S4 魔法
Sシリーズを5話ごと投稿にします
意識を集中する。
体の中に満ちている魔力を認識する。
ここまでできて、スキル『魔力感知』が取得できる。
俺はそこからさらに発展し、体内に満ちた魔力を循環させる。
あたかも血液のように、体内を駆け巡る魔力。
スキル『魔力操作』の力も借りて、循環する魔力の速度を上げる。
どんどん速度を上げる魔力。
その一部を、手に集中させる。
手の中でも魔力は加速を続け、高密度かつ、高エネルギーに変貌していく。
あとは、この魔力に「魔法」という形を与えてやれば完成だ。
ただし、俺はそこまでやらない。
というかできない。
手に集めた魔力を徐々に体に戻していき、体内の魔力の速度も落としていく。
体内の魔力が落ち着いた頃、集中のために閉じていた目を開ける。
目を開けた先には、冷や汗を浮かべたアナの姿があった。
その隣にはクレベアが立っているが、こちらはアナと違って俺の異常さには気づいていないようだ。
「恐ろしい」
「そんなにすごいんですか?」
「すごい、という言葉が陳腐に聞こえる程度には。運用能力だけ見ても、姫様は今の時点で初級魔法使い、殿下に至っては既に中級の域に達しています。魔力の容量に至っては、お二人共あのお年で私を超えております」
小声の二人の会話も、この世界の言葉を覚えようと聞き耳をたて続けたおかげで手に入った、『聴覚強化』のスキルで丸聞こえだった。
「天才というやつですか」
クレベアの言葉に、アナは重々しく頷く。
天才、ね。
俺は別に天才なんかじゃない。
確かに生まれのおかげか、魔力量は普通より多いらしい。
けど、それ以外のことは、俺が前世の記憶を持って生まれたから出来たことだ。
今はまだ幼いなりだが、精神年齢は高校生だ。
正直赤ん坊の生活というのは、中身高校生の俺にとって暇だ。
その暇な時間に飽かして始めたのが、魔法を使うための修行だった。
アナという優れた教師がいたおかげもあるが、中身が高校生の俺にとって、子供では理解できないような難解な説明も苦ではなかった。
そのおかげで、俺は早々にスキル『魔力感知』『魔力操作』の二つを覚えていた。
今では両方ともレベル5まで上がっている。
暇なときにずっとやり続けていた成果だ。
普通はここまでできるようになるまでに、相当長い期間修練を積まないといけないらしい。
けど、赤ん坊の俺にとって時間は余るほどあったし、魔法というものに憧れもあって、暇さえあれば練習していた。
おかげで年齢に見合わないほどの魔法の才を周りに見せつけてしまったわけだ。
けど、俺から言わせると、真の天才は妹のスーだ。
俺は隣に座るスーの様子を見る。
スーは俺の真似をして、俺と同じように魔力の操作を行っている。
俺に比べればまだ練り込みも甘いし、循環する速度も遅い。
それでも、魔力をしっかりと制御し、操っている。
魔力の操作は言うほど簡単ではない。
俺もスキルが手に入るまでは苦労した。
そもそも魔力なんてものがない世界から来た俺が、魔力のなんたるかを理解するまでが大変だった。
普通、魔力を操作できるようになる年齢は、5歳くらいと言われている。
ちなみに、この世界の1年は411日だ。
俺やスーのように、赤ん坊の頃から魔力が操作できる人間はいない。
俺はまだ転生者という、精神的に大人だからという理由があるからいい。
けど、スーは違う。
スーは俺の真似をしてるだけだ。
それだけで、見よう見真似だけで、普通はできっこない魔力操作を会得してしまっている。
これを天才と言わずしてなんというのか。
正直、赤ん坊の頃からこれだと、将来が不安で仕方ない。
これだけの才能を持っているんだ、スーは将来とんでもない大物になるだろう。
対して俺は前世では平凡な高校生だ。
才能があるとは思えない。
今はまだ転生者というアドバンテージがあるからいいけど、そのスタートダッシュで離した距離が追いつかれたら、あとはもう置いていかれるだけだ。
そうなると、兄としての威厳が…。
いや、まだそうなると決まったわけじゃないし、そうなるにしてもまだまだ猶予はあるはずだ。
そのためにもできる限りスタートダッシュでさらなる差をつけておかないと…。
「ねえ、まほうなんでつかっちゃだめなの?」
俺はアナに魔法を使うことを禁じられていた。
やっていいのは魔力操作まで。
そこからさらに、各属性の魔法スキルを取得することで、初めて魔法を行使可能になる。
それは知っているけど、魔法のスキルを俺は持ってない。
どうやって取得するのかもわからない。
「殿下、それにはいくつか理由がありますが、一番の理由は危険だからです。魔法は強い力を持ちます。それだけ危険も大きいので、然るべき年齢にならないと、魔法は取得してはならないと決まっているのです」
アナの説明に理解はしたけど、納得はできなかった。
こんななりだが、俺の中身はその然るべき年齢に届いているはずなのだ。
とはいえ、それを知っているのは俺だけ。
仕方がないこととはいえ、歯がゆい。
「それに、鑑定石できっちりと適性属性を見極めなければなりません。自分に合わない属性の魔法を取得してしまうと、あとで苦労しますからね」
鑑定石というのは、ステータスを詳細に閲覧できる魔道具らしい。
簡易のものであれば安い値段で売っているが、適性属性などの情報まで見れる鑑定石となると、一部の有力者などしか所持していない。
もちろん王家にはそのクラスの鑑定石があるが、俺はまだ一度も鑑定をしてもらったことがなかった。
「殿下でしたら慌てずとも世界有数の魔法使いになれるでしょう。だからといって、慢心してはいけませんよ?」
「はーい」
慢心なんかできるはずもない。
今も追いかけてくる妹に追いつかれるんじゃないかとヒヤヒヤしてるんだから。
とにかく焦っちゃダメだな。
基本こそ奥義。
ここは魔力操作にさらに磨きをかけよう。
俺はまた魔力操作の練習に没頭していった。