酒気
魔王視点
「うう。グスッ! ヒック!」
「ウェヒヒヒ!」
うずくまってグズグズと泣き崩れるフェルミナちゃんと、あらぬほうを向いて不気味な笑い声をあげる白ちゃん。
カオス。
どうしてこうなったんだっけ?
始まりは、そう、私がダスティンのところからお高い酒をパクってきたのが発端。
パジャマパーティーしようぜって白ちゃんに声をかけて、ついでにフェルミナちゃんも引きずり込んでささやかな飲み会を始めたんだった。
うん。
白ちゃんに酒飲ませるとか、自殺行為をどうしてしてしまったのかと自問自答したい。
いい酒をこっそり確保してるダスティンが悪い。
あとは、フェルミナちゃんが下手なことをしないようにっていう監視の意味もあったけど。
賢いこの子なら、白ちゃんが今回神言教に提案した内容が、いかに魔族にとって不利なことか、理解できる。
そして、今までのやり取りや、システムの存在などから、白ちゃんが魔族の味方でないということも。
白ちゃんは魔族を利用するために魔族陣営にいるのであって、利用価値がなくなれば魔族なんてあっさり捨てるだろうということをフェルミナちゃんは気づいたはずだ。
それは半分正解であり、半分間違い。
白ちゃんは確かに魔族を利用しているけど、捨てる気は今のところない。
捨てる気でいるのなら、裏切り者である第二軍団長がいまだに生きているはずがないんだから。
けど、フェルミナちゃんにそこまで知ることはできない。
だから、魔族にとって害となると判断すれば、白ちゃんに牙をむくかもしれない。
勝てるはずもないのに。
フェルミナちゃんの経歴は調べさせてもらった。
白ちゃんは捨て犬を拾ったような感覚なんだろうけど、この子は生まれも能力も高い。
生まれは名門貴族。
今はソフィアちゃんに骨抜きになっている同じく名門貴族の嫡男であるワルドくんの元婚約者。
幼少の時から衰退する魔族のために尽くすことを徹底的に教え込まれ、本人もそれを信条に生きてきた、生粋の貴人。
未来の魔族のためならば、それを害する存在を排除することにためらわない、冷徹さも持ち合わせている。
だからこそ、学園で魅了を振りまいているソフィアちゃんを危険視し、強制的に排除しようと行動したんだから。
まあ、悲しいかな、能力の圧倒的な差で歯牙にもかけてもらえなかったようだけど。
そんなフェルミナちゃんが、今回の提案を聞いてどう行動するのか、それが心配だった。
今回の提案は魔族のためにならない。
システム崩壊後の魔族の再建を視野に入れるのであれば、エルフの里にあるロストテクノロジーは人族に渡したくないだろうし、せっかく多大な犠牲を払って手に入れた砦をただ同然で返還するのも、防衛の観点から受け入れがたい。
フェルミナちゃんとしては何としてでも阻止したいだろう。
で、ソフィアちゃんとの件もあるし、短気を起こして白ちゃんを襲撃するんじゃないかと。
力を信奉する魔族の古い血筋は、頭がいいくせに短絡的な脳筋だからねー。
とりあえず様子見を兼ねて酒を飲ませてみたんだけど、まさか泣き上戸だったとは。
「ううぅ。どうしろっていうんですかー。私にどうしろっていうんですかー。私が何したっていうんですかー」
乾杯して一杯目を飲み干した段階からこの調子。
うなだれるその背景に、どんよりとした黒い影が見えるようだよ。
うん。
白ちゃんの下でいろいろやらされて、権謀術数の何たるかを学んだ模様。
加えて白ちゃんの力も知ってるから、どうにかしたくてもどうしようもないじゃん、という袋小路にはまってるみたい。
それを酔った勢いでグジグジと本人を前にして喋っている。
相当きてますなー。
で、その元凶はというと、さっきからなんか異空間からモザイクなしではお茶の間に放映できない物体を取り出して、口の中に放り込み、クチャクチャしてる。
わー、ソレナンダロウナー。
私の本能が今の白ちゃんに触れるのは危険だと、盛大に警鐘を鳴らしている。
ホントに何食ってんのかちょっと気になるけど、気にしたら負けだ。
負けたら下手すりゃ人生が終了するかもしれない。
お高いいいお酒を飲んでるはずなのに、味が全くわからないよ!
放っておいたら地面と同化しそうな勢いで沈み込むフェルミナちゃんと、現状この世界最大の危険生物と化している白ちゃん。
おかしいな。
パジャマパーティーってもっとこう、楽しいキャッキャウフフなものを想像してたのに。
どうしてこうなった?
そして、私は明日の朝日を拝めるのか?
教皇「私の酒が……」




