270 そんな装備で大丈夫か?
神言教との二度目の会談が済んだ後は、忙しさで目が回りそうな日々を送ることになった。
魔王から押し付けられた第十軍の本格的な運用が始まってしまったせいだ。
名前はもともとあった第十軍だけど、実質地方領主の私設軍だったわけで、中身はほぼないも同然。
なので、新設するのと変わらなかった。
他の軍団から人材を引っこ抜いたりもしたけど、構成員のほとんどは新兵。
学園を卒業したばかりの初々しい兵士たち。
しかも、将来有望なのは大抵他の軍団に引き抜かれているため、集まったのはパッとしないのばっかり。
しかも、他の軍団から引き抜いたのも素行が悪かったり、実績の低いのばっかり。
ぶっちゃけいらないのを押し付けられただけ。
これを軍団としてまとめあげなければならないとか、ふざけてるにも程があるってもんよ。
そんなわけで、私は性根の腐った兵士諸君を、戦争大好きな戦闘狂に仕上げるのに奔走していたのさ。
最初の頃は無謀にも訓練の野営中に、私に夜這いをかけてくるようなバカもいたけど、私の真摯な説得に心を打たれて改心。
今では私に従順な兵士となってくれております。
目が死んだ魚のように見えるのは気のせい。
え?
フェルミナちゃんに夜這いかける奴はいないのかって?
察してやれ。
あの子は存在感が薄いんだ。
副軍団長で、私以上に活動してるはずなのに、何故か兵士たちに顔を覚えてもらえてないんだ。
かわいそうに。
ていうか、認識阻害の魔術使ってる私よりもフェルミナちゃんの方が影薄いってどういうこと?
実際フェルミナちゃんがいなかったらこの軍団、回ってないんだけどねー。
事務に兵士の訓練に物資の補給にと八面六臂の大活躍をしてるっていうのに。
なぜにそれで兵士に顔を覚えてもらえないのか。
第十軍の七不思議の一つですわ。
ちなみにその七不思議の一つに、何故か私の寝てる姿なんてもんがあるけど、気にしちゃいけない。
そんなこんなで一年ほど軍団のあれやこれで忙しく、その他のことにかまけている余裕がなかった。
エルフのことはアーグナーに任せっきりだし、神言教のことは魔王に任せっきり。
まあ、何でもかんでも私一人でやろうとしなくてもいいんだし、アーグナーも魔王も優秀だから不安はない。
魔王はほとんど何もしてないけど。
実際神言教とのやりとりは、エルフの里を襲う計画が本格始動しないことには進めようもないしね。
それを進めるには、まずは人族との戦争を終わらせなければならない。
私の第十軍は順調に育成が捗っているけど、他の軍団もちょいちょい入れ替わりがある。
まず、鬼くんが軍団長に就任した。
鬼くんは第十軍と同じで、ほとんど名前だけとなっていた第八軍の軍団長になった。
けど、私と違ってちゃんとした人員がいる。
エルフと繋がりがある領主を始末して、そいつらが管理していた私兵をよせ集めて第八軍にしちゃったのだ。
エルフと繋がりのある領主の排除にはもちろんアーグナーが一枚噛んでるんだけど、エルフに悟られないように表向き行動したのは鬼くんということになっている。
その功績を引っさげて、鳴り物入りで軍団長入り。
メラ以上のスピード出世である。
そのメラだけど、バルトから正式に第四軍を引き継いで第四軍団長となった。
バルト自身はメラのことを警戒しているようだけど、能力的にほかに任せられるのがいないっていう理由で、泣く泣く軍団長の座を明け渡した。
フリーになったバルトは、魔王直属軍の指揮と政務に追われている。
頑張れバルト。
負けるなバルト。
で、あとは第九軍を任されている黒。
なんだけど、第九軍ははっきり言って黒の私兵である。
うん。
竜やら龍やら。
管理者権限なのか、それとも私が知らなかっただけで、もともとできたのか、竜やら龍が人化したのが第九軍の人員。
魔族ですらねえ。
どう考えても他の軍団より強い、ていうか強すぎ。
これは下手に動かしちゃいけない連中だわ。
うちの第十軍と戦わせたら、確実に圧殺されてしまう。
ていうか、下っ端ですら下手したら他の軍団の幹部より強いし。
第一から第三までは健全な魔族軍。
第四は頭だけ吸血鬼だけど、それ以外はまともな魔族軍。
第五から第七もまとも。
まともじゃないのは第八以降。
まあ、これで大体軍団は整った感じかな。
もう少ししたら吸血っ子の世代が学園を卒業するので、その卒業生を軍団に組み込んで慣らしたら準備完了。
人員はそれ以上増やせない。
と、人員は出揃った感じなんだけど、ここで問題が一つ。
物資足りねえ。
主に武器防具。
今の魔族の状態から言って、食料の生産を最優先しなきゃいけない。
人口が減少してんのに働ける人材を徴兵してるから、生産分野に携わる人材が不足してるんだもん。
そのほとんどを食料生産に回さなければ、魔族全体を飢えさせることになる。
なので、武器防具はどうしても後回しになってしまうってわけ。
戦争準備してんのにそれどうなのよって感じだけど。
そんでもって、我が軍団は第十軍。
一から十まである軍団の第十。
つまり、最後。
物資の支給も最後に回される。
よって、まともなもんがない!
アーグナーのとこの第一軍とか立派な鎧だとか剣だとか配備されてんのに、こっちは中古品だとか粗悪品ばっか。
フェルミナちゃんがなんとかまともなものを支給してもらえるようかけあってるけど、優秀とは言えフェルミナちゃんも実績のない小娘。
上層部にはまともに相手してもらえず。
ならばと私が直接バルトに物申しても、ないものはないと突っぱねられてしまった。
バルトも目の下にどでかい隈を作りながら奔走して、それでもムリって言ってるんだからよっぽどなんでしょう。
ないものねだりをこれ以上しても仕方がない。
とは言え、装備がなければ戦えぬ。
私は生まれてこの方武器なんか扱ったことないけど、兵士に素手で戦えっていうのはさすがに酷ってもん。
なので、作れるやつに頼むことにした。
「というわけで、作って」
「いやいやいや。僕も忙しいんだけど?」
私の頼みを断るとは、鬼くん、君随分偉くなったもんだね?
お気づきの通り、私が頼んだのは鬼くん。
鬼くんはユニークスキルによって魔剣を精製することができる。
MPを消費するから無限に作れるってわけじゃないけど、材料なしで作れるっていうのは美味しい。
そんな凝ったもんを作る必要はないから、せめてまともな剣を作って欲しいわけですよ。
第八軍の人員、本当なら第十軍で引っこ抜いても良かったんだけどなー。
交換で私謹製の肌着(防御力増し増し)を第八軍にあげてもいいんだけどなー。
やってくれなきゃ私何するかわかんないなー。
と、粘り強く交渉した結果、鬼くんも最後は引き受けてくれた。
これで武器はなんとかなった。
防具はもう鎧は諦めて、私の糸から作った服を兵士全員に着せた。
ぶっちゃけそこいらの全身防具より防御力高いし。
画一の白い全身を覆う服を着せて、兵士を並ばせると、怪しげな秘密組織の集まりみたいに見える。
白いのは手抜きではない。
着色するのが面倒だったとかそういう理由では断じてない。
ないったらない。
こうして第十軍は準備をほぼ完了させた。




