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血30 不快

 ああ、もう!

 どうしてこううまくいかないの!?

 さっきから私の言うことが全部裏目に出てるじゃない!


「一応、忍耐を取る以外にも方法は書かれているけど、おすすめはしないらしいね」


 焦りと苛立ちを感じる中、ラースがのんびりとした感じでそうのたまった。

 こいつ、誰のせいで私がこんな思いをしてると思ってるのよ!

 あー、イラつく。


 落ち着きなさい、私。

 私は誇り高き吸血鬼。

 こんなことで動揺してちゃいけない。

 とりあえず、気持ちを落ち着けるつもりで、ラースの言っている方法とやらを読んでみる。


『探知というスキルを取得し、これを発動させることでも外道耐性の熟練度を大きく稼ぐことが出来る。ただし、その場合、外道無効まで外道耐性を上げなければ魔法が使えなくなるので注意。最悪死ぬかもしれないので正直おすすめしない』


「これはダメ」


 ラースが不思議そうな顔をするけど、これは絶対にダメ。

 だって、あのご主人様が死ぬかもしれないって言うのよ?

 あの、ご主人様が!

 あんな規格外超生物が死ぬかもしれないなんて言う方法が、まともなわけないじゃない。

 あのご主人様が最悪死ぬかもっていうレベルなら、その他の一般人だったら百回やって九十九回は死ぬような方法に違いないわ。

 間違いない。


「確かに、魔法を使えなくなるのは不便だね」

「問題はそこじゃないわ」


 魔法がなんで使えなくなるのかはわからないけど、死ぬかもしれないということに比べたら屁でもないわ。

 あら?

 淑女として屁でもないなんて表現は使うべきじゃないわよね?

 響きもなんだか間抜けだし、威厳の欠片もない。

 今後口に出してこの表現を使うのはやめましょう。


「死ぬかもしれないって事?」

「ご主人様が死ぬかもしれないって表現で済ませているのは、それがご主人様基準だからよ。私たちパンピーじゃ、同じ方法をやった瞬間死ぬ未来が見えるわ」


 ええ、修行時代にご主人様のぶっ飛び具合は嫌ってほど味わいましたとも。

 アリエルさんが止めてくれなければ、何度死んでいたかわからない。

 ご主人様は一般人の感覚が欠如しているのよ。

 普通にできるでしょ? って感じで殺しにかかってくるんだから。


「そ、そう。じゃあ、この方法は無しってことで」

「賢明ね」


 改めて本の続きをパラパラめくって見てみるけど、外道耐性の熟練度稼ぎについてはそれ以上書かれていない。

 だとすると、やっぱり外道魔法を受けて熟練度を稼ぐのが一番じゃない。

 まったく、ご主人様も余計なものを書かないで欲しいわ。


「忍耐もダメ、探知もダメなら、やっぱり外道魔法を使うしかないわね」


 私の言葉に、ラースがものすごい嫌そうな顔をする。

 そりゃ、私だって嫌だけれど、それで耐性が獲得できるならそれに越したことはないじゃない。

 それに、残念ながら私には苦痛無効と痛覚無効がある。

 どんな攻撃だろうと、感じなければどうってことないわ。


「あなたもやったほうがいいわよね? 私も外道魔法取得するから、お互いに魔法を掛け合いましょう」


 リストから外道魔法を選択して取得。

 スキルポイントはまだまだあるし、取得しちゃって大丈夫でしょう。

 ただラースの外道耐性を上げさせるのなら、私の魅了を使えば済むかもしれないけど、下手をするとそのまま術にかけちゃうかもしれないし。


 ちなみに、念の為に忍耐も取得できるかどうか確認してみたけど、私ではスキルポイントが不足しているらしい。

 他の支配者スキルも確認してみたけれど、取得できるのは色欲のみ。

 その色欲にしても、取得するのに残っているスキルポイントの大半を使ってしまう。

 正直これを取得する気にはなれないわね。

 リスクと出費に対して、リターンが少なすぎるもの。


「さ、始めるわよ」

「本当にやるの?」

「何を当たり前のことを言っているの?」


 私の言葉に、ラースが大きな溜息を吐いた。


 それから、私たちは無言でお互いに外道魔法を掛け合っている。

 無言なのは、喋っている余裕がないから。

 正直、舐めてたわ。

 今、私たちが使っているのは、外道魔法レベル1の不快。

 その名前のとおり、相手に不快感を与える魔法。


 効果が地味すぎて使ったことはなかったけど、これ、嫌な魔法ね。

 常に黒板を爪で引っかいた音を聞いた時みたいな、耐え難い不快感が襲ってくるのだもの。

 しかも、苦痛無効も痛覚無効も全然意味がないし。


 ラースの様子を見れば、青い顔して鳥肌を立てている。

 私も似たような状態になっているに違いない。

 戦闘で役に立つかと言われると微妙な魔法だけど、使われたら戦意を挫くことはできるかも。

 地味にいやらしい魔法だわ。

 嫌がらせにはもってこいね。


「耐性、上がった?」

「まだよ」

「僕は外道大耐性レベル1に上がったよ」

「そう、おめでとう」


 短いやりとり。

 その後また続く無言。


 なんなの、この罰ゲーム?

 ご主人様にボコボコにされるのとはまた違った意味で苦痛だわ。

 大体からして男女が同じ部屋で無言で見つめ合って、お互い顔真っ青にしてるってどういう状況よ?


 しかも、レベル1の魔法だからか、それともラースが弱体化してるせいか、私の耐性が上がるの遅いし。

 元々外道大耐性レベル6と、結構高かったのも原因の一つかも。


 ラースは今、弱体化していてステータスが下がっている。

 鑑定してみたら最大値は減っていないので、そのうち回復していくとは思うけれど。

 あの黒とかいうのにやられたらしい。

 憤怒を解除するのに必要なことだったのだとか。


 けど、弱体化してこの不快感って、正常な状態でやったら発狂しそうなくらいの不快感なんじゃない?

 そう考えると弱体化してくれていてよかったのかしら?

 これ以上の不快感とか我慢できる自信がないもの。


 あら?

 私って、別に弱体化してないわよね?

 その私が普通に魔法使っているのだけど?


「ご、ごめん。限界……」


 ラースがぶっ倒れて、その日の熟練度稼ぎは強制的にお開きとなった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] > 効果が地味すぎて使ったことはなかったけど、これ、嫌な魔法ね。 この時スキルを取得してるのに、使ったことはなかったというのは、矛盾してると思います [一言] 若い男女、密室、2人き…
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