39 蜘蛛VS蜂②
三日目、そろそろ寝ようかと思っていたところで、天の声(仮)からお告げがあった。
《熟練度が一定に達しました。スキル『苦痛耐性LV9』が『苦痛無効』になりました》
《条件を満たしました。スキル『苦痛無効』からスキル『痛覚軽減LV1』が派生しました》
また苦痛耐性が上がった。
しかも知らないうちに8から9に上がっていたっぽい。
多分また寝てる間に上がったんでしょう。
名前がレベル表記が消えて、無効に変わった。
いかにもカンストしましたって感じ。
カンストに到達したスキルは暗視に次いでこれで2つ目。
暗視は生まれつき高レベルだったっぽいから、自力でレベル10相当に到達したのはこれが初ということになる。
痛い思いをした甲斐があったのかどうかは微妙なところだけど。
まあ、派生したスキルが、本物の痛みを和らげてくれるスキルなんだと思う。
いや、苦痛耐性も偽物ってわけじゃないんだけどさ。
レベル1じゃ、たいして変化はない。
相変わらず背中の痛みは存在感を主張してる。
スキルレベルが上がればこの痛みもマシになるかもしれないし、寝てる間にスキルレベルが上がるのを期待しよう。
そういうわけで、おやすみ。
四日目。
ジリジリとスタミナも減り出したことだし、そろそろ行動しようと思う。
狙うのははぐれの蜂だ。
隊を狙うのはリスクが高い。
多分勝てなくはないと思う。
思うけど、ここは慎重になったほうがいい。
相手が複数だと、思わぬ事態が起きることもあり得なくはない。
その点、はぐれはやり易い。
はぐれは隊長蜂に統率されていないので、判断が曖昧だ。
昨日観察し続けたところ、隊では絶対に入っていかないような、狭い横穴に突っ込んでいっている個体もいた。
私が以前一度だけ巣で捕まえた個体も、はぐれが変な通路に入り込んで迷った結果、私のところまで来てしまったんだと思う。
もっとも、あの個体がこの場所から、前に私が巣を作っていたところまでたどり着けるとは思えないので、きっとこことはまた別の蜂の群れがあそこの近くにいたんだと思う。
見た感じはぐれはそこまで頭が良くない。
だからこそ隊に編成されず、はぐれに甘んじてるのかもしれないけど。
とにかく、はぐれだったら挑発すればこちらに突っ込んできてくれるかもしれない。
とはいえ、そんな不確定な運だよりの戦法でいくつもりはない。
私は昨日考えついた新兵器を取り出す。
玉のように固めた粘着糸を先端に取り付けた糸、名づけてクモーニングスター!
ふふふ。
これを腕力プラス操糸の力で空中に居る蜂にぶつけるのだ。
多分、というか、十中八九当たらない。
けど、それでいいのだ。
向こうに私が敵だと認識されればそれで。
あとは向こうの方から勝手に突っ込んできてくれる、はず。
当たったらラッキー、敵を引き付けることができたら成功。
あとは、うまい具合にはぐれが巣の近くに来てくれればいい。
昨日の感じから、はぐれも結構な頻度で巣の様子を見に来てたし、うまくいくはず。
《熟練度が一定に達しました。スキル『痛覚軽減LV2』が『痛覚軽減LV3』になりました》
待っている最中に痛覚軽減のスキルレベルが上がった。
あれ?
苦痛耐性に比べて随分レベルが上がるのが遅い。
寝ている間に5くらいまで上がってるかと思ったけど、あんま上がってない。
んん?
熟練度の貯まる条件が違うとか?
それともなければ、スキルによって必要な熟練度の量に違いがあるとか?
わかんないな。
けど、一応レベルが上がったからはっきりした。
痛覚軽減は痛みを和らげるスキルで間違いない。
おかげで背中の痛みがだいぶ楽になった。
背中の傷はかなり酷い。
初日に応急処置として操糸で糸を傷口に巻きつけておいたんだけど、見事にポッカリと穴があいていた。
人間だったら確実に死んでる大怪我だ。
私が生きていられるのは、蜘蛛だからなのか、魔物だからなのか。
どっちにしろ、生きてるのが不思議なくらいの大怪我だ。
注入された毒と思われるものを掻き出す意味もあって、操糸で傷口を掃除したときは痛みで死ぬかと思ったくらいだ。
できる限り早くレベルアップして、この傷をどうにかしないといけない。
このまま傷を放置しておけば、近いうちに確実に悪化する。
化膿、壊死、細菌感染。
操糸で洗ったとはいえ、清潔な水で洗ったわけでも、消毒したわけでもない。
もろもろの症状が出る前になんとかしないと。
そして、チャンスが訪れた。
はぐれの1匹がこっちに向かってくる。
周りに他の蜂はいない。
別の蜂がいた場合、仲間のピンチに駆けつけてくる可能性もある。
その心配がない今は、絶好のチャンスだった。
クモーニングスターをブンブン振り回す。
集中集中。
よーく狙って、そこだ!
《熟練度が一定に達しました。スキル『集中LV1』を獲得しました》
あ、当たった。
と、思うのと、何やらスキルを手に入れたのは同時だった。
おおう。
当たるとは思わなかった。
ぶん投げたクモーニングスターは、見事蜂の体に命中した。
すかさず操糸で蜂の体に糸が巻きつくようにする。
そのまま暴れる蜂を巣の中にご案内。
毒牙の餌食にする。
うん。
しょっぱなからこれ以上ないくらい上手くいった。
これは幸先が良さそう。
イヤイヤ。
調子に乗ってはいけない。
それで散々な目にあったんだしね。
ここは謙虚にいこう。
ひとまずは、第一歩を踏み出せたということで、久しぶりの食事をいただきましょう。
それでは、いただきます。