第三回非公式会談②
資料とにらめっこする教皇の様子を、内心冷や汗流しながら見守る。
乗ってくれるかなー?
ぶっちゃけ、かなり無理難題言ってる自覚はある。
計画はこうだ。
とりあえず、夏目くんに山田くんの周囲の人間を片っ端から洗脳させる。
んでもって、そこからさらに王国の上層部に近しい人間を洗脳。
その洗脳した人たちを使って、ポティマスに浸食された人たちを虐殺。
その首謀者を、山田くんに押し付けちゃえー。
という何とも「外道がー!」と叫ばれそうな計画です。
神言教にはその口裏を合わせてもらって、夏目くんが正しくて山田くんが犯人と宣言してもらう。
神言教は人族の中で強い影響力を持つ宗教組織。
そんな大組織が宣言すれば、事実はどうあれ各国はその宣言が正しいと認識する。
山田くんは国際指名手配みたいな感じとなり、ろくに身動き取れなくなるわけだ。
その騒動の時に捕まえちゃってもいいんだけど、それは臨機応変に対処しようと思う。
下手したら即刻処刑とかそんな流れになりかねないし。
山田くんは勇者になっちゃったわけだから、どうあっても魔王から遠ざけなければならない。
けど、殺すつもりもない。
殺しても、次の勇者が生まれるだけ。
そうならないようにするために、先代の山田くんのお兄さんを殺したというのに、余計な横やりが入ったから事態がややこしくなっている。
王国を転覆させるのは確定事項。
であるならば、そこにいる転生者をどうにかしなきゃいけない。
山田くんは騒動の中心にどうしても置かれてしまうから、この際仕方がないのでとことん被害者となっていただく。
で、その他の転生者には、いったん夏目くんに洗脳させてもらって、こっち側に強制的に来てもらう。
下手に山田くんの側につかれると面倒だし。
洗脳を解くのは、全部が片付いてからでも遅くない。
と、予定外の事態を丸く収めるためにいろいろ考えた末に計画いたしました。
イヤ、ホント、やってくれたよあのコンビ。
「あいつとイチャイチャしててムカついたから」
「お兄様にすり寄ってうざかったから」
正座させた犯人二人組はそんなにべもないことを言いやがったからね。
思いっきり私怨じゃねーか!
イヤ、うん。
なんかこの時点で人選ミスった気がしたけど、そもそも夏目くんも妹ちゃんもハプニングから仕方なく引き込んだ感があったわ。
そんな適当な人事でうまくいくはずがなかったのだよ。
今は吸血っ子監修のもと、きちんと指示通りに動いてくれてるはず。
はず!
吸血っ子もあれだからすんごい不安だけどな!
他に適任がいないんだから仕方ねーじゃん!
そんなわけでこの場に吸血っ子はいない。
代理でメラを連れてきてるけど、失敗したかもしれない。
吸血っ子の故郷が滅ぼされた事件、吸血っ子はまだ赤ん坊だった。
転生者で自我があるとはいえ、深い思い出を作る間もなく滅びたから、神言教への恨みというのは実はそこまで深くない。
昔意地悪されたから嫌い、みたいな感覚だと思う。
けど、メラは違う。
メラは吸血っ子の比じゃないくらい、神言教を恨んでるはずだ。
今のところ平静に見えるけど、内心どうなってるのかわからない。
吸血っ子みたいにわかりやすければいいんだけど、あんな単純なわけもなし。
メラのことだから、短気を起こすとは思えないけど、一応警戒しておく。
ハア。
当初の予定では神言教をこの件にかませる気はなかったんだけどなー。
まあ、全く想定してなかったわけでもない。
私が神言教と協力関係を結ぼうと思ったのは、人族に強い影響を持ってるから。
何かあっても、神言教の力を使えば丸く収めることができる案件があるかもしれないという、打算。
使える手は多いほうが越したことはない。
そんな保険的なつもりで声をかけたわけだけど、その判断は正解だったわけだ。
尤も、ここで教皇がうんと頷くかどうかはわからないけど。
こっちの不手際だし、何かしら要求されるんじゃないかと思う。
最悪、協力関係が崩れることも。
まあ、それならそれで構わない。
神言教にとっての悲劇が大きくなるだけだから。
問題があるとすれば、それを黒が見過ごしてくれるかどうか。
見過ごしては、くれないだろうなー。
ただ、そうはきっとならない。
教皇は私たちの協力を欲している。
エルフを打倒し、世界、ひいては人族を救うためなら、何でもする。
そう、何でもする。
それがたとえ人道にもとる行為であろうと。
必要と判断すれば、どんな外道にもなる。
それがこの教皇。
人の皮を被った、魔王とは別の意味での化物。
その化物なら、ここで私たちの手を振り払ったりはしない。
子飼いの転生者を切り捨ててでも、目的を達成しようとするだろう。
そして、もう一つ。
今回の件はこちらの不手際。
となれば、こっちが誠意を見せる必要がある。
それが、神言教にとってプラスになる提案であれば、食いついてくれるはずだ。
「もし、この案に賛同していただけないのであれば、洗脳した方々はすぐに解放いたします。ですが、賛同していただけるのであれば、此度の戦いで魔族が占領した砦の一部返還。そして、次に合同で攻め込むエルフの里の占領権を全てそちらにお渡しいたします。むろん、エルフの里付近に縄張りを持つクイーンタラテクトを撤収させたうえで」
私の促しに気づいたフェルミナちゃんが、神言教の面々に言う。
先の大戦で魔族が奪い取った砦を一部返還し、エルフの里を占領したらそれは全部やる。
エルフの里がある森には、魔王がクイーンタラテクトを放り込んでいるけど、それも回収するから好きにしてくれと。
人族にとって、奪われた砦を取り返すのは防衛の観点からいって相当うれしいはず。
そして、エルフの里がある森は天然資源の宝庫。
さらには、エルフの里には絶対に何かしらよからぬものがある。
それらすべてまとめてくれてやると言えば、それがどれだけ破格の条件か、教皇にはわかるはず。
同時に、私らがその後の人族と魔族のパワーバランスなんか考えてないということも。
砦を返還するということは、魔族にとって先の大戦の成果をドブに捨てるようなものだ。
加えて、エルフの里に攻め込んで犠牲を出そうとも、得るものはない。
完全に魔族にとってはただ働きをして死ねと言ってるようなもの。
対して人族は労せずして砦を取り返し、魔族の力を借りてエルフの里を攻め落とした後は、その全てを手に入れられる。
不平等にもほどがある。
ハッキリ言って、たかが小娘一人洗脳しちゃった償いとしては大きすぎる。
「この案に乗りましょう」
案の定、教皇は即座に返事をした。
だと思ったよ。




