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血35 終わりの先

 ご主人様の命令で、夏目くんの手伝いをする羽目になった。

 正直、夏目くんって苦手なのよね。

 スクールカーストの頂点にいたんだから、底辺にいた私から見ると雲の上の存在。

 あと、こっちの意見を聞かずにグイグイと命令してくるところが、なんとなくご主人様に似てる気がして。

 そのせいか、ステータスでは私のほうが全然上なのに、なぜか強く出られない。

 おかげでここ何日かはものすごくストレスのたまる日々だったわ。


 私がしたことは、帝国の一部の上層部を魅了して、傀儡にすること。

 その上で兵を集め、遠征の準備をさせた。

 これで、夏目くんが指揮をすれば、すぐにでもエルフの里に向けて進軍することができる。

 けど、帝国で一番強いと言われている魔法使いには手出ししなかった。

 遠目で見ただけだけど、人間にしては相当強そうだったから、私の魅了が通るかどうかちょっと自信がなかったの。

 まあ、その魔法使いも、魅了した上層部に命令を出させれば、間接的に動かすことができるし、何より夏目くん自身が王子様だもの。

 全部掌握しなくても大丈夫でしょう。


 そうして帝国を夏目くんの手中に収める手伝いをした後、私は数日ぶりに魔王城に帰ってきた。

 とはいえ、のんびりもしていられない。

 一晩寝て起きたら、次は神言教との会議に参加しなくちゃならないんだから。


 神言教との会議は着々と進んでいるらしい。

 メラゾフィスが私の代理として参加していたらしいんだけど、問題もなく淡々と進んでるって言ってたわ。

 その時の議事録みたいなものを見せられたんだけど、あいにく私にはちんぷんかんぷん。

 こういう政治っぽい駆け引きだとか、軍事作戦だとかの詳細だとかを見せられても、あんまりわかんないのよね。

 学園で一通り習ってはいるから、その気になって読み解こうとすればわかるんだけど、その気にならない。

 だって面倒なんだもの。

 こういう細かいことはわかる人に任せるのに限るわ。

 私はご主人様に命令されたことだけをこなしてればいいのよ。

 終わるまではね。


「うっ! 臭い!」


 扉を開けると、充満していた匂いが空気と一緒に鼻に飛び込んできた。

 匂いだけで酔いそうになるくらいの、濃いお酒の匂い。

 部屋の中に足を踏み入れ、窓を全開にして空気を入れ替える。

 それでも澱のようにたまった匂いを消しきることはできなくて、顔をしかめながらこの部屋の主へと視線を向けた。


「う、ううぅ」


 その部屋の主は、ベッドの上で青い顔をしながらうずくまっていた。

 誰がどう見てもわかる、二日酔いに苦しむ少女の姿があった。


「あなた、今日が神言教との会議だってわかっているの?」


 ベッドの上でぐちゃぐちゃになっている物体、もとい、フェルミナに声をかける。

 私の声が聞こえているのかいないのか、くぐもった呻きが聞こえるだけで、まともな言葉は出てこない。

 呆れて部屋の中を見回してみれば、机の上にたまった書類の束と、その反対側に積みあがった空き瓶が目に入る。

 お茶を飲みながら書類を片付けるノリで、酒を飲みながら仕事をしてたと一目でわかる。

 さらに床には空の瓶が無造作に何本も転がっていて、飲んだくれのダメオヤジの部屋のごとき様相となっている。


 何がどうしてこうなったの?

 少なくとも私が帝国に行く前、数日前まではフェルミナがお酒をたしなむなんて聞いたことも見たこともなかったわよ?

 それがどういう経緯があればこんな飲んだくれに進化するわけ?

 進化っていうか、退化?


 アリエルさんにフェルミナが来ないから様子を見てきてと言われて来てみれば、まさかの二日酔い。

 お酒で連想されるのはもちろんご主人様のことだけど、それにしたって真面目が服着て歩いてるようなフェルミナが、こんな痴態をさらすようになるなんて……。

 本当に何があったの?


「う、******」


 ピンポンパンポーン。少々お待ちください。



「気分はよくなった?」

「はい。あなたの手で介抱されるなんて恥辱の極みですけれど、おかげさまでだいぶ良くなりました。非常に癪ではありますが、ありがとうございます」

「そこまで言えるんだったらもう大丈夫ね」


 せっかくリバースしたものを処理してあげて、治療魔法までかけてあげたっていうのに、この態度。

 ムカつくわー。


「で? この惨状は一体どういうことなの? ご主人様にお酒百本飲みを強要されたとか?」


 どんな罰ゲームよそれ、と思わなくもないけど、あのご主人様のことだからないと言い切れないのが怖いところ。


「いえ。私自身がお酒でも飲んでないとやっていられなかっただけです」


 まだ気分が優れないせいか、フェルミナは珍しくストレートに弱音を吐いた。


「一つ、聞いてもいいですか?」

「何?」


 いつもだったら真面目に聞きはしないけど、いつにもまして弱っているフェルミナに、ついついちゃんと答えてあげなきゃいけないと思ってしまった。

 思って、しまった。


「ご主人様がシステムを終わらせた後、あなたはどうするんですか?」


 だから、フェルミナのその質問に、私はとっさに答えを返せなかった。

 いつもだったら嫌味まじりに誤魔化せたかもしれない。

 けど、真剣に答えようと思ってしまったがゆえに、私はその答えを言えなかった。

 答えが、ないから。


「すいません。くだらない質問をしました。準備をするので、魔王様やご主人様へもう少し待っていただけるように伝えてください」


 私の、答えがないことが答えだと、フェルミナに見破られた。

 部屋の外に追い出され、私は途方に暮れる。

 とりあえず、言われた通りにご主人様たちのところに戻ろうと歩き出す。

 けど、足は進んでいても、私の向かう先は見えてこない。


 ご主人様にしろ、アリエルさんにしろ、そして、京也くんにしろ、みんな終わりを見据えている。

 その終わりに向けて、行動している。

 私だってそうだけど、決定的に違うことがある。

 それは、終わりの先を見据えているか否か。


 ご主人様は終わりの先まで見据えて行動してると思う。

 アリエルさんは、終わりの先がないと、終わりが終わりだとして行動している。

 京也くんは、たぶん……。

 あの中にあって、私だけが終わりの先をなにも想定していない。

 できていない。


 システムが終わった後、私はどうなるのか?

 そのビジョンが全くない。

 今はご主人様の命令に従ってるだけでいい。

 けど、その後は?

 その後のことは、自分で考えて行動しないといけない。

 きっと、ご主人様はその時そばにいてくれないだろうから。


 どうするのなんて、私が聞きたい。

 私は、どうすべきなのかな?

血「ゲロイン歴は私のほうが長いのよ! 処理の仕方も完璧よ!」

白「……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 白たん、イロイロ責任取ってね☆彡 いやマジで(真顔
[良い点] 毎回作者の一言が面白いぜ!
[一言] 最後wwwちょっw真剣な雰囲気吹き飛んだわw
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