鬼11 現状
白さんの好意に甘えて、僕は大きな屋敷に住まわせてもらうことになった。
それはありがたいのだけれど、正直に言うと慣れない。
こっちの世界では半分はボロ屋暮らしで、もう半分は憤怒に我を忘れて彷徨っていたし。
時折持ち主を失った、失わせた、空家となったところで寝泊りをすることはあったけど、ここまで立派な屋敷に泊まるなんてことはなかった。
というか、前世を含めてもここまで立派な屋敷を見たことがない気がする。
軽く城といっても過言じゃない大きさの屋敷だ。
ここ何日かで、屋敷の使用人に色々と聞くことができた。
できれば白さんから聞きたかったところだけど、彼女、滅多に口を開いてくれないし。
前世でも口数が多い方ではなかったけど、こっちではほぼ喋らない。
再会した時の異空間でのやりとりで、それは嫌というほどよくわかった。
白さんとコミュニケーションをとるのは、難しいと。
なので、屋敷の使用人の人たちにちょっとずつ質問をしていった。
本当はいっぺんに聞きたいところだけど、仕事がある彼らを長いこと拘束するのも気が引けた。
ただ、おかげでというか、この屋敷の使用人の顔と名前は覚えられたし、割と気安く話せる間柄になったと思う。
僕は一応客人扱いだけど、身分なんてないようなものだし。
客人というよりも、タダ飯食らいの居候だと思って接して欲しいと願い出たら、何人かの若い子はその通りにしてくれた。
おかげで色々と会話もでき、僕が知りたかったことも徐々にではあるけれどわかってきた。
まず、ここはどうやら魔族の国らしい。
いつの間にか、人族の国から出て、魔族の領土に足を踏み入れていたようだ。
ただ、それに気付かなかったのも仕方がない。
人族も魔族も見た目の変化はないし、生活様式にも大差はない。
言われなければ、魔族だとはわからなかった。
それに、僕のような亜人というのはほぼいないのだそうだ。
僕の中の魔族というと、イメージ的に悪魔の集団という感じだったけれど、翼や角の生えた魔族はいないとのこと。
つまり、僕は角を隠さないとかなり目立つだろうとのことだった。
もし外に出ることがあったら、帽子なりで角を隠したほうが良さそうだ。
あと、白さんの正体は屋敷の使用人の間でもよくわからないようで、様々な憶測が飛び交っていた。
魔王の側近、魔王の妹、魔王の影武者などなど。
魔王とは知り合いのようなことを聞いてはいたけれど、改めて他の人の口から聞くと驚く。
それも、数々の憶測から読み解くと、どうも魔王とはかなり近い間柄のようだ。
どことなく顔が似ているという意見もあるあたり、本当に近親者なのかもしれない。
ただ、あくまで噂の域を出ないので、本当のところどうなのかは本人に聞いてみないとわからないだろう。
白さんは謎が多い。
僕と同じ転生者だというのは確実だけど、こっちの世界で今までどうしていたのかは知らない。
少し、興味はある。
なにせ、明らかに僕よりも強いのだから。
僕は自分で言うのもなんだけれど、強い。
一時期は僕に勝てる存在なんかいないんじゃないかと思ったくらいには、強いはずだ。
自惚れでもなんでもなく、憤怒を発動した僕の強さはこの世界でも群を抜いていると思う。
その僕が、一目見た瞬間、勝てないと確信してしまった。
鑑定石を使うまでもなく。
なぜそう思ったのか、正直僕自身あまり良くわかっていない。
けど、それは勘というには、あまりにも確信に近いものだった。
あえて理由をつけるとしたら、あの異空間か。
僕も空間魔法をかじっている関係で、その空間がどれほど馬鹿げたものなのか、全部ではないけれど読み取ることができた。
どこまでも続いていくかのような広大な領域。
時間の流れさえ操られた空間。
あれで現れたのが見知った顔でなかったら、僕は神の御技だとでも思ったかもしれない。
神、か。
僕が思い出すのは、あの時の戦いで僕を倒した、黒い男だ。
憤怒を発動した僕のことを、まるで子供扱いするかのように簡単に打ち倒してしまった男。
憤怒を発動した僕のステータスはカンストしているはずだ。
それを、いとも容易く打倒するなんてことは、普通だったらできるはずがない。
白さんはあの男のことを神だといった。
なんで神様と関わりがあるのか、聞いてみたい気もするけど、素直に話してくれるかどうか。
噂をすればなんとやら。
僕の部屋に白さんが訪れた。
全身を白で統一した姿は一種独特な雰囲気で、元の美貌と相まってどこか近寄りがたい神聖さとでも言うようなものを醸し出している。
前世と変わったところといえば、髪や眉毛といったものから、肌の色までも白くなったこと。
それに、いつも目を閉じていることくらいか。
なんで目を閉じているのかはよくわからない。
けど、使用人の噂では、目を開くと魂を抜かれるんだとか。
僕が白さんを部屋に招き入れると、予想外の人物がその後ろから現れた。
「あんたは!」
どうやら向こうにとっても予想外だったらしく、目を見開いている。
あの時、僕と互角以上に戦った吸血鬼の少女だ。
白さんの言葉を信じるならば、同じ転生者で元クラスメイトの根岸彰子さんのはずだけど……。
出会い頭に魔法をぶつけてこようとするような、物騒な性格だったかな?
「あうっ!」
根岸さんの魔法は、白さんが止めた。
すごいな。
今の一瞬で魔法の構築に介入して、握りつぶしていた。
どんなスキルを使えばそんな芸当が可能なのか、僕にはちょっとわからない。
ちなみに、根岸さんの呻き声は、魔法を潰した白さんがついでと言わんばかりに回し蹴りを横腹に叩き込んだから出たものだ。
なんだか不自然なくらい、蹴りを食らった根岸さんの体が微動だにしなかったあたり、ただ蹴りを入れただけじゃなさそうだけど。
というか、根岸さん大丈夫?
体がその場でくの字に曲がったまま口から血をゴボゴボ吐き出してるけど。
絶対人体として折れちゃいけない骨とかが折れてるよね?
白さんはそんな根岸さんの様子を見て、おもむろに曲がった体を無理矢理元に戻した。
根岸さんの口からちょっと表現のしようのない、聞くに耐えない悲鳴が上がる。
聞いただけでSAN値が削れそうな悲鳴だ。
けど、すぐにその怪我が再生していくのは流石というべきか。
始まりからすごいことになっているけれど、このあとどうなるんだ?




