場合、確実に山田くんの超パワーアップが成立しちゃうんだ、これが。
スキルのご都合主義と、称号のご都合主義。
二つのご都合主義を引き起こす要素を持った山田くん。
本人の能力は大したことない。
なのに、不確定要素となりえる。
だから、ここで山田くんのご都合主義発揮がどの程度のものなのか、試す必要がある。
前世でも今世でも関わりの深い大島くんが立ちふさがったら、山田くんは大島くんの洗脳を解除したいと願うはず。
その結果がどう出るか。
それで山田くんのご都合主義がどこまで通用するのか、計る。
ぶっ壊れスキルたる七大罪シリーズによる洗脳を打破できるのかどうか。
もしそれができるのだとすれば、山田くんのスキルは七大罪シリーズよりも厄介ということになる。
そして、私が見守る中、山田くんと大島くんがぶつかった。
結果だけ言うと、リア充爆発しろ。
何を言っているのかわからないと思うが、これが私の偽らざる感想だ!
「何あれ? 爆発すればいいのに」
私の横で、私と同じ感想を呟く吸血っ子。
うん。そういいたくなるよね?
結果は予想以上だった。
誰がこんなん予想できるか!
大島くんはなんと、自力で夏目くんの洗脳を振り切ったのだ。
それでも洗脳の力を全て取り払うことはできず、自爆することで自分を止めた。
なんというヒロイン力!
ヒーローのために自分が傷つくことを厭わず、全力で自爆するなんて!
そんでもってそこからもすごい。
自爆した大島くんを、山田くんが治療。
自爆をした影響で大島くんは完全に夏目くんの洗脳を振り切り、正気に戻る。
そんな大島くんを、山田くんはお姫様抱っこしつつ鮮やかに撤退。
お 姫 様 抱 っ こ !
お 姫 様 抱 っ こ !
大島くんのあの気絶する前の胸キュン顔。
惚れたな。確実に惚れたな。
どー見てもヒロインです。ありがとうございまーす。
結論。
ラブコメか。
ああ、イヤイヤ。
違う違う。
結論。
山田くんのスキルは、結構やばい。
大島くんが洗脳を振り切ったのは、本人の意志の強さとかもあるかもしれないけど、それでもあそこまで劇的な展開になるとは思えない。
何かしら山田くんのスキルの影響があったはず。
そう考えると、山田くんのスキルは七大罪シリーズよりも厄介ということになる。
ただ、山田くんを逃がすために殿になった第三王子は問題なく捕まえることができてる。
もし、完璧に山田くんの思い通りになるのだとすれば、第三王子も逃げきれていなければおかしい。
山田くんのスキルにも限界はあるということだ。
山田くんのそばにいなければ影響がないとか。
うーむ。
効果自体の影響が見えにくくて、どこまでが山田くんのスキルの力なのか全くわからん。
警戒はするけど、対処は難しいかも。
それにしても、山田くんの持ってる支配者スキル、反則じゃね?
山田くんが大島くんに施した治療は、ただの治療じゃない。
だって、一瞬だけとはいえ、大島くん、死んでるし。
死者をただの治療魔法で蘇らせることなんかできっこない。
それを可能にしているのは、山田くんの持つ支配者スキル慈悲。
その効果は死者蘇生。
その力で山田くんは自爆で死んでしまった大島くんを蘇らせた。
正直、大島くんが自爆した時は焦った。
どう見ても致命傷だったんだもん。
その予想は外れることなく、大島くんは死んだ。
後一瞬でも山田くんが蘇生させるのが遅れていたら、私は転移して駆けつけてただろう。
大島くんが自爆した瞬間、思わず立ち上がっちゃったもん。
山田くんが慈悲を持ってるのを知ってはいても、焦るものは焦る。
しかし、これは逆にチャンスかもしれない。
慈悲のスキルの代償は、禁忌のレベルアップ。
この世界のシステム的に受け入れがたい、死者蘇生を可能にする慈悲。
けど、死者を蘇らせた先には、システムの真実を知らしめるという禁忌が待っている。
それを知った時、死者蘇生がどんな意味を持つのか、気づかないわけがない。
相変わらずDのやることはえぐいわー。
心を折りに来てやがる。
けど、それを利用しよう。
山田くんをおびき寄せて、目の前で死者を作る。
きっと山田くんは死者蘇生を行うはずだ。
そして、禁忌のレベルを上げていく。
そうして禁忌をカンストした時、山田くんはこの世界の裏側を知ることになるんだ。
そうなった時、山田くんは選択を迫られる。
私たちと敵対するか。
それともなければ私たちの手を取るか。
見て見ぬふりをするっていうのも選択肢としてはありだね。
世界の命運なんて重いもの、普通の人間だったら背負えない。
もし敵対するなら、その時は全力で叩き潰そう。
けど、山田くんはそんなことできないと思う。
だって彼、小市民だもん。
勇者なんてもんになっちゃってるけど、元はどこにでもいる普通の少年。
だから、きっと世界の命運なんて背負えない。
今のうちに真実を知らせておいて、引くように促しておこう。
K2男の最後の意地部分
 




