247 悪役令嬢に涙がちょちょ切れる
本日二話目
人族の学園で起きたもろもろの事件を裏で解決し、アーグナーの所に戻った。
話の途中で抜け出しちゃったからね。
なーんか、ものすっごく顔を引きつらせてたけど、何をそんなに怖がっているんだか。
この私が上機嫌でニコニコしている時なんてそんなにないっていうのに。
人の笑顔を見て引くとか、失礼な奴である。
魔族領で活動しているエルフに関しては継続してアーグナーに任せる。
先生がいないエルフの集団なんて、どうなっても知ったこっちゃないし。
それに、ポティマスが人族領で活動していることのほうが、エルフの現在の本命なんだと思う。
ポティマスの活動、それは山田君の祖国の事実的な乗っ取り。
勇者くんがいない間にこっそり王城に侵入して様子を確かめてみたけど、王様はじめ、重要人物全員にポティマスの魂の欠片が埋め込まれていた。
その気になれば、大量のポティマス軍団の誕生である。
妹ちゃんにはそのことは伝えていない。
伝えてもどうにもできないし。
私にもどうにもできないことが、妹ちゃんにどうにかできるわけがない。
そう、どうにもできない。
残念ながら、ポティマスがその気になるだけで、あの国はどうとでもあの男の好きにできる。
ポティマスに寄生された人達を救う手段は、今のところ存在しない。
利用される前に殺すくらいしかできない。
えげつない能力だわ。
私がかつて魔王に仕掛けていた攻撃、それを無差別にできるようなもんだもん。
まあ、無差別って言っても先生の頭を掴んだことから、肉体的な接触がなきゃできないっぽいけど。
それでも、防ぎようがないのが恐ろしい。
寄生された人が抵抗して、逆にポティマスの魂を打ち砕いてくれればいいんだけど、それは多分ムリかな。
この世界の人間は、総じて外道攻撃に弱い。
というのも、外道耐性が低いから。
これは、スキル云々というよりも、長らく外道攻撃に魂が晒されたことがなかったせいで抵抗力が落ちたのと、人々の魂自体の劣化が進んでるせいか。
外道攻撃に慣れてない理由は、外道攻撃を教会が禁止してるせい。
まあ、理由は外道魔法カンストさせると、禁忌が派生しちゃうせいだろうね。
教会にとって、禁忌はあまり広まって欲しくないようで。
教会にもそろそろ本腰入れて接触しないとなー。
そうは思うけど、色々とやることがあってズルズルと後回しになっている現状。
別に、見ず知らずの教皇とやらに会いにいくのが面倒だとか億劫だとかそういう理由では断じてない。
ないったらない。
それに、忙しいっていうのも本当。
アーグナーのところから戻った私は、吸血っ子のところに行く。
時刻はもう夜中。
だっていうのに、あの不良娘は私の分体の目をかいくぐってどっかに行方をくらませおった。
私の目を誤魔化すとか、どうやってんだ?
努力の方向性が変な方に向いてないか?
で、分体の目では見つけられなかったので、本体の目で辺りを捜索。
どうにもそれっぽいところを発見したので、突撃をする。
「きゃっ!?」
「え、うわ!?」
バタン。
扉を閉める。
私は何も見なかった。
なんということだ。
吸血っ子が、いつの間にか大人の階段を……。
私よりも先に登ってしまった。
なんだろう、別に悔しくもなんともないはずなのに、そこはかとない敗北感が。
ていうか、このために私の分体撒いたんかい!
無駄にハイスペックな能力使ってんじゃねーよ!
どうも複数のスキルをかけあわせたオリジナルの技術っぽいけど。
影魔法の応用で建物自体を覆ってるのか?
そんでもってそれを隠蔽で隠してる感じ?
それでも私の目を誤魔化すのは並大抵じゃないし、他にもなんかやってるかもしれない。
あー。
アホらしい。
ていうか、この手際の良さはもしかして、初犯じゃない?
時々短時間見失ってる時があったし、そうかも。
「それで、ワルド様の行方は?」
「申し訳ありません。見失いました」
ん?
何やら数人の男女が集まってヒソヒソと会話をしている。
なんとなく聞き耳を立てる。
「最後に見たのは?」
「私です。やはり、例の女と一緒でした」
「そう」
んー。
どっかで見たことあるような。
ああ、吸血っ子と同じ学園に通ってるお嬢さんとその取り巻きたちだわ。
名前までは思い出せんな。
神化前に記憶のスキルでも取っておけばよかったかも。
我ながら呆れるくらいザルな記憶力だわ。
「どうなさいますか?」
「見つからないのであれば、どうすることもできません」
「しかし!」
「よろしいのですか!?」
「このままでは、あの女にワルド様が……」
んー?
ワルドとかいうのがどこの誰かは知らんが、もしかしなくてもさっき吸血っ子と一緒にいたのか?
あー、だとしたらこのままでは、じゃなくてもうすでに、だわな。
「フェルミナ様、あの女をどうにかしましょう!」
「そうです! あの女が現れてから、ワルド様や他の高名な男性方がおかしくなられています!」
「目が虚ろな時もありましたし、あの女がなにかしているに違いありません!」
「このままでは、将来国を支えるべき方々が取り返しのつかないことになるかもしれません!」
あーあーあー。
これ、あの女って、吸血っ子のことだよね?
あー、うん。
なんというか、うちの子がごめんなさい。
どこで教育を間違えたっけなー?
それとも、男を落として下僕にするのは吸血鬼としては正しい姿なのか?
ていうか、あいつ前世はそんなキャラだったっけ?
イマイチ吸血っ子のことは覚えてないんだよなー。
「お黙りなさい!」
なおも言い募る取り巻きたちに、中心になっている令嬢がピシャリと言い放つ。
「どうにかできているのなら、とっくにやっています! ですが、あの女はそのことごとくを何事もなかったかのように受け流してしまうのです。あの女は本物の化物です。いいですか、迂闊なことはしないようになさい」
この頃吸血っ子の周りでなんか事件が多かったのはこのせいかー。
そりゃ、自国の王子様同然の身分の人が何処の馬の骨ともわからない、正体不明の女に骨抜きにされてたら警戒するわな。
それが、怪しい方法でとなればなおさら。
物理的に排除したくもなるよね。
でも、ダメだったと。
まあな。
うちの子はその程度でくたばるようなヤワな育て方はしとらんし。
「フェルミナ様、まさか」
「それ以上は口にしてはいけません。そして、あなたたちは何も聞かなかった。いいですね?」
無言で頷く取り巻き一同。
「もし、私に何かあった場合、この国を頼みます」
覚悟を決めたような、悲愴感たっぷりの令嬢。
ほむ。
多分この子、吸血っ子に排除されちゃうだろうなー。
あいつ、もう完全に思考が吸血鬼っぽいから。
人間だった時の当然と、今の当然が、だいぶ変わっちゃってることに本人気づいてない。
だから、無自覚にこういう事態を引き起こしちゃう。
むう。
この国の行く末なんか知ったこっちゃないけど、この令嬢は使えるかも。
あとで気が向いたら拾っておこう。
後日、件の令嬢は断罪された。
ので、もったいないから私が引き取った。
才能もそこそこありそうだし、支配者スキル取ってくれれば儲け物だね。




