250 鬼ごっこ
吸血っ子が朱海を発動させる。
吸血っ子が開発した、スキルと魔法の力を合わせた複合スキル魔法とも言うべき技術。
赤いその液体は、吸血っ子の指示で自由自在に動かすことができ、触れるものを問答無用で溶かす。
吸血鬼としての能力である血霧と、強酸攻撃、水魔法を複合させたもの。
初めてあれを見せられた時は、ビックリした。
なんせ、三つものスキルをかけ合わせて、まったく新しい技を開発しちゃったんだから。
私では思いつきもしなかった。
はっきり言うと、スキルの使い方では私よりも吸血っ子の方がうまい。
私はスキルを同時に発動することはあっても、それをかけ合わせるなんて発想はなかった。
唯一毒糸だけはそれとも言えるけど、あれは毒攻撃の仕様であると言えばそれまで。
スキルをかけ合わせる、というのを試さなかったわけじゃない。
邪眼に毒攻撃が乗らないかとか。
けど、できなかった。
そして、できないことを、システムの仕様だから、と言ってそれ以上研究しなかった。
それを、吸血っ子は更に突き詰めることによって、なしてしまった。
私が諦めたものを、吸血っ子は完成させてしまった。
その意味では、吸血っ子は天才と言える。
まあ、それでも今の私には到底及ばないし、神化前でも負けなかっただろうけど。
その気になれば並列意思総動員で魔法同時発動しまくりでゴリ押しできただろうし。
ふ、私は新技の開発なんかする必要がなかったのだよ。
負け惜しみじゃない。
ないったらない。
対する鬼くん、お前はどこのワンアーミーだと言いたい。
○ュワちゃんか?
それともなければAUOか?
鬼くんの戦法は、ミサイル発射?
爆発する剣を異空間から取り出し、そのまま発射している。
どう見ても○ートオブバビロン。
片や触れれば即蒸発という液体の津波。
片や戦艦も真っ青なミサイル乱打。
もう、これ戦争なんじゃないかな?
神化前の私の戦いも、外から見たらこんなデタラメな感じに見えたんかな?
ていうか、森がしっちゃかめっちゃかになってるんだけど。
吸血っ子が朱海で鬼くんの攻撃をガードすれば、鬼くんが朱海の波を避ける。
一進一退の攻防。
やめて! 森のHPはもう0よ!
吸血っ子が影魔を召喚した。
影から生まれる赤黒い姿をした狼が八頭。
それが鬼くんに一斉に襲い掛かる。
流石の鬼くんもこれは避けきれず、影魔に気を取られている隙に、朱海をモロに頭からかぶった。
けど、そこまで効いてないっぽいなー。
あんまダメージなさそう。
回避能力だけじゃなく、素の防御力が高い。
ふむ。
泥仕合やね。
両方とも決め手に欠ける。
鬼くんは今のところ互角に戦っているように見えるけど、その実ジリジリと追い詰められている。
ステータスでは吸血っ子を上回っているっぽいけど、吸血っ子のスキルの多彩さに終始押され気味。
現に攻めあぐねているし。
対する吸血っ子も、攻めきれてない。
遠距離戦に徹しつつ、魔眼で鬼くんのHPを削っているっぽいけど、このまま続けたらいつまで時間がかかることやら。
うーん。
なんていうか、お互いに相手の強さにビックリして慎重になってる?
吸血っ子はノリノリに見えるけど、頭の中の冷静な部分では勝つ算段をしてるのかな?
謎なのは、鬼くんのほうか。
完全に理性ぶっ飛んでるのかと思いきや、戦いぶりを見る限りちゃんと考えて動いてるフシがある。
これ、理性まだある?
鬼くんが動いた。
多少のダメージ覚悟で距離を詰めようとする。
それを、吸血っ子は朱海、影魔、さらには魔法を多重発動して迎撃する。
迎撃しつつ距離を開けようとするあたり、完全に遠距離戦でカタをつける気マンマンだね。
とはいえ、鬼くんもなかなか。
体に纏ってるのは龍力かな?
吸血っ子の魔法があんま効いてないのを見るに、多分そう。
あれだけの吸血っ子の攻撃を受けても、まだピンピンしてる。
普通だったら消し飛んでてもおかしくないんだけど。
む。
いつまでたっても距離が縮まらないことに焦ったのか、鬼くんが賭けに出た。
異空間から剣が出現する。
数え切れないくらいに。
ちょっと鬼くんの異空間に干渉して中身を拝見してみる。
うん。
すっからかん。
残りは数本。
どうやら鬼くん、ストックしてあった爆発する剣を全部注ぎ込むようだ。
流石の吸血っ子もちょっと慌てた様子を見せる。
この量の剣が全部爆発するんだとすれば、吸血っ子でも避けきれないし食らえばダメージを貰う。
それでも死にはしないけど。
無数の剣が一斉に吸血っ子に襲いかかる。
晴れ、時々、剣の雨。
イヤな天気だわー。
さて、吸血っ子はどうするのかな?
吸血っ子が魔法を発動させる。
氷の魔法だ。
しかも、かなり高度なやつ。
あたりに輝く霧が発生し、それが赤く染まっていく。
これは、私も見たことがないな。
赤く輝く霧が剣の雨とぶつかる。
剣が砕け散り、輝く霧が霧散する。
すごいな、あれ。
赤くて輝いてるし、輝石をもじって輝赤とか名付けようか?
輝赤が剣の雨を飲み込んでいく。
それが巻き起こす爆風すらも、凍てつかせ、溶けさせる。
結果、剣の雨は全て防がれ、それどころか残った輝赤が鬼くんに迫る。
手持ちのほぼ全てを使った渾身の攻撃をあっさりと防がれ、鬼くんは呆然としていた。
気持ちはわからないでもないけど、戦闘中にそれはいかんよ?
輝赤が、慌てて防御に入った鬼くんをあざ笑うかのように、その右腕を持っていく。
土の壁を造って、炎で相殺してなお右腕を奪っていく威力。
恐ろしいわー。
なんつうもんを開発してるんだ、あの娘は。
しかも、私にも秘密で。
あれか?
いつか私に向けて使う気だったのか?
怖いわー。
!!
やっべ。
このタイミングで!?
鬼くんが憤怒を発動させる。
まあ、それはいい。
私が慌てたのは、もっと別のこと。
黒の封印が、解けた。